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固定電話しかない時代、好きな子と電話するために、僕は足を使った話

二人だけで話す時間

中学2年の頃、恋愛とかはよくわかっていなかったが、ずっと二人で話していたい子がいた。

話す内容も、別になんてことない世間話だ。
でも、話していると楽しくて、1、2時間があっという間に過ぎていった。

お互い、学校でも話す。
ただ、僕は部活で夕方までみっちりだったし、教室では周りの友達がいるから、話す内容もなんかちょっと違っていた。

二人だけで話す。
この条件だと、いつもとは違う楽しさが溢れていた。

ある日、電話でも話してみようということになった。
僕らは時間を決めて、僕から電話することにした。


固定電話は、あの子に直接届かない

当時はスマホもない。
携帯電話もない。

電話といえば、家にある固定電話だ。
個人にアクセスできるのではなく、その家族にアクセスする電話。
つまり、誰が出るかわからない。
もはや電話ガチャだ。

僕はドキドキしながら電話をかけた。
電話に出たのはあの子だった。
ホッとする。

そこから1時間くらい話して、お互いの家族から
「いい加減電話を切りなさい」
と言われたのをきっかけに、その日は終わった。

僕らは、電話で話したあの時間がお互いに楽しかった。
だから、定期的に話そう、となった。


だいたいあの子が出てくれる頃

2週間くらい1日おきくらいに電話していただろうか。

電話をかけても、基本的にあの子が出てくれる。

誰が出るかわからない緊張感は、だんだん薄れていった。


お父さんが電話に出た日

ある日、いつものように電話をかけると、男性の声だった。
どうやらお父さんのようだ。
一気に緊張が走る。

「どちらさまですか?」

こう聞かれ、僕はなんて答えればいいかわからず

「あの子さんとクラスメイトのT-Penです。」

と、ちょっと弱々しく答えた。

「T-Pen?、あの子に何の用だ?」

このお父さんはちょっと話し方が威圧的だった。
しかも、目的は電話で話すこと。
特段、用なんてなかった。

そのまま答えた。

「特に用は無いのですが、話したいと思いお電話しました」

と。

「いつも電話している相手はおまえか!」

「用が無いならかけてくるんじゃない!」

そう言って電話を切られた。

正直、僕はビビった。電話越しで、顔も知らない大人の男性、しかもあの子のお父さん。

電話をかけることが、急に怖くなった。


次の日、学校で

次の日、あの子と学校で話す。

「なんで電話くれなかったの?」

お父さんからは何も聞いていないらしい。
僕は、お父さんが電話に出たことと、そのときの様子を話した。

「お父さんなんて関係ないから大丈夫だよ!なんなら私から電話かけようか?」

あの子からそう言ってもらえて、めちゃくちゃ嬉しかった。
でも、僕はお父さんの存在が気になっていた。

「いや、僕からまたかけるよ」

ここから、お父さんへの恐怖をどう乗り越えるかと、この状況をどうクリアするかという戦いが始まる。


ない頭をフル回転させた

僕は、ない頭をフル回転させた。

小手先でどうにかするみたいなことも、たくさん思いついた。

毎回、取って付けたような用事を伝えて、あの子に繋いでもらうとかだ。
しかし、うまくいく気がしない。

お父さんが出たら何も言わずに切る。
お母さんかお姉ちゃんかあの子が出たらラッキーくらい割り切る。
などなど、部活そっちのけで考えていた。

そして、僕が最終的に選択した手段は、
お父さんに直接挨拶に行く
だった。

恋人同士でもない。
僕自身、好きという感情はあったが、あの子はちょっと特別仲が良いクラスメイトだ。
それ以上でもそれ以下でもない。

だとしても、「僕がT-Penです」と、お父さんに挨拶をする。
まずはそこからなんじゃないかって思ったんだ。

顔や雰囲気がわからないから怖い。
この目で見て、直接顔を見て話したら、もっと具体的な対策が思いつくかもしれない。

