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TABOO第2話



「いやー、しかし爆弾が見つかって良かったよな。ラッキーだったな。」

隣を歩く五分(ゴブ)太一は、上機嫌で話している。

「あぁ」

加見(カミ)祐輔は様々なことに思いを巡らせながら、ゴブの横斜め後ろを歩いていた。

2人は、ゴブの家に向かっているところである。

「ラッキー、か…」

自分は決して運が良い方ではない、と祐輔は自覚していた。

まさに「今日」大学受験に落ちたところだし、彼女にはすぐフラれる。

そんな自分がラッキーで事件解決に貢献する…?

今隣にいるこの男ゴブとの間に『色々あって』、何だかまだよくわからん能力に目覚めた。

その能力のせいで起きたラッキーでは…?



ほんの1時間ほど前の出来事だが、本当に色々あった。

大学に落ちてふらふらと歩いていたらゴブに出会い、そいつは妙な能力を持っていた。

『5秒だけ』人の心を読める能力だ。

自称エスパー、とは言わなかったが、その妙な男ゴブは人間の特殊な能力に詳しいらしく、

「お前も能力に目覚めてみないか?」という話になる。

これじゃあ完全に怪しい宗教のようだが、別にゴブから嫌な印象は受けていない。

自称エスパーとしないあたりも自分の能力の現在を自覚しており、基本的に常識はありそうなのだ。

能力に目覚めるために彼の家に向かうことになるのだが、その道中で事件に遭遇する。

ゴブが自身の能力で、助けを呼ぶ声を聞きつけるのだ。

よく考えれば、それが無ければ事件の発見も遅れたんじゃ?
やっぱゴブすごいわ。

そして爆弾が仕掛けられているビルに辿り着く。

あ、だいぶ端折ってしまったが、ビルにはお爺さん、男の子、女の子の3人が拉致されており、ゴブはその心の声を聞きつけたんだ。

助け出す過程で爆弾が仕掛けられていることもわかり、探すことになる。

今考えると相当な無茶だ。
ゴブに自身の能力への自信と、俺の能力を目覚めさせることによる勝算があったとしてもだ。
いや、彼の場合は完全に勢いで生きている感じもする。
まだ少しの間しか一緒にいないが。

そうだ、能力を目覚めさせ方もまた特殊で。

何やらゴブたちの界隈では常識なのか知らないが、


『人間は耳たぶに隠された能力を持っている』


らしい。

特定の条件を満たした者が耳たぶを引っ張ると能力に目覚めるらしい。

俺の場合は、拉致されてたお爺さんに引っ張ってもらった。
大変な状況なのにね。


それでここからが、今の俺の悩みの本質よ。

何かその後から、感覚が敏感になったような気がする。

そのおかげで、結果として爆弾を見つけられたようなものなのだが。

人の気配を敏感に感じるし、爆弾が入っていた箱も微かに光っていたような気がした。

その辺りの詳細を、ゴブ界隈の勝手知ったる人物に聞かないと、このモヤモヤはどうにも収まらない。
詳しいはずのゴブは「ラッキー」で片付けちまってるんだから、困ったもんだ。


そんな目的を持ちながら、祐輔は今ゴブについて行っているのであった。

ゴブは相変わらず上機嫌で、祐輔が考え事をしていて生返事なのも全く気にしていない。基本的に細かいことは気にしないらしい。


「おーい、太一か?」

前から歩いてきた警察官が、ゴブに話しかける。

「あ、ヒサさん!」
ゴブとは顔見知りらしい。

マジかよ、警察に知り合いいるのか?
コイツ何者だよ。
思わず祐輔はそう思ってしまう。

「やっぱりな」
その警察官はニヤリとする。

「え?」

「いや、俺はこれから例の爆弾事件のビルに行くんだけどさ、
そこにいる警察官に連絡受けた時に『妙に偉そうで生意気な兄ちゃんがいる』って言ってたから太一じゃねぇかって思ってよ」

「はは、なんだよそれ」

警察官の言葉にゴブは笑っている。

ゴブが『何だか偉そう』っていうのは共通認識なのか。
なんとなく祐輔は安心する。

当のゴブ本人は、偉そう、生意気などといわれても別に気にしていないようだ。

「けど太一、なんだか事件解決に貢献したらしいじゃねぇか」

こう言われると、ゴブはますます上機嫌だ。

「いやーそうなんだよ!
こっちの奴もさ、祐輔っていうんだけど」

「お、そうなのか。
武田久留(ひさとめ)っていいます。よろしく。
太一とは、こいつの親父さんの関連もあって、前から知り合いでね。
こいつにはヒサさんって呼ばれてて、
中にはトメさんって爺さんみたいな呼び方する奴もいるな」

