強気すぎる球団マーケティング
観客動員だけ見ているとわからないが、いまどきのNPB球団の中には「どうやったって客は来る」みたいに考えている球団がある。
強気すぎるというか、ファンのことを第一に考えていないというか、阿漕なことをする、と思ってしまう。

「見せてやる」阪神タイガース
一番強気なのは、阪神タイガースだ。
阪神は、シーズン開幕前に全日程のチケットを発売する。シーズン閉幕までのチケットがほんの数日で完売する。
今も「甲チケ」「虎チケ」や「ローチケ」「セブンチケット」などでも阪神戦のチケットを販売していることになっているが、すべて「空席ナシ」である。
「リセールサービス」で購入できる余地はあるが、普通の手段では4月の時点で「とっくに完売」なのだ。
企業としては事業年度が始まった時点で「本年の予算クリア」なのだから万々歳だろうが、商売としてこれでいいのか?と思う。
今年は特に出足が早かったようだが、例によって「転売ヤー」も暗躍しているようだし、こんなのでいいのかと思ってしまう。
こういう形で「完売」が続くと、球団はさらに強気になる。間違いなく次は「値上げ」に踏み切るはずだ。諸事値上げのご時世だから、世間の抵抗感もそれほど強くない。
収益増を考えれば、数が多い外野やアルプス席などを値上げするはずだ。
球団は「うほうほ」かもしれないが、給与のベースアップが続いているといっても、衣食住の値上がりが続くなかファンの可処分所得は増えていない。
チケットを「値上げ」すると、球場内の物販、飲食は伸び悩むか、売り上げ減になるはずだ。
さらに「阪神戦のチケットはもうとれない」となると、ファンは嫌気がさすようになる。

強気が裏目に出た広島東洋カープ
阪神と並んでシーズン前に全日程のチケットを販売していた広島東洋カープだが、コロナ前までは3万人を超すお客で連日満員、ほとんどチケットが取れない状態が続いたが、今は2.8万人前後。チケットサイトでは、席さえ選ばなければ、1か月先くらいの席は購入できるようになっている。要するに売れ残っているのだ。
10年ほど前「カープ女子」ブームを起こした広島は、以後、強気の商売をしてきたが「チケットがとれない」状態が続いたために、お客が嫌気をさして、以後伸び悩んでいるのだと思う。
どんなビジネスでもそうだが、いくら魅力的な商品を持っていたとしても、お客の心理を考えずに強気な商売を続ければ、いつかお客の心は離れていくのだ。
阪神という球団は、12球団でも最も「頭が高い」球団だ。「見せてやる」気質が満々だが、いずれ、折り返し点が来ることだろう。
「ダイナミックプライシング」の乱用も
もう一つ、気になるのは「ダイナミックプライシング」だ。これは阪神や広島と真逆で、各客席のチケットの価格を固定せず、状況に応じて「変動価格」にするという売り方だ。
平日のナイターなどはチケットの価格は安く設定し、巨人、阪神など人気チームとの対戦カードや土日の試合のチケットは強気の価格設定にするというものだ。
こちらの方が理にかなっているようにも思うが、やりすぎると、お客の不満が出る。
ゴールデンウィークなどは、外野席でも5000円とか8000円にとかの値付けになったりする。

MLBのドジャースタジアムでは「ダイナミックプライシング」によって一番安い席でも数万円という価格設定になることもある。日本人客はだいたいこういうチケットを買うことになる。
格差社会が進展するアメリカでは、プロスポーツは「富裕層」をメイン顧客にしている。昔のように安いチケットで入ってくるなじみ客には敷居が高くなっている。
その代わりに経営不振のアスレチックスなどは、日本円で千数百円のチケットも打っている。球団間も「格差」ができているのだ。
しかし、日本はアメリカほど格差社会にはなっていない。強気の価格設定をすれば、これもファン離れにつながるだろう。
強気の日本ハム

今、一番強気なのは日本ハムだ。エスコンフィールドHOKKAIDOの評判が極めて良いため、もともと価格設定が強気だったうえに、GWや夏休みはさらに高くなっている。
日本ハムの場合、ブームが起こっているし、まだ人気は上昇するだろうから、チケット価格が上昇するのは仕方がないと思う。
しかし楽天は、あのぼろい球場で、こんな強気の価格設定か、と思ってしまう。楽天は「ダイナミックプライシング」のパイオニアだからそうなのかもしれないが、あの暗くて古びた球場での「野球観戦」に1万円近くも出す気にはなれないお客が多いのではないか?

現実路線のソフトバンクと巨人

一方でソフトバンクは、シーズン前のチケットではあるが、平日の内野席限定で「10枚1.2万円」という破格のチケットを売っている。それで結構いい席に座れる。
ソフトバンクはパ・リーグ一の観客動員を誇るが、マーケティング調査でそれに「陰り」が出てきているのではないか。そこで売り上げを度外視しても「観客数確保」に動いたのではないか。
実は巨人戦のチケットも上段の内野席なら2000円台で買える。ソフトバンクも巨人もリーグトップクラスの観客動員だが、入場料のハードルを下げて球場を満杯にすることを考えているのだと思う。
安いチケットで入ったとしても、お客は飲み食いするし、グッズも買う。客単価はそれなりの額になる。そしてお客の反発も買わない。
私はソフトバンクや巨人のマーケティングが、日本的には正解ではないかと思っている。

