一味girlとチーズboy
「やりたりねーのよ、金ないけどホテル行きたいの!」
「はははー、明日も寒いらしいよ」
「そういうことじゃなくてさあ」
「昨晩いた子を誘えばよかったじゃん」
「ミキが一番可愛いんだって!マリとはもうヤったし呼んでも張り合いないっていうか」
「嘘でしょ?!あんたマリとしたの?マリの彼氏ちょっとやばい系の人っぽいよ」
「まじ?」
ーお待たせしましたー、チキンサラダになりますー
届いた皿を受け取る。
「ミキ本当にサラダだけでいいの?」
「いいのよ。昨日飲みすぎたし」
「その割には酔い残ってないじゃんー」
「そんなことないって」
「ならホテルいこうよ、寝たら楽になるから!」
中村がキラキラした目でしつこくホテルに誘ってくる。昼間のファミレスで。昼間というか、昨晩の中村の友人主催のパーティーからダラダラと飲んで、帰るのもだるいからファミレスの開店と同時に入店した。酒しか入れてない腹に何か突っ込みたかった。安くて量のあるものを。ファミレスのサラダはもってこいだし、罪悪感なく食べられるから好き。
「ここらへんにあんたの飼い主の家あるんじゃないの。そっち行ったら」
「ミキがいいの。今日は。夜からずっと一緒にいるじゃん!いいじゃん!はやくーーー」
中村は無職で金のないDJ。犬っぽい性格で、年上のお姉さんにはモテるから住む場所には困らないらしい。出会いは合コンだったけど、音楽の趣味が合うから(酒を飲んで音楽聴くのが好きという方が正しいかも)イベントで顔を合わせることもあったし、自然となんか流れで。
「そんなにかけるの?死ぬよ?」
中村の目が一段と大きくなる。
「唐辛子はかければかけるだけ美味しいから、君にはわからないかもだけど」
手に持った唐辛子をサラダにふりかけ続ける。
確かになんでこんなに唐辛子をかけるようになったんだろう。辛いものは苦手な方だった。いつから何にでもかけるようになったんだっけ。思いだせ……………る。
*
背が高くて、手が大きくて、肩幅が広くて、私なんかより収入がいい、非の打ち所がない彼。連絡の頻度もちょうどいいし、住んでる家も綺麗で。私の家に招くのが恥ずかしくなるくらい。結婚の匂わせも向こうからしてくれて、どうしようかなとか思ってたんだけど、どうしようもなく、今まで経験した事がないくらい、そしてびっくりするくらい、早漏だった。それに一晩に2回以上は求めてくるタイプの、早漏。
冗談でもそこに触れたらいけない空気があったし、彼の中の常識を覆すのも申し訳なくて、いつも満足した顔で、気持ちよさそうな顔で応じてたけど、さすがに物足りなくて。大抵彼の家に泊まって流れでして、翌日お昼ご飯を作ってもらって、食べて帰る流れだった。しかも、お昼ご飯前にも1ラウンド挟むタイプの、早漏。お昼ご飯も身体にうんといい高いお出汁とか使って作ってくれて。とても嬉しいし素敵だし美味しいけど、なんていうか、、、
刺激が!刺激が!!足りない!!!
そんな事が頭をよぎって、ご飯中彼が席を立った時に無意識にテーブルの上にある調味料エリアから、赤いその瓶を手に取って、スプーンにすくった食塊の上にこんもりとふりかけて、口に突っ込んだ。
舌に、血管に、脳味噌に、
直接訴える刺激、スパーク!!!
それから彼の家でご飯を食べる時、ことを終えた後、彼の目を盗んでは一味を口いっぱいに入れる習慣がついてしまった。怪しまれてはいけないから一味の詰め替えも目を盗んで行う冷静さも私にはあった。その行為は最後までバレることはなかった。けど、別れる時はあっけなく、他に好きな人ができたって、向こうから。素敵で一緒にいたら自分を高められる人だったけど、なんか、あっさりと受け入れてしまった。だけど、別れた後も一味の大量摂取癖は抜けていない。
*
「あんたそんなにかけるの?」
中村が手に持った粉チーズを死ぬほどミートスパゲティにかけている。
「え?普通じゃない?」
普通じゃない。ミートスパゲティにエベレストがそびえ立っている。
「粉チーズはね、優しいの。俺に優しくしてくれるの。だから好き」
美味しそうにミートスパゲティを口に含みエベレストチーズを崩しては器用に絡めて食べている中村。その表情はさっきまでの子犬のキラキラした感じとは少しちがう、影を落とした感じというか、本当に優しくされたくて、だから大切に、丁寧に、フォークにスパゲティを巻きつけて、器用に口に運ぶそれだった。
「………いく?」
「え?どこに?」
「は?さっきまでしつこかったじゃん」
「え!え!いいの?!じゃあ六本木はホテル高いから渋谷ね!渋谷いこ!!!」
さっきまでのキラキラした子犬の中村が無邪気そうに答えた。尻尾を振っているようにしか見えない。
言って後悔したわ。いや、まあいいや。粉チーズをエベレストにしても大切に丁寧に扱う中村は、きっと中村にしかわからない苦労とか、寂しさとか、そういうのもあるんだろう。
「いいよ。食べ終わったらいこ」
「うん!」
急いでスパゲティをかきこむかと思いきや引き続き大切に、丁寧に口に運ぶ中村。
そんな中村を見ながら唐辛子いっぱいのレタスを口に運んだ。その後、粉チーズをかけたレタスを口に。これから粉チーズもいいかもしれない。
