芋出し画像

🟣短線小説癜玙 完党版

行軍3日目1734文字


 芋枡す限り䞀面の癜玙だ。

 歩行速床は10䜎䞋、方䜍誀差は2.0km前埌だろう。倪陜は右手前方、地平線から1°の䜍眮にある、䜓感枩床の䞊昇をはっきりず知芚できる。今日も日没ギリギリたで歩こう。

 ミニヌはただ眠っおいる。

 がくは起床埌すぐにゎヌグルを装着しお、䜓をさすり、䌞ばし、取り急ぎスコップで癜玙を掬いコッヘルに詰め蟌んだ。固圢燃料ふた぀で沞隰たで玄10分。朝食甚のレヌションず珈琲を準備しながら同時に着替えお癜いブヌツを履く。

 癜いザックに癜い戊闘服、癜いキャップ、癜いオヌバヌゞャケット、アサルトラむフルもマガゞンも癜い。

「ねえミッキヌ、今日はあたしがラむフルを担ぐ」

 シュラフから䞊半身を出しお、膝を抱えた錻声が蚀う。敵が来たらあたしが撃぀んだから。バン

 ミニヌにマグカップを枡す。

「敵を芖認しおもその時点で即座に有効射皋に入るわけじゃないんだ」
「どうするの」
「距離を取っおやり過ごす」
「ふうん」



 食埌出発準備を敎え癜玙に深さ50cmほどの穎を掘るずがくたちはそこに排尿排䟿しお埋め盎した。さらに䞊から癜いペむントスプレヌを噎霧しお隠す。少しの䌑憩を挟みながら手元の時蚈で4〜5時間歩きたい。

「ミニヌ」
「おっけ」



 癜玙にはがくたちがその違いを認識できるものだけで50皮類以䞊あるらしい。いた歩いおいるのはツルッずした硬質のもので、ブヌツをゎツゎツず突き䞊げおくる。

 がくはコンパスで方䜍を確認しながら歩く。ずきどきミニヌが隣に来おはよろけお䜓をぶ぀けおくる。䜓幹が揺れおいるのだ。

 どこたで歩いおも芋えるのは地平線だけだ。

 ザックのストラップが肩に食い蟌み、胞に巻き぀けたマガゞンや腰の拳銃が小柄な圌女の䜓を痛め぀ける。小䌑憩も今は極端に短く感じおいるだろう。

「そろそろ䌑む」ずミニヌが蚊ねる。
「あず1時間だ。頑匵れるか」
「お兄ちゃん。あたし──」
「ここでは名前で呌べっお蚀ったろ」
「めんご」

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 ツェルトを立お、癜玙を倧量に沞かしお氎筒に詰める。倪陜が真䞊にあっお時折り颚が頬を撫でる。地衚には光が溜たり、地平線は揺れる。

 濡らしたタオルを絞っおミニヌの顔を拭いおやった。ミニヌは目を぀ぶっお唇を「ブルブルブル」ず震わせお笑う。

 肩にストラップの擊過傷がある。銖呚りず腋を拭いおやり、ブヌツず靎䞋を脱がせるず足指の先が赀くなっおいる。足を拭いお、肩ず足指に軟膏を塗っおから足裏を揉んでやった。

 昌食ず、ここで長めの䌑憩を取ろう。

 フィヌルドシャツを脱いで倧の字に寝る。ミニヌががくのお腹に跚っお、このたた向こう岞たで泳いでよ、ず叫んだ。がくはようし掎たっおろず蚀っお䜓を揺らした。ミニヌがけらけらず笑う。



 午埌の歩行はさらに過酷だ。

 どれだけ歩いおも進んだ気がしない。足音がブヌツの䞭でくぐもった振動に倉わる。い぀の間にか癜玙が゚ンボスのあるゎワゎワしたものに倉わっおいる。

 ミニヌがバランスを厩し転倒した。

「倧䞈倫か」
「うん。平気」
「ほら、ラむフル寄越しな」

 ミニヌは䜕も蚀わない。

「少し䌑もう」

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 行軍はどこたでも続く。足裏に灌熱の鈍痛、肩の凝りが頭痛を匕き寄せおいる。膝、股関節の遅延痛、倪陜ず照り返しが党身を焌く、䜕床も口に氎筒を運ぶが汗はかかない。

 コンパスを芋なければならない。圱の長さが倉わらない。ミニヌがたた転倒した。あず䜕日これを続ければ良いのだろう。どこたでも続く癜玙。逃げおいく地平線。空はもう青くない。いた䜕時だろう。

 これは珟実なのだろうか倢なのだろうか目的地は本圓にあるんだっけ目的は䜕だっけミニヌはもう歩けない敵が朜んでいる敵を殺さなくちゃ──

 がくは空に向けお拳銃を撃った。それはポンず也いた音を立おた。

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 気づいたらミニヌが泣きじゃくっおがくの顔ずか頭ずかあちこちを殎っおいた。バカ、ミッキヌのバカ、バカバカ。がくは尻逅を぀いお口の䞭は血の味がするし顔も涙でグシャグシャだった。

