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⚪️掌編小説|蜜柑堂書店 第十八話

第十七話からの続き

 ヒーラギ杯を開催します!

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 やっぱりか!

***

 マイボール、マイシューズ、しかも右手になんかゴツイ器具付けてるし。

 ヒーラギさんめ。

 よくも勝手に、ぼくの希望も聞かずに決めてくれたな。くそー。なんとかこいつを打ち負かして二度とボールを持てないようにしてやる。そして「やっぱりビーチにしておけば良かったわ」と言わせてやろう。それしかない。

「メロン氏は腕に覚えがおありなのかしら?」
「いやーぼくは学生のときちょっとやっただけなので──」

 て。メロン氏?

 ヒーラギさん、ぼくのことメロン氏って呼んでるのか。勝手にメロン君と命名しておいて勝手にメロン氏に変えたのか。メロン君よりメロン氏のほうが少しだけやらしいじゃないか。

「3ゲームで競います!」

 多いよ!

 多すぎだろ。せめて2ゲームだろ!

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 蜜柑さんは珍しくカジュアルなスタイルだ。クロップド丈のワイドパンツに、トップスは透ける素材のチュニック。フレンチスリーブ。中には紺色のキャミソールを着ている。

 ありがとうございます!

「メロンお兄ちゃん、何見てんの?」
「何も見てないよ」

 ルナちゃん。思ったことを何でも口にして良いとは限らないんだよ。時には黙っている方が良いこともあるんだ。とりわけそれがぼくや蜜柑さんに関することならね。なおさらそうなんだ。と、お兄ちゃんは思うな。

 ルナちゃんはショートパンツにピッチピチのカットソー。おへそ出てますけど。お兄ちゃんは何も見てないからね。

 ヒーラギさんは、まあどうだって良いや。

***

 自分以外の3人とそれぞれペアを作るとしたら3通りのペアが出来る。つまり、3ゲームやれば一度は必ず蜜柑さんとペアになれる。

 3ゲーム必須じゃん!

「ルナちゃん、ルナちゃん、組み合わせの数を求める公式は知ってる?」
「n人からr人を選ぶ方法は何通り、ってやつでしょ。分かるよ」
「言ってみて」
「エヌシーアールイコールエヌの階乗割るアールの階乗掛けるカッコエヌ引くアールカッコ閉じるの階乗」
「さすが現役生だね、だから3ゲーム必須なんだよ」
「何で?」

***

「3ゲームはちょっと多いんじゃないかしら、わたしそこまでの体力は──」

「必須です!」
「必須です!」

 ヒーラギさんとハモった。

 ルナちゃん、そんな目でお兄ちゃんを見るんじゃない!

***

 1ゲーム目。ぼくはルナちゃんとのペア。蜜柑さんが気にはなったものの、目の前のルナちゃんを放ったらかしには出来ない。それほど浅ましい人間にはなりたくない。

 だからある意味心を鬼にして、ボウリングは初めてというルナちゃんを全力で応援したのだった。その甲斐あってか、すぐにコツを掴んでポンポンとストライクを連発した。

 若いって素晴らしい。

「そう言えばさ、ルナちゃんが曲を付けたヒーラギさんのLINEメッセージって、縦読みすると意味が繋がるの気づいてた?」
「気づいてたよ。だから曲にしたんだよ」
「そうなんだ」
「ほら、お兄ちゃんも感想、伝えてくれたよね、あたしが作った曲、歌詞も見てもらったし」
「メモリーオブゴールド」
「そう。覚えててくれんの嬉しい。あれをヒーラギさんにも聴いてもらったんだけどさ、その感想だったんだよ」
「そうなの?」
「それ以外なくない?」

