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【noteでBL】知里くんと蘭名さん-地獄のお宅訪問編-


なみさんの創作BL企画に参加します!
企画概要↓↓


noteでBLで何度か登場している2人のお話を書きました!
昔のアカウントで書いた話(消えて残ってない)の続きのため、あらすじにこれまでのお話を書いております。
長くてすみません。


▼ジャンル:日常

▼あらすじ

これまでのお話!
早とちりな知里くんは、バイト先の元先輩である蘭名さんが気になっていた! 走るのが好きな蘭名さんから意地悪されたり揶揄われたりして、交流を深めてきた。ある日、大学の友達から段ボールいっぱいのルマンドを貰った知里くん。意気揚々と駅を出るが、なんと雨が降っていた。ルマンドを濡らすことができず、しばらく雨宿りをしていたら偶然蘭名さんが通りかかる! 気まぐれなのか何なのか「家で雨宿りしていったらいいよ」と言うので、知里くんは戸惑いつつもノコノコついてきた!
そして今回、蘭名さんの家であれやこれやトラブルが発生! 2人はどうなるの〜!
(本文3531字)



 お湯が床に落ちると雨みたいな音がするなぁ。

 なんて、普段は考えもしないことを思いながら、僕は風呂場で突っ立っていた。

 雨で濡れた身体を温めてこい、と脱衣所につっこまれたが、他人の家でなぜ裸なのだろう。いくら思案しても明確な答えはでない。

 お湯を止めるためシャワーレバーに手を置いても、うまく力が入らなかった。両手を使い、ようやくレバーを「止」の位置に戻せた。

 濡れた身体を拭き、借りたTシャツに袖を通す。知らない匂いに包まれ、僕の鼓動はひたすら加速していく。

 リビングのドアを開くと、独特なコーヒーの香りがした。おしゃれなカフェなのか、古い喫茶店なのか。僕は店に疎いからわからないが、想像上のそれらとは同じ香りだった。

 つまり、知らない匂いの場所ということだ。

「遅かったけど大丈夫?」

 キッチンから顔をだした蘭名さんは、なんとなくいつもと違っていた。なぜだろうと眺めていたら「どうしたの?」と、普段通りの楽しそうな顔を向けてきた。それなのに僕の表情筋は硬いままで、「お風呂、ありがとう、ございました」とぎこちない返事になった。

「コーヒー淹れるからゆっくりしてなよ」

 蘭名さんはキッチン横の小さなカップボードの扉を開き、白いマグカップを二つ取り出した。そのまま作業スペースに並べ、慣れた手つきでコーヒー豆を計量していく。

 カウンターの後ろには雰囲気のあるキッチン家電が並んでいて、なんともまぁ、蘭名さんが並ぶと絵になる。しかもよく見ると、キッチンツールはSNSで見るようなオシャレなものばかりだ。

「♪~」

 唐突に、蘭名さんがメロディを口ずさみ始めた。たしか、昔流行った映画の主題歌だ。当時、小学生だった僕は興味がなかったが、蘭名さんはそうじゃないらしい。普段は年齢差を感じる話題を出さないから、珍しいし新鮮だ。もちろん、鼻歌を歌う蘭名さんも。

「そこ座っていいよ」

 蘭名さんはリビングにあるグレーのソファを指差した。僕はおとなしく従い、左端に腰掛ける。自分の家にある二万円のソファとは座り心地が違った。優しく身体にフィットし、必要以上に沈まない。

「ソファ他人に使って欲しくないけど、知里くんは特別ね」

 天気が悪いせいで薄暗い部屋、ほのかに聴こえる雨音、漂うコーヒーの香り。蘭名さんにとってはただの日常なのだろうが、僕にはそうじゃない。知らない場所で、知っている人の初めての姿を見る。この空間は、彼のすべてを魅力的にする舞台装置だ。

「知里くんってけっこう長風呂なんだね」
「ま、まぁ。そうですか?」
 
 僕の脳内はガチャガチャうるさいくせに、出力は上手くできなかった。

「そういえば、濡れた服は一階のコインランドリーに入れてきたよ。乾燥までやってるから少し時間がかかるかな」

 反対に、蘭名さんは変わらず話しかけてくる。自分のテリトリーで落ち着いているなんて、フェアじゃない。ずるい気がする………………ちょっと待って。今、何て言いました?

「蘭名さん。僕の服コインランドリーに入れちゃったんですか?」
「うん。部屋に乾燥機がないから、よく持って行くんだよね」
「乾燥機に入れちゃったんですか!?」

 閉じていた口が噓だったかのように、僕はけっこうな声量をだしていた。さすがの蘭名さんも驚いたようで、肩がびくりと跳ねていた。

「そうだけど……何? ダメだった?」
「あのTシャツはイベントでしか買えない限定品だったんですよ!」
「え。『油そば』って書いてある、あのTシャツが?」
「そうですよ!  乾燥機なんかに入れたらプリントがダメになっちゃうし生地も傷んじゃうんです。だから、洗濯は常温の洗剤液に漬けてから手洗いです。あ、もちろん押し洗いしないとダメですからね。最後は柔軟剤を溶かした水にくぐらせて、柔らかさをだしたら完璧な着心地になります」

