見出し画像

⚪️企画作品|推理作家

 新作を書いている。

 ナイスな時計をめぐる推理小説である。

 ナイスな時計が消え、持ち主がそれに気づいて騒ぎ立てる。それが事件の端緒であり全てである。しかしナイスな時計とは何か。

 それは最後まで分からない。持ち主がそう言うのだからナイスなのだろう。スイスではない。ナイスだ。つまり、これはある種のマクガフィンだ。

 ナイスな時計がない!ナイスな時計がない!

 事件は東名の朝の渋滞のなかで起きる。海老名SAを先頭に10キロの渋滞、車は全く動かない。つまり密室とも言える状況だ。

 目撃者は語る。ガードレールを飛び越えて下道のほうに向かって歩く人影を見ました。はい。あ、下の方へ。影が。抜道がありまして。

 私はデビュー以来一貫して「抜道」のトリックしか使わないことに強いこだわりと自負を持っている。抜道作家といっても良い。そういうと何か不正を働いているように聞こえるかもしれないが断じて違う。申告漏れもない。今時めずらしいほどの至極まともな抜道作家なのだ。

***

 自己紹介が遅くなったが私の名前は王総司である。小学生のときのあだ名は大掃除、中学生では大嘘寺、というとまるで大嘘つきのように聞こえるかもしれないが断じて違う。学級新聞に推理小説を掲載していた私は、あるとき、語り手の住職自身が犯人であるというトリックを使った。使ってしまった。そして、そうなった。まあ、ある種の勲章である。

 ちなみに高校ではカワウソ氏、大学ではワンツォンスーと呼ばれていた。

***

 事件を担当するのはダレノガレ刑事だ。

「格付けにGACKTっていう人のパートナーで出ることになったんだけど、GACKTって知ってる?」

 それが彼女の第一声だ。

「わたしの彼がさ、鑑識官なんだけど、そう、最近付き合いはじめて、やだあ、言わさないで! その彼が言うには神だって、GACKT神だって言うの。そうなの? 嘘なら逮捕するけど?」

 今日も事件は迷宮入りだ。

🔵803文字


#3つのお題に空想のひらめきを
#透明な朝の音
#明日へ歩く影
#消えない砂時計
#風まかせ文芸部
#抜道
#毎週ショートショートnote
#大嘘寺
#カワウソ字
#ダレノガレ刑事

いいなと思ったら応援しよう!