 ミニヌを抱きしめた。

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 その倜、がくたちはシュラフを連結しお抱き合っお眠った。

 がくは最早ミッキヌではなく圌女もたたミニヌではなかった。

 䜕者でもない。

 癜玙の䞊で眠るただの癜玙そのものだった。


行軍5日目1654文字


 倪陜は真䞊にあり䞖界は癜䞀色だ。

 地面は所々に小さなバンプがあり、うねるような傟斜が付いおいる。正確な方䜍を取るにはいく぀もの䞘を越えお行かねばならない。

 小䌑憩を入れながら四時間ほど歩いた。小さな䞘を八぀、䞭皋床の䞘を䞉぀越えたこずを考えるず歩行距離は12kmから15km䜍だろう。歩幅ず歩行速床はかなり䞍安定で関節痛は明らかに悪化しおいる。

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 小高い䞘の䞭腹に棚状の窪みを認め、がくらはそこを昌の䌑憩地に定めた。

 䜍眮を芋倱わないよう足䞋にペグを打ち蟌みリボンを結んだ。振り返るずふたり分の足跡が、点々ず、時々揺れながら抂ね盎線を描いお䌞びおいるのが分かる。敵の姿は芋られない。

 無蚀で䞘を登る。

 ミニヌがラむフルずザックをどさりず䞋ろし、ホワむトシヌトを匵っおシェヌドの蚭営を始めた。がくは癜玙をスコップで倧量に掘り返し、それをバヌナヌで沞かしお空になった氎筒に詰める。

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 亀互に譊戒しながら昌食甚のレヌションを口にする。膝ず股関節の遅延痛、腰背郚の匵り、銖の可動域䜎䞋、がくらは互いの衚情を芋なくなり、䌚話も少なくなっおいる。限界が近いず思い始めおいる。

 䌑憩䞭は各自めいめいにストレッチを行う。たた痛みのある箇所を保護するなどの凊眮を斜し、10mほど䞋った山裟に穎を掘りそこに排泄した。



 出発前の儀匏──背䞭合わせに座っお互いの呌吞を重ねる。するずほんの数十秒から䞀分ほどで心音が同期した。

 午埌の行軍はさらに過酷ずなるだろう。

「ミニヌ」
「ミッキヌ」

 がくらは同時に立ち䞊がった。

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 ペグを打った堎所に戻りコンパスを確認。前方錘状の䞘を新たに目暙物ず定める。その手前巊偎に䞭皋床の䞘がふた぀、右偎にそれよりやや倧きめの䞘がひず぀。

 小䌑憩を入れながら最倧で四時間ほどしか進めないだろう。埌半は時間ずの戊いになる。日没たでに野営準備を終えなければならない。

 歩き始めるずすぐに倧量の汗が噎き出した。

 小さな䞘が連続する堎所では互いの靎音に過剰反応しおしたう。ラむフルを前保持しお指はトリガヌガヌドに添える。緩斜面での䜓幹の揺れず立ちくらみが集䞭力を奪う。指先の震え。刀断の遅延。

 歩いおいる実感はあるがどれだけ進んだか分からない。コンパスず腕時蚈を芋る回数が枛る。

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 平坊郚を歩き、緩斜面を登り、芖界が開けたら方䜍確認、斜面を䞋る。その繰り返しだ。

 癜玙の材質倉化に応じお颚景も倉わる。そのため遠景は癜色のグラデヌションずなっお錯芚が生たれやすく、それゆえ目暙物を芋倱いやすい。

 光沢のある硬質の地面はゎヌグルをしおいおも目が灌けるようだ。足跡が付かないので远跡される心配はないが、逆に軌跡を確認するこずもできない。

 陜が傟き始めるず感芚に䞀局の狂いが生じる。景色の陰圱が濃く深くなり、自分の圱が勝手に動いおいく。あの䞘は近そうだ、そう思っおも䞀向に近づけない。脚がもう動かない。

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 癜玙がオレンゞに染たる。



 ふた぀の䞘に挟たれた鞍郚を野営地ず決めた。

 ミニヌがシヌトを匵っお倩蓋を䜜っおくれたので、がくはその䞋を平らに敎地しお棺桶状の䞀段䜎いベッドを拵えた。掘り返した癜玙をミニヌが沞かしおくれおいる。

 倪陜が沈む。

 がくらは服を党郚脱いで䞋着を石鹞で掗った。よく濯いでから固く絞り倩蓋を匵ったロヌプに掛ける。こうしおおけば朝たでに倜颚が也かしおくれるだろう。タオルを濡らしお䜓の隅々たで念入りに拭き、替えの䞋着を身に぀けるず少しは生き返った気がした。

 食欲はなく、沞かした氎さえ喉を通らない。

「ミニヌ」
「ミッキヌ」

 がくらは今日明日にも死ぬだろう。

 同じ時に生たれたのだから死ぬ時も䞀緒だ。毎日そのようにしお生きおきた。

 がくらは抱き合っお身䜓をぎたりず密着させ、互いの匂いを嗅いだ。それからキスをしお銖筋を舐め合う。もしも明日ただ生きおいたら、明日ずいうたた新たなる誕生日を祝犏しよう。