 分からないけど。ルナちゃんがそう言うならそうなのだろう。

***

 2ゲーム目は直接対決だ。

 ここまでのところ勝負は互角だ。だが安心は出来ない。ぼくを油断させる作戦かもしれない。最後までもつれるようなヒリヒリした展開なんていらない。ここで叩き潰してやる。

「今日のファッションテーマをお知りになりたいわね?」
「いいえ」
「ゴーゴーガールよ」
「聞いてません」

***

 ぼくの一投目、ストライク。よし。上々の滑り出しだ。ヒーラギさんの一投目、ストライク。

「おほほほ、こちらも同じく。ストライクのときはハグするルールよ」
「しませんよ、そんなもん」
「ルナ氏と蜜柑氏はしてるわよ?」
「え!」

 ハイタッチしてる。

「嘘」

 くそ!

***

 勝負は一進一退だ。

「蜜柑氏は体の使い方がお上手ね。特に下半身の柔らかさ。お尻の形も綺麗だわ」

 ふががが。

「ほら、見てみなさい、あの細くて白い腕、かよわそうに見えて、あんなに大きな玉を、あらま」

 なな、なにを言っているのだこの人は。

「メロン氏はどうもゲームに集中できないようね」

 お前のせいだ!

「そんなことではわたくしに勝てなくってよ?」

 ぬえーーーい!

***

 腰を捻ってしまった。

***

 3ゲーム目。遂に来た。蜜柑さんとのペア。ボウリングなんて正直もうどうだって良い。蜜柑さんと両手でハイタッチする。それだけが望みだ。

「とっても辛そう」
「蜜柑さん。大丈夫です」
「リタイアしても良いのよ?」
「しません、しません、絶対しません」
「ほんと?」
「もちろんです。せっかくこうして、痛っ」
「ふゎーん」

 ああ、蜜柑さん……

「じゃあ、わたしも少し疲れてきたからゆっくりのんびりやりましょうか」

 ありがとうございます。

***

「小説は進んでる?」
「それが実は、正直言うと全然進んでなくて、でも書いてはいるんです、放っぽり出してる訳じゃなくて、書いては消し、書いては消しで、ただ、先が真っ暗で何も見えないんです」
「そうなんだ」
「でも必ず仕上げます。蜜柑さんとの約束ですから」
「小説を書き始めたきっかけは何だったの、って、わたし前に聞いたかしら?」
「いいえ。大学のサークルで。それまでは全然。高校から文芸部だったんですけど、そのときは書かない文芸部で」
「何するの?」
「読むんです」

 ぼくたちは笑った。

「焦らなくて良いのよ、あなたには才能があるから。そのうち必ず書けるようになるから。それを信じて続けなさい」

 才能って何だろう。でもそれを蜜柑さんには聞けないな。そんなものがぼくにあるなら聞く必要もないだろうし。今はただ、その言葉が持っている振れ幅の端から端までを受け取っておこう。

***

 結局ハイタッチすら出来なかった。

 無論スコアはボロボロ。

 蜜柑さんも1ゲーム目は良かったけれど、2ゲーム目、3ゲーム目と緩やかに下降して行ったし、ルナちゃんは常にストライクか、でなければガターという大荒れのゲーム。

 そして、3ゲームを通して好調を維持したヒーラギさんが最終的にぼくらをすべて平らげてしまった。あーもーヒーラギさんの勝ち誇った顔。

***

 ボウリング場を出ると遠くの空に花火の音が響いた。

「天乃川神社の夏祭りね」と蜜柑さんが言った。
「来年はお祭りが良いな」と呟いてみた。
「そうね、そうしましょう。来年は花火を見に行きましょう」

 振り返った蜜柑さんの笑顔。

 そして今日という一日を、ぼくはこの先もずっと忘れることなく、何度も何度も思い返すのだろう。

 『懐かしき夏の匂い』

 ふと、そんな言葉が頭をよぎった。

第十九話に続く)


*見出し画像は@羽さんの作品です。
*関連エピソード:第七話第十一話第十三話第十七話


#風まかせ文芸部
#遠い花火の音
#蜜柑堂書店

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