【noteでBL】妖精なんかじゃない
今月も、なみさんのBL企画に参加します!
今日と明日はもりもり仕事なので、皆さんの作品は遅れて読みに伺います。悲しみ。
文字数はなんとか削って4999字です!
5000字で書く内容じゃなかったようですね。
不自然な部分は大目にみて下さい……
今回はなみさんのとあるキャラクターをお借りしました。ありがとうございます!
なみさんファンの方は、読んでいただくとピンとくるかと思います。
妖精なんかじゃない
「雪の妖精みたいだった」
ディーから初めて「妖精」の話を聞いたときは、どれほど繊細な女性かと思ったものだ。
「出会いは俺が初めてこの街に来た日――そう、初雪が降った日だ。そんな日に観光へ来たのはよくなかった。食事の場所を聞こうにも、外には誰もいなかったからな」
カウンターの中でせっせと料理を作る店主のジョンは「また始まった」と言わんばかりの顔になったし、横で食事をしている常連客たちも呆れ顔だ。
「雪の中、俺は凍えながら歩いていた。どこかに店はないのか? 暖まる場所がほしい。そんなとき、俺は彼女に出会ったんだ」
ディーは酔うと「妖精」のことを話し始める。ジョンを見れば、「一杯しか出してないぞ」と返された。ディーのグラスはまだ空になっていない。やっぱりビール一杯目でこれか。チャラチャラしていかつい見た目のくせに、酒には弱いんだ。
「雪を見て佇む彼女は……まるで雪の妖精だ」
ディーは目を閉じ、当時の様子を噛みしめているようだ。
「そして俺に気づくと笑顔でこう言ったんだ。『あら。お客さん、こんな日に来てくれたの? 寒いから早く入んなよ』ってな。それで俺はジョアンナに惚れちまったってわけさ」
「毎回思うが、それのどこに惚れる要素があったんだ?」
ジョンはそう言い、僕が注文したボロネーゼをカウンターテーブルに出してくれた。
「ありがとう」
「レイン、酒は?」
僕もビールを飲み干していたが、これ以上飲む気になれなかった。
「もういいかな。サイダーちょうだい」
「お前たちは見た目と酒の強さが逆だな」
「よく言われるよ」
「おい、俺の話聞いてるのか!」
ディーが肩にずっしりと体重をかけてくる。僕は「やめろ」なんて嫌がる素振りをするくせに、本当はこの重みが嬉しい。
ジョンはディーを睨みつけ「ディー。真面目な話、ジョアンナは浮気されて、やっと離婚できたばかりなんだ。お前の気持ちも分かるが、今はそっとしといてやってくれ。大事な看板娘を傷つけたら……わかってるな?」と釘を刺した。真面目なトーンに、ディーは居住まいを正す。
「そんなこと俺だってわかってる。今も気分転換の日本旅行に行ってるんだろ?」
日本好きなジョンはこのダイナーにフジヤマという名前をつけ、スタッフの雇用条件に「日本が好きなこと」としている。ジョアンナも例にもれず日本好きだ。以前は夫のスミスに制限されていたそうだが、自由になった今、好きなだけ日本に行けることが嬉しいと言っていた。
「そうだ。だから余計なことはするな」
「俺にもそれくらいの節度はあるさ」
「ならいいんだが」
ジョンは小さく息を吐くと、ディーにミネラルウォーターを差し出した。
「でもよぉ、ジョアンナって新しい恋人がいるみたいだったぞ」
カウンターの端でビッグBLTサンドを頬張るニックが、唐突に割り込んできた。
「本当なのか?」
ジョンは驚いた顔でニックを見た。
「日本へは愛しの誰かへ会いに行くって言ってたぜ? 確かマー……じゃなくて、ルー? あれ? 名前忘れた」
ニックはジョアンナの恋人にそれほど関心があるわけではないらしく、思い出すことを諦めると再び大口でBLTサンドにかぶりついた。
「マジかよ」
ディーはがっくりうな垂れ、また僕の左肩にもたれてきた。僕はもう一度何でもないふりをして、フォークにパスタを絡めた。
「俺にはチャンスもないのか」
ディーの大きな独り言を聞きつつ、僕はボロネーゼを口に運ぶ。少し甘いトマトソースとごろっとした食感の挽肉が絶妙に合う。僕はこの無骨なボロネーゼが好きだ。ちっとも上品じゃない見ためだけど、具材が大きく食べ応えがある。いつもの味が、胸が高鳴りそうになるのを抑えてくれる、そんな気がした。
「お前が女だったらなぁ」
ディーの悪意のないひと言に、必死に平静を保つ僕は手を止めてしまった。
「俺が好きな金髪だし、可愛い顔だし、手も女みたいに細くて綺麗だよなぁ」
