【掌編小説】忘れることはない、いつまでも。
忘れられない人がいる。
いつまでも心の奥に残り続ける出会いというものは、たしかに存在するのだと思う。
あの人とは、不思議なくらい話が合った。好きな音楽も、本の趣味も、沈黙の心地よさまで似ていた。初めて会ったはずなのに、ずっと前から知っていたような感覚があった。何時間話しても飽きることはなく、帰り道になると、もっと一緒にいたいと思っていた。
けれど人生は、ときどき残酷なくらい自然に、人を別々の道へ連れていく。
大きな喧嘩をしたわけでもない。嫌いになったわけでもない。ただ、お互いの暮らしや環境が変わり、少しずつ連絡の回数が減っていった。そして気づけば、最後に会った日から長い時間が流れていた。
それでも、ふとした瞬間に思い出す。
雨上がりの匂い。
夕暮れの駅前。
何気なく耳にした懐かしい曲。
そんな小さなきっかけで、記憶は静かによみがえる。あの頃の笑顔も、声も、まるで昨日のことのように胸に浮かぶ。
もし違う巡り合わせだったなら、今も隣で笑っていたのだろうか。そんなことを考えてしまう夜もある。
でもきっと、出会えたこと自体が奇跡だったのだ。別れがあったとしても、心に残り続ける人がいるというのは、それだけ深く誰かを大切に思えた証なのかもしれない。
忘れられない。
いつまでも。
それは悲しみではなく、人生の中で確かに光っていた時間の記憶なのだと思う。
あとがき(一言):
あなたにも、ふとした瞬間に思い出してしまう人はいますか。忘れようとしても消えない記憶は、もしかすると「大切だった証」なのかもしれません。この物語を通して、あなたの中にある忘れられない誰かに、そっと光が当たるなら嬉しいです。あなたは、その人をどう思い出しますか。
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