もうあれこれ考えるのがめんどくさくなり、休日、あの子と遊びに行く約束をして、家に迎えに行くことにした。

正直、憂鬱だった。

でも、もうやるしかない。

そして、当日を迎える。


インターホンと、お母さん

あの子の家に着く。

インターホンを押す指が震える。

深呼吸をする。

勢いでインターホンを押す。

深呼吸をする。

手汗がすごかったことを覚えている。

インターホン越しに声が聞こえる。優しい女性の声だ。

「あ、あの子さんのクラスメイトのT-Penと申します。」

「あ、はいはい!ちょっと待ってねー」

これはお母さんだ。
内心、ちょっとホッとする。

玄関からお母さんが顔を出す。

「せっかくだから中でお茶でも飲んでいって」

もう心臓バクバクで、
「お邪魔させていただきます!」
っと受け答えしてお邪魔した。


リビングのお父さん

リビングに入った瞬間、こちらに背を向けてテレビを見ている男性が座っている。
お父さんだ!!!

「お邪魔いたします!!!」

僕はほとんどお父さんだけに言うくらいの勢いで挨拶をする。

お父さんはチラッとこちらをみて

「あぁ」

と軽い挨拶。

このリアクションがあったことで、僕は腹を括り、お父さんの近くまでいく。

「先日はお電話で失礼いたしました」
「私がT-Penです!」
「どうしてもご挨拶がしたいと思っておりました。」
「よろしくおねがいいたします」

と、立て続けに話しかけ、頭を下げた。

ここは緊張していて、記憶は曖昧だが、唯一今でも思い出せるのは

「なんだ?結婚の挨拶か?」

と少し笑いながら返事をしてくれるお父さん。

「そんな緊張しないで。」

とキッチンから優しく声をかけてくれるお母さん。

「あ、いや、結婚の挨拶ではないです」

とバカ真面目に返事をする僕。

でも、この挨拶をきっかけに、あの子の家の空気が変わった。

あの子が2階から降りてきた。

「帰りは遅くなるなよ」

お父さんは、あの子に言ったのか、僕に言ったのかわからないが、そう言っていた。

僕はすかさず

「はい!無事送り届けます」

とまたシャキッと言い切った。

場が笑顔に包まれた。
僕は脇汗全開で、背筋もピンとしていたと思う。


その日から変わった

その日から、電話をかけてもあの子に繋いでくれるようになった。

それだけでなく、長くても30分で切りなさいなど、電話をしても良い条件の提示が電話口からお父さんに言われたり、お母さんと電話で雑談することもあった。

僕自身、ほどよい緊張はありつつも、電話をかけること自体は怖くなくなっていた。


今に思うこと

僕が中学生の頃は、電話するだけでも親が介入する環境だった。

遊びに行くときの待ち合わせも、時間と場所をしっかり決めないと合流もできない不自由さがあった。

今では、個人にアクセスできる。
すごく便利だと思う。
まぁそれはそれで、別の問題が生まれるのだろうけど。

個人的な好みを言うならば、個人に容易にアクセスできないあの環境は、なんだかんだ言って素敵な世界観だったなぁなんてことを思う。

僕は、そんな環境で、正面からぶつかるという経験をすることができた。
異性の友だちと電話で話す。
たったこれだけのことに、これだけの物語を経験できた。

小手先でごまかすのがめんどくさいと感じる感性と、わからないならわかりにいくというモチベーション。
これは、僕のその後の人生のいろいろな場面で出てくる。

今回、当時を思い返しながら、よく挨拶にいったなぁっと、当時の僕にちょっと感動してしまった笑
同時に、だいぶ運が良かったな…とかも思う。

あの子と、その家族を巻き込んだこの物語。

今、振り返ってみても、素敵な経験を積むことができたと思っている。

同時に、よくわからない行動を取る中学生男子に付き合ってくれたことに、この記事を書き終える頃には、改めて感謝の気持ちでいっぱいになった。

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