そう言ってあいている僕の左手に、ディーの大きな手が絡みつく。酒のせいか、その手が予想外に熱い。反射的にディーの顔を見た。
頬が紅潮し、瞳は微かに濡れている。
僕は密かに唾を飲み込んだ。だめだ、やめろ。そんな目で僕を見るな。
「やめろ酔っ払い」
手を振り払うが、うるさく動く心臓は激しさを増すばかりだった。
「なんだよ。レインのけち」
「そんなこと言うなら、来週の引っ越しは手伝いに行かない」
「えっ」
僕はサイダーを一気飲みし、空になった瓶を勢いよく置いた。
「レイン落ち着け。さっきのは無し。冗談。俺が悪かった!」
必死に言い訳をするいかつい男。その姿が可笑しくて、僕の口は自然と笑い声を上げていた。
それなのに。
「ジョアンナが日本で死んだ」
ジョンからその話を聞いたのは、あれから数日後のことだった。
「ディー荷物多くない? 前も一人暮らしだったんだよね?」
空っぽのはずのアパートメントの部屋の中は、すでに洋服や本が散乱していた。
「物が捨てらんなくてさ。旅先で買った服は思い出が詰まってるし、この写真集はパン屋のばぁさんに勧められたやつで」
「実家に置いとけばいいのに」
「大事なものは近くにいてほしいだろ」
ディーは愛おしそうに写真集を撫でた。その行為に、僕の胸はきゅうっと締めつけられる。
「しょうがないな。じゃあ僕が大事に大事に片づけてあげるよ」
床の本を何冊か抱え、備え付けの本棚の前に立った。
「さすがレイン様! ピザ頼んであるから好きなだけ食ってくれ」
「当たり前だ」
それから二人で集中して作業を進めた。床の本を収納しきると、小さな本棚はいっぱいになってしまった。ディーのほうもクローゼットに服を収め終わったようで、残るは壁にたてかけられた大きな段ボールのみだ。
「シングルベッド?」
「ああ。この部屋、肝心のベッドがないんだ。前にいた奴が壊したとかでな。オーナーは新しいの用意しとけってんだ」
ディーは文句を言いつつ、慣れた手つきでベッドのパーツを取りだしていく。僕も何か手伝おうと、説明書に目を通す。
「ディーちょっと待って。説明書に『組み立て推奨人数2人』って書いてある」
「こんなもん俺一人で充分だよ」
ディーは話している間にも、ベッドフレームのパーツを迷うことなく組んでいく。そしてどこから出してきたのか、電動ドライバーでネジを締めると、あっという間に完成してしまった。
「あとはマットレスを乗せて……おしっ。完成!」
「ディーすごいな。五分でできた」
「引っ越し屋のバイトしてたからな。嫌になるくらいベッドを組み立てたよ」
「そうなんだ。ていうか、それなら僕の手伝いいらなかったんじゃない?」
まただ。僕の口はいつも言わなくていいことを言ってしまう。
「何言ってんだよ。お前が来てくれてすごく助かった。ありがとな」
大きな手が僕の頭を優しく撫でた。「大事なもの」に入れてもらえたような気がして、また胸がきゅうっとなった。
「じゃ、引っ越し記念にこれで乾杯しようぜ!」
ディーは意気揚々とビール瓶の栓を開け、勢いよく喉を鳴らした。
「またそんなに買ったのかよ。この調子だと、僕は今日も妖精ジョアンナの話を聞かされるはめに……あ」
僕は慌てて口を噤んだ。
「別に俺は何ともねぇさ」
「ごめん」
「何で謝るんだよ。俺はほら、一方的に言ってるだけで、ジョアンナと親しかったわけじゃない。俺に気を遣うな」
「でも」
「あー! もうこの話は終わりだ! せっかくビールが目の前にあるんだ。楽しい話をしようぜ」
「……そうだね」
ここにある瓶がすべて空になるまでは、楽しく飲んでピザを食べる。今はそれでいい。
だけど、そんなことは無理だ。本当はわかっているはずだった。
「ディー、その顔で見るのやめてくれない?」
三本目の瓶が空になった辺りで、ディーの目はぼんやりとし始めた。
「どんな顔だ?」
「……まぬけな顔だよ」
「まぬけ? 俺がお前よりまぬけな顔だって言うのかぁ?」
ディーは四本目のビールに手を伸ばそうとする。僕はそれを遮り、「そろそろやめなよ」と水のペットボトルを差し出した。
「いらねぇ」
「ちょっとくらい飲め」
仕方なく、僕は手を引っ込めペットボトルの蓋を開けようとした。が、それは腕を掴んできたディーに阻まれる。
「やっぱりお前、女みたいな手だな」
熱い。
右腕に、あの日と同じ体温を感じる。
