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実家で誰も言わなくなった英単語

僕が20代前半の頃の話。うちに友達が遊びに来た日のこと。

オヤジのすごいセンス

友達が言った。

「T-penのオヤジ、すごいセンスだね」

「なんで?」

「これ」

友達が指を差す方向に目を向ける。

親父の車のナンバー付近に、なにか付いていた。

ぱっと見は、鷲が羽を広げてこっちに向かってくるみたいなシルエットで、カスタムっぽくてかっこいい。足元に英字が入った、一体のデザインだった。

「あー、なんか付けたんだね」

どこで売ってんだよ

僕はよーくその装飾を見てみた。
そして、その場に崩れ落ちそうになった。

「……ん? bathroom ? え?」
なんと、鷲の足元の英字には、bathroomと書かれていたんだ。

確かこんなやつ

隣では友達が「最高だろ、これ。どこで売ってんだよ!!」と腹を抱えて笑っている。

僕も、もう笑うしかなかった。

おそらく、親父は文字など読まず、ぱっと見の雰囲気だけで、このプレートを選んだのだろう。

さすがに bathroom という英単語くらいは知っていたはずだが…

どこかで見つけて、「お、これいいじゃん」なんて言いながら、意気揚々と自分で愛車に取り付けたに違いない。

その光景を想像すると、なんだかもう、笑いを通り越して愛おしさすら込み上げてくる。

そのあとで気づく

装飾には、なにか「使用中」みたいなプレートをぶら下げるのか、バスタオルをぶら下げるものなのか、ハッキリとした用途はわからないが、フックも付いていた。

きっと、bathroomのドアに取り付ける装飾なのだろう。

意味が分かると、組み合わせのシュールさがじわじわと押し寄せてきた。

言うか、黙るか

その日からしばらく、頭の片隅に残った。

黙っていたら、このまま走り続けるのか。

言ったら、親父が恥ずかしがるかもしれない。

気づいてる息子が黙ってるのも、なんか変な気もする。

本気で、言うか黙るか悩んだ。

で、後日、それとなく伝えた。

bathroom が、どういう意味か。

長く説明はしなかった。

外れてから

あとから見たら、外されていた。

それっきり、家族の会話のなかで bathroom という単語が飛ぶことは、なくなった。

家族内で話し合って決めたわけじゃない。

ただ、ただ、bathroom という言葉は誰も言わなくなった。

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