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法改正を知っている荷主、実態を理解していない荷主〜施行1ヶ月の現場から〜

はじめに

改正物流法・トラック新法が施行されて1ヶ月余りが経過しました。

荷主側の現場では、確かに変化が起きています。バース管理システムの導入、ドライバー待機時間の確認、リードタイムの見直し。「このままでは運べない時代が来る」という危機感を口にする担当者も明らかに増えました。法改正の内容を一通り説明できる人も、以前よりずっと多くなったように感じます。

一見、業界は前に進んでいるように見えます。

しかし、荷主側を内側から見てきた立場として、ひとつ強い違和感があります。法改正を「知っている」荷主は確かに増えました。でも、その実態を「理解している」荷主は、ほとんど増えていないのではないか。

そして、この知識と理解のギャップこそが、施行1ヶ月の今、最も語られるべき問題ではないかと考えています。

知識はあるけれど、実態の想像力がない

「ドライバーが不足している」「2024年問題で物流が止まる」こうしたフレーズを荷主担当者が口にするのは、もはや珍しくありません。法改正の概要、多重下請け規制、運賃の標準的指標、960時間の上限規制。条文レベルの知識を持っている人は、確実に増えています。

ただ、もう一歩踏み込んで聞いてみるとどうでしょうか。

なぜドライバーが不足しているのか、構造で語れる人。
年間960時間の残業上限が、ドライバーの実生活でどういう意味を持つか、具体的に想像できる人。
「運べない時代」が来るとして、それが自社の調達にどう跳ね返ってくるかまで描けている人。

ここまで降りて考えている荷主担当者は、私の見る限り、驚くほど少ないのが現状です。

960時間というのは月平均にして80時間。長距離輸送のドライバーにとって、これを守りながら従来の物量をさばくのは現実的にかなり厳しい水準です。法律が想定している「守られるべき労働時間」と、現場が実際に回している労働時間の間には、まだ相当な距離があります。この距離感を肌で感じている荷主担当者は、ごく一部だというのが正直な印象です。

では、どうすればこのギャップは埋まるのでしょうか。

正攻法は、一度、運送会社の現場に身を置いてみることだと思っています。積み卸しや配送現場でもいいし、配車センターでの一日でもいい。机の上で資料を読むのと、ドライバーの一日を実際に見るのとでは、解像度がまったく違ってきます。実際、一部の先進的な荷主企業ではこうした取り組みが始まっていて、担当者の発注の出し方が明らかに変わったという話も聞きます。

知識を増やすよりも、想像力を取り戻すこと。一つの解になり得ると感じています。

バースは管理した。でも、待機時間は本当に減ったのか

この「実態理解の欠落」は、対応策にも現れています。

バース管理システムを導入した荷主は確実に増えました。「我が社は対応しています」と胸を張る企業も多いです。ところが、その同じ現場について運送会社側に聞いてみると、返ってくる声は意外なほど辛いものです。「システムは入ったけれど、本当の意味での待機時間削減にはつながっていない」これが運送会社側の率直な評価だったりします。

なぜギャップが生まれるのでしょうか。荷主側が「対応した」というチェックリストの消化を目的にしている一方で、運送会社側は「ドライバーの拘束時間が実際に減ったかどうか」を見ているからだと思います。

同じ事象を見ているはずなのに、評価が真逆になる。これも知識と理解のギャップの症状の一つだと感じています。

荷主が最も負担をかけているのは「短納期 × 物量波動」

では、荷主側を内側から見てきた立場として、運送会社に最も負担をかけていると感じる発注慣行は何か。

迷いなく挙げられるのは、短納期と物量波動による急な車両依頼です。

特に長距離輸送では、これが深刻な意味を持ちます。たとえば東京から大阪への輸送依頼を考えてみてください。前日に物量が確定するまで配車確定ができない状況で依頼を出すと、運送会社は前日まで「明日仕事があるかないか」が分かりません。これが当日確定ともなれば、当日まで分からないわけです。

そうなると現場で何が起きるか。

その日休む予定だったドライバーが、急遽大阪まで走ることになります。

長距離輸送のドライバーにとって、休日の予定が当日に潰れて片道500キロを走るというのが、どういう意味を持つか。家族との約束、休養、私生活の組み立てそのすべてが、荷主の発注タイミング一つで吹き飛んでしまいます。