「髪はさらさらで、目もジョアンナと同じ綺麗な青色だしよぉ。肩だってこんなに細い。お前本当は女だったりして」
今、手を伸ばせば触れられる距離にディーがいる。いかつい顔に似合わない、火照った頬と熱をもった瞳を携えたディーが。
「じゃあ、僕とキスできるのかよ」
「ん?」
僕は立ち上がり、着ていたTシャツを脱ぎ捨てた。
「レ、急にどうしたんだ」
そのままディーを床に押し倒し、戸惑う顔を見下ろした。
「僕とキスできるのかって訊いた」
「怒ってるのか? 悪かった女なんて言って」
お願いだ。どうか僕を、これ以上追い詰めないでくれ。
「見ろよディー。この体のどこが女なんだよ。ジョアンナみたいに膨らんだ胸はない。柔らかい肌もない」
少しずつ顔を近づけても、ディーはその場を動かない。
頼むから、僕を止めてくれ。
「僕は妖精なんかじゃないんだよ」
それでもディーは黙っている。
もう知らない。目の前の唇に自分の唇を重ねた。
「どうして逃げないんだよ」
「……試してみるのもいいかと思って」
「何それ」
「意外と悪くねぇかも」
「え?」
「とりあえずさ、ベッド行こうぜ」
🍕🍺
ダイナーフジヤマで食べるボロネーゼは、今日も変わらない味だ。でも、僕には一つだけ違うことがあった。
「珍しくハイペースだなレイン。もう五杯目じゃないか。それに食いっぷりもいい。いいことでもあったのか?」
「まぁね」
得意気に言うと、ジョンは「好きなだけ飲んでいってくれ」と笑った。
いつもと違うこと。それは控えていたビールをたらふく味わっているということだ。思い出すだけで嬉しさがこみ上げてくる。飲まずにはいられない。
あれだけ気取られないよう振舞っていたのに、僕はなんて単純なんだろう。
グラスに残っていたビールをぐいっと飲み干し浸っていると、店内がざわついていることに気づいた。
「おい! レイン! たた大変だ!」
ディーが息を切らして店に入ってきた。
「何だよディー。そんなに慌ててどうし……」
「ただいまー! 皆にお土産買ってきたわよ!」
その声を聞き、僕は耳を疑った。
「なぁに? 皆ぽかーんとしちゃって」
「ジョアンナ……?」
「あらレイン。来てたの?」
ジョアンナはヒールを鳴らし、颯爽と歩いて僕の隣に座った。
「はい、これお土産」
「ありがとう……じゃなくて! 君、日本で、その」
「ああ! スミスがね、未練たらしく追いかけてきたのよ。さすがに鬱陶しいから、ホテルにいた人たちにお願いしてあいつを騙してやったの! そしたら本当に信じちゃって。楽しかったわぁ。日本人って案外ノリがいいのよ!」
「じゃあ、死んだっていうのは」
「スミスがジョンに言ったんじゃない? 本当に可笑しいわよね!」
あはは! とジョアンナは盛大に笑い飛ばしている。
僕は呆気にとられたけど、いつの間にか一緒になって笑っていた。
そう、これこそがジョアンナ。妖精なんかじゃないんだ。ディーの評価は間違っている。
「ところでジョアンナ、新しい恋人ってどんな奴なんだ? 店の皆が知りたがってるぞ」
カウンターの端でビッグホットドックを頬張るニックが、また唐突に割り込んできた。
「恋人? あ! もしかして愛しの”ルマンド”のこと?」
「それだ! ルマンドだ! あー、すっきりした」
一応気になっていたのか、ニック。
「いっぱいあるから皆も食べて!」
ジョアンナがスーツケースを開くと、見たことのないお菓子が大量に出てきた。
「これがルマンドよ。日本で一番クールなお菓子なの」
「お菓子って……じゃあジョアンナに恋人がいるって話は」
ディーはぽかんとした顔でルマンドをみつめた。
「何それ? あたし別れたばかりよ? ま、いい男なら大歓迎だけど」
ジョアンナはディーにウィンクをして微笑んだあと、大量のルマンドを店中に配り始めた。
「なぁレイン。もしかして俺にも可能性があるってことか?」
「おい」
僕は思いきりディーを睨んだ。
「嘘、冗談だよ。今は俺、お前が大事だからな」
⛄️🍝🧚fin.
お題は
「ルマンド」
「初雪と一目惚れ」
「シングルベットの組み立て推奨人数が2人だった」
ルマンドに囚われている私たちのため、再びルマンドがお題にやってきました。なみさんありがとうございます。
でもこの組み合わせは鬼。
ちなみにノーマルのシングルベッドなら、本当に1人でも数分で組み立ては可能です〜🛠️
むしろパイプベッドとか、細かい組立家具のほうが時間がかかります。
