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⚪️掌編小説|姫様の弓兵部隊

第一部(2149文字)


 その昔、国を追われた姫様がいた。

 詳しいことは分からないし別にそれほど興味もないのだけれど、姫様とはかつて一度だけすれ違ったことがある。だからその話をしようと思う。

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  その前にちょっとだけ寄り道をさせて欲しい。

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 姫様は正規の国王軍とは別に私設の軍隊を所有していた。それを根拠にクーデターを疑われ、結果的に追放されたと言われている。

 だがそのような計画があったとは思えない。実際にクーデターを起こせる規模だったかどうかと言えば──

 ただ、どうあれ規模は問題ではない。起こし得ると想定されるか否かである。そこに姫様の意志はない。

***

 姫様の軍には体験入隊したことがある。

 これが武器・防具を扱う我が社に思いのほか良い影響を与えるのだ。そのことに気づいたのは二度目の体験入隊のときで、入隊と同時に何故か株式が買われ時価総額が上がるのである。

 どうして私の体験入隊ごときで買い注文が増えるのか。投資家の考えることは謎だ。

***

 体験入隊自体は単なる好奇心と、ある意味市場調査を兼ねたレジャーのようなものだ。

 また、我が社にも魔法具の取り扱いがあるので魔法師とのコネを得たいという思惑もあった。

 だが何といっても一番は、女の子だけの弓兵部隊があるという噂を耳にしたからだ。

 まだお目にかかったことはないが、是非とも我が社で製作する新作の胸当て(合皮製)を使ってもらいたい。あわよくば公式アンバサダーに、いやその前に、まずは念入りに採寸を──

***

 私は体験入隊を繰り返した。

 気が向いたときに。1クール二週間で、2クール務めれば修了証がもらえる。その間、我が社には抜き差しならない経営上の空白が生まれはするけれど、まあ私も、無論投資家も気にしはしない。

 修了証は遂に十枚を数えるまでになった。

 以下は私が体験入隊の過程で知り得た極めて秘匿性の高い内部情報である。

***

 我が第百三十八シマウマ部隊は歴史ある体験部隊である、とドワーフの隊長が言った。

 とびきり荒っぽい戦争屋の集まりなのだ。

 それは何とも勇ましいことです。でもいま体験部隊って言いましたよね。

 体験部隊に戦争屋がいちゃいかんのか。

 いいえ。そんなことはありませんけど、例えばどのような荒っぽいエピソードがあるのかと思いまして。ひとつふたつ聞かせてもらえませんか。

 うむ。ではとびきり荒っぽいのを教えてやろう。

 お願いします。

 これは何人もの男たちが歯を失ってきた凶悪なルーレットだ。ジェリービーンズの中に一個だけシーグラスが混ざっているという、名付けて、ジェリービーンズのロシアン・ルーレット、どうだ!

 なるほどー。

***

 ある日、隊員同士が言い争いをしていた。

 調べたほうがいいよ。
 いや、調べないほうがいいよ。
 調べたほうがいいって!
 絶対、調べないほうがいいよ。
 調べたほうがいいに決まってるじゃん!

 どうしたんだ、揉め事か?

 いや、何でもない、こいつが大袈裟で。
 武器を横流ししてるやつがいるらしい。

 それは調べたほうが良いだろう。

 ダメ、ダメダメダメダメ。
 だから何でだよ。

 分かった。じゃあ私が勝手に調べておこう。君たちの話は聞かなかったし、私が勝手に思いついて調べるだけだ。それならどうだ?

 うう……

 こうしよう。私は何も調べたりはしないけれど、もし仮に調べるならどこを調べれば良い?

 国王の正規軍らしい。
 うわ、しー!

 そうか、君たちは何も喋っちゃいないし私も聞いちゃいない。私は何も調べないし、調べなかったことを君たちに伝えたりもしない。良いね?

***

 火山が噴火したときのことだ。

 大噴火だったが国民は何も知らされていない。だからこれは、多くの人にとって初耳だろう。

 私が知っているのは体験部隊も現場に駆り出されたからだ。しかし何もできなかった。噴火とそれに伴う災害を鎮圧したのは姫様の魔法軍だった。

 私は他にすることもないし、おそらくは一番下っ端のまだあどけない見習い魔法師に声をかけた。

 きみかわいいね。

***

 言うまでもなく、横流しの件は何も調べなかった。調べなかったがゆえに何も分からなかった。

 ただ、国王軍の武器庫が空っぽなのは確かだ。

 何も調べちゃいないが、ふらっと覗いてみたのだ。まあ、たまたまかもしれない。大方どこかでひなたぼっこでもしているのだろう。何せ王様の武器である。

***

 そう言えば市中で姫様の噂を聞いたことがあった。私が覚えているのは、姫様がまだ幼い頃、将棋のチャンピオンを打ち負かしたときの話だ。拳骨で。

 だが姫様のすごいところはその後だ。研究に研究を重ね、一年後に今度は本当に将棋で負かしてしまったのだ。

 チャンピオンは屈辱だっただろうか。否、その唯一の負けをとても大切な思い出として、むしろ勲章のように、棋譜を一から暗誦するらしい。

***

 これも人伝に聞いた話だけれど、姫様の魔法軍は最高司令官に姫様を戴き、十名とひとり(見習い)の魔法隊、近衛隊、ふたりの竜騎士、二十名の騎馬隊によって構成されているという。