ところが、依頼する側の荷主担当者で、ここまで想像して発注している人はほとんどいません。「とにかく注文がついた分は確実に運んでほしい」頭の中はそれだけになっている人が多いというのが、正直な実感です。

この短納期×波動発注は、運送会社にとって連鎖的な負担を生みます。安定的な収入計画が立てられない。自社車両だけでは対応できず下請けに頼らざるを得なくなる。下請けを使えばマージンが削られ、運賃水準はさらに下がる。そして現場では長時間労働とドライバー離職が進んでいく。

「運べない時代が来る」と荷主が危機感を語るとき、その「運べない時代」を作っているのは、実は荷主自身の発注慣行ではないかそんな見方も成り立つように思います。

ではどうすればいいのか。

ここで必要なのは、発注プロセスそのものを設計し直すという発想だと考えています。物量が固まってから配車依頼を出すのを当たり前にせず、確度のある内示を早めに出す。繁忙期の波動は、可能な範囲で事前に共有する。突発的な依頼は「あって当然」ではなく「例外」として扱う運用に変える。

すべて一気にはできなくても、たとえば「当日依頼の件数を前年から何%減らす」という目標を立てるだけでも、現場の景色は変わってきます。発注の出し方を自社のKPIに組み込む。ここまで踏み込んだ荷主はまだ少数派ですが、本気で運送会社との関係を持続可能なものにしたいのであれば、避けて通れない論点だと思っています。

そして最大の盲点「前年比」という評価軸

ここまでの話以上に、私が荷主側の構造的な病だと感じているのが、運賃の評価軸です。

運賃交渉の現場で、何が判断基準になっているか。多くの企業で実際に使われているのは「前年比」です。「今年は前年比で何%上がりました」「いえ、これ以上の上げ幅は社内的に通りません」こうしたやり取りが、今も普通に交わされています。

本来、運賃交渉で問われるべきは「依頼している業務に対して適正な対価が支払われているか」のはずです。距離、時間、荷扱いの難易度、ドライバーの拘束時間、付帯作業の量。これらを積み上げて「適正な水準」を考えるのが筋だと思います。

ただ、現実には「適正運賃」という指標は分かりにくいのも事実です。何をもって適正とするのか、業界としても合意がない。一方で「前年比」は、誰が見ても一目で分かります。

そして、ここに企業内部の評価構造という、もう一つの問題が重なってきます。

多くの企業の収支見通し報告や業務概況報告には「前年比」という項目が組み込まれています。輸送費は企業によっては費用構造の中でも大きな比率を占めますから、担当者として、そこの数字を悪化させたくないと思うのは、ある意味で当然の心理です。「適正運賃」という分かりにくい指標よりも、目の前の「前年比」に意識が向いてしまう——これは個々の担当者の怠慢というよりも、企業の評価フォーマットそのものに組み込まれた構造問題だと感じています。

問題は、この評価軸を続ける限り、元々運賃が安い業者は、なかなか適正水準に届かないということです。

前年比という相対評価では、過去の水準そのものが妥当だったかは問われません。安く請けてきた業者は、安いまま「前年比+数%」で更新され続ける。法改正が運賃の「下限」を意識させたとしても、評価軸そのものが変わらなければ、構造はびくともしません。

多重下請けの底辺に滞留している業者が抜け出せないのも、根っこはここにあると思っています。

では、どうすればいいのか。

理想を言えば、前年比という評価軸そのものを社内で問い直すことです。輸送費を単なる「コスト項目」として扱うのではなく、「調達品質の指標」として捉え直す。安く調達できているからといって、それが本当に持続可能な調達なのかを問う。

現実的な第一歩としては、一度だけでもいいので、適正運賃の積み上げ計算をやってみることだと思います。距離、時間、付帯作業、ドライバーの拘束時間。これらを掛け算で積み上げてみて、現状の運賃とのギャップを可視化してみる。そのギャップが、自社が運送会社に強いている「無理」の大きさです。