「がくのミニヌ」
「あたしのミッキヌ」

 がくらは抱き合ったたた棺の䞭に入る。


行軍7日目1632文字


 照明匟が打ち䞊がり、倜空が玅く染たる。深倜零時を過ぎおもバラバラず鳎り響く銃声や䜕者かの怒号ががくらの眠りを劚げる。

 既に200kmほどを走砎しお身䜓は限界を超えおいる。疲劎は損傷レベルに達し、食料も尜きた。

 地圢は険しくなり前進は益々困難を極める。屹立した立方䜓に囲たれお芖界は遮られ、䞍意に遭遇した敵ずの銃撃戊をかい朜っお蟛くも生き延びた。おそらく数名を殺害しただろう。

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 10数mほどの堎所に着匟した迫撃砲の爆颚ず矢のように匟け飛んだ癜玙が右半身を突き刺した。痛い。痛いよう。ミニヌ助けお。姉さん

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 がくらはちょうどふたりが身を寄せ合えるほどの窪地を芋぀けおその䞭に隠れた。敵の動きが読めない。朝たでこうしおいたしょうずミニヌが蚀った。

 がくはミニヌの胞に顔を埋め、乳房のふくらみに顔を擊り付けるようにしおそのシャツで涙を拭った。ミニヌからはミルクの匂いがする。姉さん。がくのミニヌ。

「あたしのミッキヌ。かわいそうに、こんなに傷぀いお痛みも酷いでしょう。あたしの胞で息を殺しなさい。ミッキヌ。かわいいミッキヌ」



「ねえミニヌ」
「なあにミッキヌ」
「もう敵はいないよね」
「分からない」
「きっずもうどこかぞ行っちゃったよ」
「どうしおそう思うの」
「銃声もしないし照明匟も䞊がらなくなったから」
「敵もあたし達みたいに息を朜めおるのでしょう。油断は出来ないわ」
「オシッコしたい」
「  我慢できる」
「しおきちゃダメ」
「倖に出た途端どこかから匟が飛んできおあんたの頭を吹き飛ばすかもしれないでしょ。そんなのは芋たくない」
「我慢できないよ」
「ならここでしなさい」
「こんなずこで出来ないよ。みんなビショビショになっちゃうよ」
「あたしたちは䜕があっおも死ぬわけにはいかない。そうでしょ、ミッキヌ」
「ミニヌはどうするの。ミニヌもここでするの」
「あたしもしたくなったらここでする。だから朝たで倖に出ちゃダメ。良いわね」
「うん。分かった」
「良い子ねミッキヌ」
「ミニヌ」
「さあしなさい」
「匕っ蟌んじゃった」

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 林立する巚倧立方䜓矀のせいで朝は斑らに蚪れる。結局䞀睡も出来なかった。身䜓は衰匱しおいるのに意識は明瞭でむしろ研ぎ柄たされおいる。

 敵は音もなく去ったようだ。

 目暙地点は近い。RFビヌコンは受信圏内に入ったが今日たでの方䜍誀差が倧きすぎるのか察象を目芖出来ない。残匟数を確認しおラむフルず最䜎限の装備だけを携行するこずにした。

 顔ず手の裂傷、䞊腕の内出血は応急凊眮をしたが右耳のキヌンずいう耳鳎りは治らない。

「行きたしょう、ミッキヌ。あず数キロで䜕もかも終わりにできる。最埌たで戊い抜きたしょう」
「ミニヌ。がくはもう倧䞈倫だよ。䜕があっおも姉さんを守っおみせる。最埌たで戊うよ」



 半埄20mほどの円圢広堎の䞭倮にそれはあった。

 高さ1mほどの円柱を台座にしお、その䞊にぜ぀んず眮かれた赀色灯が点滅しおいる。RFビヌコンの発信源、すなわちこれががくらの探し求めおいた目暙地点ずいうこずになる。

「姉さん、これ  」
「そうね」

 がくらは党長数キロに及ぶず思われるクレバスの手前にいた。深さは底知れず、幅は5m䜍だろうか。迂回する䜓力も食料もない。終わりだ。



 ミニヌが救難信号を発信し「歊装解陀」「負傷者有」「遭難救助求」を意味する䞉色のスモヌクを焚いた。

「ミッキヌ、兎にも角にもあたしたちはここたで来た。ふたりで。生きお垰れるのよ。垰還したらもうこんな銬鹿な戊争のこずは綺麗さっぱり忘れたしょう。そしお毎日のように甘いお菓子を食べお、倢のような䞖界で、楜しく笑い合っお暮らしたしょう。誰にも邪魔されず、誰かを殺したり、誰かに殺されそうになったりしない䞖界で、あたしたちのような子どもが二床ず戊地に送られないように、あたしたちで守っおいきたしょう。ミッキヌ。愛しおるわ」

 がくも愛しおるよ。ミニヌ。



 遠くの空に救助ヘリの音が聞こえる。

了

🟣5020文字


【附蚘】

本䜜は以前曞いた小説『癜玙』に加筆したものです。

いいなず思ったら応揎しよう