⚪️企画作品|七転び、やっと起き
一本のデッキブラシ、それが私の武器であり、防具であり、日々の糧を生む唯一のアイテムだ。
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09時00分、作業開始。
ゲートの入口でスタンプカードのひとつ目に押印したらそれを作業着の胸ポケットにしまう。
天井は私の背丈よりほんの少し高い。真上よりやや前方を擦るのがコツだ。壁は外側に湾曲している。床はグニャグニャしており、決して足場が良いとは言えない。水位は腰まであるから床のブラッシングは手探りである。
作業がひと段落したらサラサラの液体を利用して滑り台ジャンプ。上手く着地出来なければ転んで頭から液体をかぶることになる。
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09時30分、第2ゲートは少し狭くなった急な曲がり角にある。デッキブラシを軸に体を上手く捻って方向転換を図る。ここでふたつ目のスタンプ。
水位はだいぶ下がって膝ぐらいだ。液体の粒度が増してブラシへの抵抗が強まる。さっきまで吹いていた風がピタリと止んでいることに気づく。
床の凹凸をブラシで探りながら歩く。躓いて転倒しかけたが何とか堪えた。
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09時50分、液体の粒度が高く固形物も多い。ドロドロとしたペースト状で水位はくるぶしが浸かる程度だ。
天井や壁にこびりついたペーストを落とすのは難儀で、これがかなりの重労働である。また次のゲート手前で背丈ほどの落差を滑り降りなければならず、ここで怪我をする作業者も少なくない。
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11時10分、第4ゲートでスタンプ押印。液体は半固形に近く粘性が高いクリーム状に変わる。
デッキブラシで床を10m進み、10m戻ってまた10m進み、そうやって少しずつずらしながらクリームを掻き流していく。
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12時00分、少し休憩を取ろう。ここでエネルギーを摂取しておかないと最後の最後で踏ん張りが効かない。
私は自分の周りをざっとブラシで整え、そこに座ると持参したおにぎりを頬張った。
妻が握ってくれたおにぎりだ。具は何か。今日は昆布の佃煮と、もうひとつは焼き鮭だ。ああ、これがあるから私は頑張れるのだ。
上流から新たな液体がチョロチョロと流れ着いたのを合図に立ち上がる。後半の作業ほど危険で困難が多い。気を引き締めて行こう。
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16時00分、ここからが最難関だ。
すでに腕はパンパンで腰も痛い。だから少しの油断が事故に繋がりやすい。6つ目のスタンプを押したらブラシをつっかえ棒にしながら滝壺に降りる。
深い汚泥が胸の高さまでせり上がる。ブラシを頭上に掲げ、足を取られないように慎重に体位を変えると、ほぼ垂直に聳り立つ壁をよじ登らなければならない。ここは通過するだけで精一杯だ。
何度か足を踏み外したが、上流からのり状の真新しい汚泥が流れてくると体を自然に持ち上げてくれた。
この先は汚泥との戦いだ。天井の低い通路を這いつくばって進まなければならない。そして最後の大ジャンプ。
**7
大ジャンプと言っても本当にジャンプする奴はいない。周囲の壁は汚泥に塗れているから、そこに爪先を突き立て、デッキブラシを刺して埋め込み、それらを支えにゆっくり慎重に下っていく。
下りきったところに最後のゲートがあり、ここで7つ目のスタンプを押したらやっとこさ終了だ。
17時00分。
今日も無事作業を終えることができた。最後のゲートを出てシャワーを浴びたら早く妻に会いたい。今は夕食を作っている頃だろうか。美しく優しい妻。いつもありがとう。
(おわり)
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