⚪️掌編小説|蜜柑堂書店 第十八話
第十七話からの続き
ヒーラギ杯を開催します!
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やっぱりか!
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マイボール、マイシューズ、しかも右手になんかゴツイ器具付けてるし。
ヒーラギさんめ。
よくも勝手に、ぼくの希望も聞かずに決めてくれたな。くそー。なんとかこいつを打ち負かして二度とボールを持てないようにしてやる。そして「やっぱりビーチにしておけば良かったわ」と言わせてやろう。それしかない。
「メロン氏は腕に覚えがおありなのかしら?」
「いやーぼくは学生のときちょっとやっただけなので──」
て。メロン氏?
ヒーラギさん、ぼくのことメロン氏って呼んでるのか。勝手にメロン君と命名しておいて勝手にメロン氏に変えたのか。メロン君よりメロン氏のほうが少しだけやらしいじゃないか。
「3ゲームで競います!」
多いよ!
多すぎだろ。せめて2ゲームだろ!
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蜜柑さんは珍しくカジュアルなスタイルだ。クロップド丈のワイドパンツに、トップスは透ける素材のチュニック。フレンチスリーブ。中には紺色のキャミソールを着ている。
ありがとうございます!
「メロンお兄ちゃん、何見てんの?」
「何も見てないよ」
ルナちゃん。思ったことを何でも口にして良いとは限らないんだよ。時には黙っている方が良いこともあるんだ。とりわけそれがぼくや蜜柑さんに関することならね。なおさらそうなんだ。と、お兄ちゃんは思うな。
ルナちゃんはショートパンツにピッチピチのカットソー。おへそ出てますけど。お兄ちゃんは何も見てないからね。
ヒーラギさんは、まあどうだって良いや。
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自分以外の3人とそれぞれペアを作るとしたら3通りのペアが出来る。つまり、3ゲームやれば一度は必ず蜜柑さんとペアになれる。
3ゲーム必須じゃん!
「ルナちゃん、ルナちゃん、組み合わせの数を求める公式は知ってる?」
「n人からr人を選ぶ方法は何通り、ってやつでしょ。分かるよ」
「言ってみて」
「エヌシーアールイコールエヌの階乗割るアールの階乗掛けるカッコエヌ引くアールカッコ閉じるの階乗」
「さすが現役生だね、だから3ゲーム必須なんだよ」
「何で?」
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「3ゲームはちょっと多いんじゃないかしら、わたしそこまでの体力は──」
「必須です!」
「必須です!」
ヒーラギさんとハモった。
ルナちゃん、そんな目でお兄ちゃんを見るんじゃない!
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1ゲーム目。ぼくはルナちゃんとのペア。蜜柑さんが気にはなったものの、目の前のルナちゃんを放ったらかしには出来ない。それほど浅ましい人間にはなりたくない。
だからある意味心を鬼にして、ボウリングは初めてというルナちゃんを全力で応援したのだった。その甲斐あってか、すぐにコツを掴んでポンポンとストライクを連発した。
若いって素晴らしい。
「そう言えばさ、ルナちゃんが曲を付けたヒーラギさんのLINEメッセージって、縦読みすると意味が繋がるの気づいてた?」
「気づいてたよ。だから曲にしたんだよ」
「そうなんだ」
「ほら、お兄ちゃんも感想、伝えてくれたよね、あたしが作った曲、歌詞も見てもらったし」
「メモリーオブゴールド」
「そう。覚えててくれんの嬉しい。あれをヒーラギさんにも聴いてもらったんだけどさ、その感想だったんだよ」
「そうなの?」
「それ以外なくない?」
分からないけど。ルナちゃんがそう言うならそうなのだろう。
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2ゲーム目は直接対決だ。
ここまでのところ勝負は互角だ。だが安心は出来ない。ぼくを油断させる作戦かもしれない。最後までもつれるようなヒリヒリした展開なんていらない。ここで叩き潰してやる。
「今日のファッションテーマをお知りになりたいわね?」
「いいえ」
「ゴーゴーガールよ」
「聞いてません」
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ぼくの一投目、ストライク。よし。上々の滑り出しだ。ヒーラギさんの一投目、ストライク。
「おほほほ、こちらも同じく。ストライクのときはハグするルールよ」
「しませんよ、そんなもん」
「ルナ氏と蜜柑氏はしてるわよ?」
「え!」
ハイタッチしてる。
「嘘」
くそ!
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勝負は一進一退だ。
「蜜柑氏は体の使い方がお上手ね。特に下半身の柔らかさ。お尻の形も綺麗だわ」
ふががが。
「ほら、見てみなさい、あの細くて白い腕、かよわそうに見えて、あんなに大きな玉を、あらま」
なな、なにを言っているのだこの人は。
「メロン氏はどうもゲームに集中できないようね」
お前のせいだ!
「そんなことではわたくしに勝てなくってよ?」
ぬえーーーい!
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腰を捻ってしまった。
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3ゲーム目。遂に来た。蜜柑さんとのペア。ボウリングなんて正直もうどうだって良い。蜜柑さんと両手でハイタッチする。それだけが望みだ。
「とっても辛そう」
「蜜柑さん。大丈夫です」
「リタイアしても良いのよ?」
「しません、しません、絶対しません」
「ほんと?」
「もちろんです。せっかくこうして、痛っ」
「ふゎーん」
ああ、蜜柑さん……
「じゃあ、わたしも少し疲れてきたからゆっくりのんびりやりましょうか」
ありがとうございます。
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「小説は進んでる?」
「それが実は、正直言うと全然進んでなくて、でも書いてはいるんです、放っぽり出してる訳じゃなくて、書いては消し、書いては消しで、ただ、先が真っ暗で何も見えないんです」
「そうなんだ」
「でも必ず仕上げます。蜜柑さんとの約束ですから」
「小説を書き始めたきっかけは何だったの、って、わたし前に聞いたかしら?」
「いいえ。大学のサークルで。それまでは全然。高校から文芸部だったんですけど、そのときは書かない文芸部で」
「何するの?」
「読むんです」
ぼくたちは笑った。
「焦らなくて良いのよ、あなたには才能があるから。そのうち必ず書けるようになるから。それを信じて続けなさい」
才能って何だろう。でもそれを蜜柑さんには聞けないな。そんなものがぼくにあるなら聞く必要もないだろうし。今はただ、その言葉が持っている振れ幅の端から端までを受け取っておこう。
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結局ハイタッチすら出来なかった。
無論スコアはボロボロ。
蜜柑さんも1ゲーム目は良かったけれど、2ゲーム目、3ゲーム目と緩やかに下降して行ったし、ルナちゃんは常にストライクか、でなければガターという大荒れのゲーム。
そして、3ゲームを通して好調を維持したヒーラギさんが最終的にぼくらをすべて平らげてしまった。あーもーヒーラギさんの勝ち誇った顔。
***
ボウリング場を出ると遠くの空に花火の音が響いた。
「天乃川神社の夏祭りね」と蜜柑さんが言った。
「来年はお祭りが良いな」と呟いてみた。
「そうね、そうしましょう。来年は花火を見に行きましょう」
振り返った蜜柑さんの笑顔。
そして今日という一日を、ぼくはこの先もずっと忘れることなく、何度も何度も思い返すのだろう。
『懐かしき夏の匂い』
ふと、そんな言葉が頭をよぎった。
(第十九話に続く)
*見出し画像は@羽さんの作品です。
*関連エピソード:第七話、第十一話、第十三話、第十七話