 蘭名さんは意味がわからないのか、怪訝な顔で覗き込んできた。初めて耳にした言語を、一生懸命理解しようとしている。

「すごいね。そうなんだ。そんなに大切だったんだ。あの『油そば』のTシャツ。知里くん、意外とこだわりが強いね」
「こだわりっていうか、あれは本当に貴重なTシャツで」

 だけど、僕の言語は理解されなかった。蘭名さんは「そうだね。油そばうまいもんね」なんて心のこもっていない言葉を言いながら、再びキッチンで手を動かし始めたのだ。

「知里くんごめん。俺は面倒だから、だいたいコインランドリーで洗濯してる。だから、まったく気持ちがわからない。貸したTシャツもコンビニで買った安物だし」
「ダメじゃないですか! そんなんじゃTシャツが可哀想ですよ!」

 蘭名さんは僕の言い分に目が点になり「あー、うん。ごめん」と、いつもなら言わない単語を並べた。言ったことは本心だが、「少し言い過ぎた」と思った時には遅い。

「お詫びにおいしいコーヒー淹れるよ」

 しばらく会話はなくなり、雨音が大きくなった。外の雨が強くなったのか、部屋の中が静かになったのか。どちらにしても気まずく、地獄のような空気が変わるわけではない。

 今日の僕は、変だ。

「……知里くん、せっかくだからコーヒーと一緒に食べる?」
「え、あ、何をですか!?」

 ずっと蘭名さんを気にしていたせいか、食い気味に返事をしてしまった。ちっとも決まらない、格好悪い自分が嫌になる。

「持ってきたルマンドだよ。コーヒーと合うんじゃない?」

 雨に濡れたダンボールが、冷蔵庫の前に置かれていた。ああ、ルマンドですか。大急ぎでキッチンに駆け寄ったものの、聞き慣れた単語に拍子抜けしてしまった。ソファに戻るのも違う気がして、初めて見るような素振りでキッチンの中をもう一度眺める。

「あれ? コーヒー淹れないんですか?」

 蘭名さんはキッチンの中で、のんびりスマホを触っていた。

「んー、温度が高すぎるから」

 コンロの上には、特殊な形状をしたコーヒー用ケトルが置かれていた。ケトルは蓋がしまっていない代わりに、小さな温度計が差し込まれていた。

「もしかして温度を測っているんですか?」「うん。一番いい温度になるまで待ってる。今は百度近くあるでしょ? この豆なら九十度でゆっくりお湯を落とすと舌触りがまろやかになって、おいしい苦味になる」
「へぇ。こだわりですね」

 蘭名さんはまた、珍しい言語を聞いたような顔になった。

「こだわりというか、こういうのは普通。常識的なことだから」
「常識?」
「熱々のお湯で淹れたら豆の味が薄れて、ただ苦いだけのコーヒーができる。低いと抽出力が弱くてパンチのない味になるし、適度な温度が大切なわけ。だからコーヒーを淹れるなら温度調節は常識だよ」
「蘭名さん、それをこだわりって言うんですよ」
「普通だって」
「いいえ、これは立派なコーヒーオタクですね。しかもめんどくさい感じの」
「オタクってなんだよ。ただコーヒーが好きなだけだし。それを言うなら知里くんだって、Tシャツのオタクじゃん」
「違います!  ただTシャツを大切にしているだけです!」
「それをオタクって言うんじゃないの?」
「言いません」

 蘭名さんは諦めたようにため息をついた。

「君ってけっこう主張強いな」
「蘭名さんの影響ですよ」
「俺の? あ、わかった。恋人色に染まったってやつだ」
「こっ」

 不意打ち。
 僕は思わず咳き込んでしまった。このタイミングでなんてことを言うんだ、この人は。

「家に来たってそういうことでしょ?」
「それは」
「ほらほら。寝室はあっち」
 
 蘭名さんが僕に顔を寄せ、そっと右肩を掴んだ。触れられた場所から、全身の血管に熱い血が流れていく。

 示された先は、まだ踏み入れていない未開の地だ。進んでしまったら、知らなかった頃には戻れないのだろう。だけど僕は、深く考えず追いかけていた。今日だって、単純に嬉しくてついて来ただけで。

「知里くん」

 本当に?
 心のどこかでは気づいていたんじゃないか?

 そうだ、僕は。僕は。

「なーんてね。ははっ。知里くんまた固まってる」

 笑う蘭名さんを見て、僕は呆気にとられた。また、からかわれた。

「赤くなっちゃって可愛いねー。さて、コーヒー淹れるか。あ、俺もルマンド食べていい?」

 そんなの、違う。耐えられない。

「だめ、です」

 キッチンに戻ろうと背を向けた蘭名さんが「えー? ダメなの?」と、振り返った。僕は俯いて「今は、だめです。あとで」と答えた。

「あと? 後って何で……」屈みこんで僕の顔を見た蘭名さんは、少しの間黙った。
 もう、頭の中がぐちゃぐちゃだ。自分が今、どんな顔をしているのかわからない。

「あのさ、もしかして知里くん」

 蘭名さんが何かを言う前に、僕は寝室の扉の前へ立った。このままからかわれ続けるなんて、それはある意味地獄だ。

「蘭名さんが先に言ったんですからね。そんな、土壇場でキャンセルするみたいなこと、言わないでください」


お題は
「地獄」
「土壇場でキャンセル」
「オタク×オタク」

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