数字で見えるようになって初めて、議論のスタートラインに立てるのではないかと思っています。

大事なのは「理解した上で、対等に交渉する」こと

ここまで、荷主側の課題をかなり厳しめに書いてきました。ただ、誤解されたくないので一つ付け加えたいことがあります。

私は、「運送会社の言い分を全部飲むべきだ」と言いたいわけではありません。

業界が厳しい状況にあるとはいえ、運送会社からの要望をそのまま受け入れていては、ビジネスパーソンとしての資質が問われます。荷主側にも荷主側の事情があり、社内で説明責任を負っています。相手の立場を理解した上で、しっかり交渉するこれこそが、本来求められている荷主担当者の振る舞いだと思っています。

ここで効いてくるのが、最初に書いた「実態の理解」です。

たとえば運賃交渉の場面で、前年比の話題が出たとします。そのときに「うちの社内でも前年比でコスト管理しているので、その軸でしか動けないんです」と言ってしまえば、運送会社側からすれば「結局この人も同じか」で終わります。

ところが、同じ前年比の話を切り出すにしても、「実はうちの社内でも前年比で評価される構造があって、そこは御社と一緒なんです」と一言添えるだけで、相手の受け取り方は変わってきます。「この担当者は、こちらの事情も分かっている」その認識が、交渉のテーブルの空気を変えます。

その上で「だからこそ、前年比という軸の中で、どう折り合いをつけられるか一緒に考えたい」と続ければ、運送会社側からも前向きな提案が出てきやすくなります。

これは些細なテクニックに見えるかもしれませんが、実は本質的なことだと思っています。相手の立場を理解している、ということを言葉と態度で示す。それができている荷主担当者と、できていない担当者では、運送会社側からの信頼の蓄積がまったく違ってきます。そしてその信頼の蓄積が、いざ繁忙期に「無理を聞いてもらえるかどうか」という、最後の最後で効いてくるのです。

理解と交渉は、対立する概念ではなく、両立すべきものだと考えています。

法律は変わった。荷主は変われるのか

トラック新法は、運送会社を守るための法律です。多重下請け構造への規制、運賃の標準的指標の提示、待機時間の改善要請どれも運送業界の長年の課題に踏み込んだ、意義ある一歩だと感じています。

ただ、施行1ヶ月の現場を見ていて、改めて思うことがあります。

本当に変わるべきは、法律ではなく、荷主側のほうではないか。

法改正の知識を持つことは、もちろん大事です。バース管理を入れることも、リードタイムを見直すことも、確かに前進です。けれど、そこで止まってしまえば、運送会社側から見える景色は何も変わりません。

問われているのは、なぜそうすべきかを実態のレベルまで降りて理解することだと思います。960時間の上限が、ドライバーの生活でどういう意味を持つのか。短納期発注が、当日休む予定だった一人のドライバーをどう動かしてしまっているのか。前年比という評価軸が、運送会社の構造をどう固定化しているのか。

ここまで降りて考えられる荷主担当者が、業界全体でどれだけ増えるか。トラック新法が機能するかどうかは、実はそこにかかっているのではないかと思っています。

法律は荷主に直接の義務を多くは課していません。だからこそ、荷主側の「理解の深さ」が試されているのだと思います。施行1ヶ月の今、語られるべきはそこではないかと考えています。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

私は「ロジた」という名前で、物流現場の実態を発信しているメディア「物流現場ラボ」を運営しています。
経歴を簡単に紹介させてください。
キャリアのスタートは、大手宅配便会社でのアルバイトドライバーでした。そこから正社員として登用され、宅配便会社の輸送部門で長く現場経験を積み、最終的には約1,500名規模の大型ターミナルの管理者まで務めました。荷物が全国を流れていく仕組みを、文字通り体で覚えてきた20年間でした。
その後、現職となる大手メーカーの物流部門に移り、荷主側の立場で現場運営、本社での物流企画、大規模な物流拠点の移転プロジェクトなどに携わってきました。
この記事で「荷主側を内側から見てきた」と書いてきたのは、こうした背景があるからです。運送会社の現場と、荷主側の調達・物流企画の両方を経験しているこの立ち位置から見える景色を、できるだけフラットに発信していきたいと考えています。
発信している場所
📝 note(物流現場ラボ)

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