事業の「リアル」
野球界が良くなるにはこうすればいい、ああすればいいという提案をしたり、議論をしたりするなかで、かなり多くのコメント民が、事業に対する「リアリティ」が全く欠如していることを痛感する。
こういう人たちも含めて「世論」が形成されるわけだ。考えが浅いともいえるが、世の中はこの手の「浅い意見を吐く人々」の声がますます大きくなっている。
札幌ドームの事例
数年前、夏の甲子園の「暑さ」が問題になりかけたころ「札幌ドームでやるべき」みたいなことをメディアで書いたことがある。
「札幌ドームの人工芝の酷さをこいつは知らないのか。硬い床に薄いカーペットを敷いただけだ。こんなところで高校野球なんかできるか」
みたいなコメントをいくつももらった。札幌ドームでは今も高校野球の秋季大会が行われている。確かに状況は良くないが「できないことはない」というレベルだ。
しかし、もし「甲子園大会=全国大会」を札幌ドームでやるとなれば、こうした「悪条件」のままで行われることは考えられない。大会の規模が大きくなり、永続性も求められるとなれば「事業」としての「予算規模」も大きくなる。悪条件は改善されるはずだ。先進のハイブリッドターフなどが導入されると思われる。

どうやっていくんだ
エスコンフィールドHOKKAIDOができたときに、大きなネックだと言われたのは「アクセスの悪さ」だ。
「北広島の駅から歩いて20分以上かかる。球場まで行く道路も狭いし、あんなところに球場作ったって、どうやっていくんだ」
みたいな意見がたくさん聞かれた。
日本ハムが、北広島に新球場を建設するにあたっては、北広島市は周辺の環境整備を行った。球場の南側には北広島駅からの大きな道路が造られた。
また、球場の北側には、新駅の建設が進みつつある。
私はこの球場ができる前から北広島周辺を歩いてきたが、ここ数年の変貌はまさに「新しい街が出現した」という印象だ。
球場の北側にできつつある、建設中の「新駅」、右側だ。

本格的な「事業」とは、インフラ整備や都市契約の変更なども含めた巨大な事業構想を伴うものなのだ。
そうしたことに思いが至らない人が非常に多い。「球場ができる」と聞けば「あんな不便なところに」「電車も停まらないのに」みたいに言ってしまう。しかもSNSの世の中では、そういう幼稚な意見が「世論」を形成することさえあるのだ。
京セラドームを借りたらいい
反対に、今の甲子園の「暑さ対策」の話題では「近くにある京セラドームを借りたらいい。今も夏の大会の予選で使っているのだから、すぐにできるだろう」みたいなことを言う人がいる。
まるで近所の体育館を借りるような気軽さだが、全国大会を開催するとなれば、状況は全く違う。
地方大会は入って1000人程度。観客席は内野だけを開ければいい。入り口も一つだけでいいし、場内整備も最小限で済む。大阪府高野連は使用料を支払っていないと思われるが、それでも場内整備は、大阪府高野連が負担しているはずだ。ミニマムの予算でできる範囲で借りているのだ。
しかし全国大会となれば、来場者は万の単位になる。入り口もプロ野球並みに開ける必要があるし、場内整備も専門の警備会社を雇う必要がある。1日に3~4試合行うとすれば「物販」「飲食」も整備する必要がある。大阪府大会とは「別物」になってくるのだ。
北海道の高校野球でもエスコンフィールドを会場に貸与しているが、こうしたスポット的なレンタルは、球団の「地域貢献」の一環であり、無償貸与に関する費用は予算化されている。
しかし全国大会のために球場を開けるとなれば、スケール感が全く違ってくる。
たとえ素人であっても、こうした諸条件を考慮したうえで意見を言うべきだと思う。

エクスパンション
そうした議論の先に「エクスパンション」の話がある。
12球団のNPBを16球団に「拡張する」という構想に対しては、
「日本の人口は減っているのにこれ以上球団なんていらない」
「プロ野球チームを抱えられるような大都市は、今の12球団本拠地以外にはない」
みたいな意見が頻出する。そういう意見の大部分は、今まで紹介してきたような「お手軽論客」によるものだ。難しいことは何も考えずに、適当に答えている意見が「世論」みたいになる。
しかし人口5.6万人の「北広島市」は、ここ10年で、年間200万人の観客を動員する人気プロスポーツ球団を核とした新しい街へと変貌したのだ。
しっかりした事業構想を立てて、資金を集めれば、NPBのエクスパンションは十分に可能なはずだ。
むしろNPBの観客動員が絶好調の今、エクスパンションの構想を始めないと、チャンスを永遠に失うだろうと思う。
MLBは1960年にはア・ナ両リーグ16球団だったが、エキスパンションを続けて1998年には30球団になった。観客動員は1990万人から7000万人へと3.5倍になった。
「あんな西部の荒野にチームを作ったって誰も来ない」
「鉄道も道路もないのにどうやって行くんだ」
みたいな意見を言う人は、当時からいたはずだ。しかし球団を設立した事業家は、周辺の環境整備を事態とともに推進し、数年でスタジアムを建設し、多くの観客を集める新球団を作った。
野球ビジネスについて意見を言う人は、スポーツビジネスの「リアル」をもっと理解すべきだと思う。幼稚な議論を繰り返すのは不毛だ。