 私たち体験入隊組は有事の際に予備兵として招集される。歩兵であり、斥候であり、戦士であり、医療チーム、後方支援(ロジスティックス)である。

 あれ? 弓兵ちゃん部隊は?


第二部(1509文字)


 姫様が追放されたのは大噴火の直後だった。

***

 体験入隊の新規募集は廃止され、体験部隊も解散となって、私は十一枚目の修了証を得ることなく放っぽり出された。

 それでも我が社の株価は連日のストップ高を記録していた。

 市中のあちこちで戦争の噂が絶えなかった。闇市では王家の紋章入り武具が二束三文で売り買いされている。それらは国外から複数のルートを経由して輸入されたものらしい。

***

 何となく買い占めてみた。

***

 辺境の森に足を運んだ。

 国王の権力が及ばない非武装地帯であり、迷いの結界が張られている。何かが起こるとしたらおそらくはここからだろう。

 その先には行かない方が良いよ。

 呼び止められた。

 私は足を止め、ゆっくりと振り返った。そこには四人の可愛い子ちゃんがいた。

***

 選べない。

 それぞれが、みんな、美しすぎて誰かひとりを見つめるなんて、ああ、到底出来やしない。

 スラリと伸びた手足、思い思いの装いはそれで本当に敵の攻撃から身を守れるのかと疑いたくなるほど軽やかで、明け透けで、透き通るような肌もあらわだ。

 おへそを出している娘もいる。黒髪の娘も。みな等しくたわわに実ったおっぱいと、クイーバーを身に付けている。胸当てはしていない。

 姫様の弓兵ちゃんだ。

***

 採寸の話を今ここで持ち出すべきか迷ったが、取り敢えず、道に迷ったことにした。もう少し、会話を楽しみたい。

 この先に何かあるのでしょうか。

 迷いの森だよ。
 戻れなくなりますよ。
 無闇に近寄らないことね。
 引き返すなら安全な場所まで送るよ?

 かわいい。

 おへその下のバックルに、髪留めやブローチやバングルにも姫様の五芒星があしらわれている。クロスボウは今のところこっちには向けられていない。

***

 風鈴?

 ふと空気が変わった。

 女の子たちの表情が一層柔らかくなり、と同時に、私は背後にとても強い圧を感じた。

 旅装束に身を包んでいるが一見して高貴な方と分かる。その立派な佇まい。もう二度と、決して見間違うことはないだろう。それはあの時、魔法師見習いに扮していたあの少女だった。

 姫様。戦争が始まります。
 ええ。そのようね。
 どうなさるおつもりで?
 この国は腐り切っています。
 姫様の境遇がその証かと。
 何もしなければ一気に攻め込まれて占領されてしまうでしょう。わたくしの魔法軍だけで敵を排除できるかどうか。そうすべきかどうかさえ。

 姫様これを。
 これは?
 国王軍の弱体化は甚だしく、武器の横流しが横行しています。闇市に出回っていた武器を買い占めておきました。今は姫様の第百三十八シマウマ部隊の武器庫に眠っています。これは倉庫の合鍵です。本鍵はドワーフの隊長が守ってくれています。
 では預かっておきましょう。
 私たち予備兵は常に姫様と共にあります。

***

 カッコつけすぎた気がしないでもない。

***

 働きに感謝します。
 身に余るお言葉です。
 叶えて差し上げられるかどうか分かりませんが、なにか望みがおありならどうか仰って。
 ではお言葉に甘えて。ひとつ。実はその、いろいろあって奥歯が一本欠けちゃいまして。可能でしたら姫様の魔法でチョチョイ──あ。
 お安い御用ですよ。

***

 弓兵ちゃんたちに送らせるという姫様の申し出を泣く泣く固辞した。私は大丈夫ですからどうかみなさんは姫様のおそばに。言いながら後悔が追いかけてくる。一世一代の痩せ我慢だ。

 そう言えば、以前あなたがかけてくれた言葉、とっても嬉しかったですよ。

 私はただ、もう、真っ赤になってしまった。

***

 私の話はこれでおしまい。

 その後この国がどうなったか。姫様と弓兵部隊の活躍を知らぬ者はいない。

(おわり)

🔴3658文字

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調べないほうがいいよ

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