芥川賞受賞作『ゲーテはすべてを言った』読書記録
20250430読了。
芥川賞の受賞者が自分より若い方が増えたのは、自分が単純に歳を取ったからなのだけど。
この方は「端書き」からもう、何を感じるかと言ったら丸谷才一さんだった。仮名遣いは現代なのにとにかく『輝く日の宮』を思い出せずにはいられない。主人公が学者だからか、シンポでパネルディスカッションのシーンがあったからなのか。体言止めの綺麗な文の調子に急かされず安心するのが不思議。
で、丸谷才一さんの文庫本が冒頭でちゃんと出てきてくれて安心した。お好きなのかしら、本当に丸谷さんリスペクトが端々に。
冒頭のティーバッグのタグで見つけた初出不明のゲーテの名言を巡って展開する物語は、引用が複雑かつ多様だけれど読者が置き去りにされることはない。「眠られぬ夜のために」の視聴者くらいの目線にわかりやすく書いてくださってるのでしょう。
のりちゃんは若くて快活で愛すべき娘だし、綴喜くんはどこを取っても文句なしの好青年。義子さんの〝普通の主婦観〟もある種完璧で、ちょっと意地悪な言い方をすれば、この作品には主人公の統一氏に敵対する分子は存在しない。そもそも敵は人間ではなく学術なのかも。然先生の捏造スキャンダルと、その後の統一氏の番組収録最後の発言は、ちょっとどきどきするところだったけれど……。
渡独で謎解きしていくところ、あんまり綺麗にまとまるので、なんだか縫い目の裏に隠された何かを見落としてはいないかって何度もページを戻って見返してしまった。本当に何もないのよね? 結局これは解き明かせなかった、っていうものがあったってよかった。でもすべて澱みなく明らかしていくのが研究というものなのか。未解決の場所があって煮え切らないのと、ぜんぶ答えを与えられてスッキリするのと、どっちがいいのかなと少し考える。
しかしとにかく全体通じて話が見事でした。本当に素晴らしいと思ったし、これを作り上げたひとは無論私と同じ人間には思えないほどだったし(そりゃそう、芥川賞受賞作だから)、チャーミングな救いのある話でした。自分が無学である読者の心も救済してくれた、つまり思うままに生きていてもいつかそこには辿り着ける、そう思わせてくれる作品でした。
あー読んでいて楽しかった。
