見出し画像

⚪️企画作品|宝島

 きみにはぼくの知らない過去があり、ぼくにはきみの知らない過去がある。

***

 だってまだ、出会ってさえいないのだから。

***

 だから今ぼくはきみにとっての過去を生きている。きみはぼくの未来を生きているんだ。

***

 ぼくらは出会った。と仮定してごらん。ようやく辿り着いたんだ。そう思ってみて。

 海を越え、空を渡り、多くの敵を蹴散らして、そう、幾多の困難に勇者の足跡を残してきたのだ。まさに伝説級の冒険の果てに、空っぽの宝島でぼくらはぼくらを見つけた。お互いにね。

***

 さあ、それぞれの冒険を語ろう。

 火を吐くドラゴンを退治したとか。ダンジョンからの脱出、悲しい別れやなんかについて。

 生々しい現実、どうしても言葉にできない想いは譬え話にしたって構わないんだ。知り合いの知り合いってことにしたって誰も咎めやしない。

 とにかくぼくらは、日が昇ってから沈むまで、見るべきものは海と空ってだけの丘で、まだキスをするには早すぎる。

 ゆっくり、ゆっくり慎重に。

「ほら見て、アホウドリ」

 きみが叫ぶ。

 ああ、もうそれだけで好き。

***

 そうやっていくつもの太陽と月を、ぼくらは未来へと、未来へと遡っていく。

 空っぽの宝島に家を建て、井戸を掘り、田畑を耕して、ねえこの木の間にハンモックを掛けようよ、そうねそうしましょう。

 ぼくらはまるで後から拵えた幼馴染のようになって、そうしたら、いよいよキスをして結ばれよう。

***

 もしきみと出会ったら、必ずそうしよう。

(おわり)

🔵622文字


#毎週ショートショートnote
#幼馴染はじめました
#創作お題30
#月

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集