笑いながら挨拶する武田さんという警察官はとても好印象だ。
ゴブにも教育してやってほしい。

確かに爺さん扱いされるには程遠い、バリバリ働く30代って印象だ。


「ヒサさんはさ、耳たぶの特殊能力に関連する事件を専門に扱ってんだぜ」
ゴブが祐輔に説明すると、ヒサさんは少し驚いたように、

「お、その話をするってことは、
事件にも協力してるし、その子も能力者なのか?」


…能力者って!何かのマンガみたい。
祐輔はそう思ってしまう。


「いやー、詳しくはわかんなんだけど、たぶん目覚めたんじゃないかって思うな。ハゲの爺さんに引っ張ってもらったし」

「え?!お前そう思ってたのか?
なんか全然興味ない感じだったけど!」

祐輔が思わず口に出すと、ゴブはバツが悪そうに答える。

「だって聞いたところで俺は全然能力に詳しい訳じゃないしよ…」

ゴブなりに配慮してくれていたらしい。全然気付かなかった。
なんだかゴブは損する性格だな。

「あの、さっきの爆弾事件は、その能力者ってのが関わってるんですか?」

ヒサさんに聞いてみる。

「そうだな、簡易的な爆弾が仕掛けられる事件が、このごろ多発してる。
太一は俺から聞かされてるから、何か気付いたかもしれないけどな。
材料の購入ルートも上手く辿れないし、奴らの中に爆弾を作る能力者がいるんじゃないかと睨んでるんだ」

ゴブが頷く。
そういえばそんなことビルの中で言ってたな。

「奴ら、ってのは?」


「能力者の集団、通称『片耳集団』だ」


祐輔が聞くとヒサさんがそう答える。
『片耳集団』の響きに、祐輔はゾッとしてしまう。

「片耳?なのは何か理由があるんですか…?」

「能力を目覚めさせる時ってのは、君もそうだったかと思うが…
まぁなんだ、ハゲのお爺さんに耳たぶを引っ張ってもらったんだろ?」

「あ…そうですね」

祐輔とヒサさんはお互い苦笑いする。

これはゴブに理由を説明されたが、なんともめちゃくちゃだった。
なんだか、『抜ける性質』がなんとか…
思い出すだけでも苦笑いしてしまう。

「なんでも、引き出される能力ってのは、片方の耳たぶに集中した方が強くなると言われてるらしい。俺らは試したくもないんで知らないがな…
耳自体を切る必要はないらしくて、奴らは耳たぶが片方しかないんだ。
そんで、強化した能力で何かよからぬことを企んでる。そこんとこもまだ不明だ。」

そんなことが起きていたとは。

なんか最近事件が多い気がするのもそのせいなのか…?

祐輔は呆然とする。


「俺はそいつら片耳集団によるものと思われる事件を担当する、
『耳垂特殊能力関連事件捜査担当班』、通称ミミタン所属だ」

祐輔は思わずヒサさんの顔を見てしまった。

ミミタン??!

耳を疑うとはこのことか。

横でゴブはニヤニヤしている。
「ミミタンはウケるよなー」

「うるさいぞ、太一。俺は今から現場の捜査手伝いに行くが、後日君ら2人の話も聞きたいと思ってる。さっき祐輔君によろしくって言ったのは、後でまた話を聞きたいからってのもあるんだ。
すぐ現場からいなくなっちまうから、現場の奴らが困ったって聞いたぞ」

「だってよ、テレビカメラも集まってきたから、なんだか嫌で…」

「そうか、お前はカメラが苦手だったな」

ゴブとヒサさんの会話はちょくちょく気になる所が出てくる。

「カメラ、苦手なのか?」

祐輔はゴブに思わず聞いてしまう。


「だってなんか、魂抜かれそうで…」


昔の人か?!


祐輔はツッコミたい気分だったが、
隣のヒサさんは事情知ったる顔で微笑むくらいだったので、あまり笑い話でもないのか。
それ以上は祐輔も触れないことにした。


「…じゃあ、また明日にでも警察署に行くよ、ヒサさん」

「おう、頼むぞ」

ゴブとヒサさんの口約束で、今日のところは俺たちは帰ることになった。

「あの、警察なら俺の能力のことわかりそうな人もいますかね?!」

祐輔は最後に思い切ってヒサさんに聞いてみた。

「…そうだな、俺らは能力の研究をしてるってわけじゃないが、
いくらか詳しい者はいるからわかるかもしれないな」

ヒサさんの言葉に祐輔はいくらか安心し、ゴブと共にヒサさんに別れを告げた。



「警察ってやっぱ憧れるよなー。
俺もミミタンに入りたいんだ、名前はダセぇけど」

また歩き始めながら、ゴブはニッと笑う。

「そうかぁ」

こいつは爆弾事件の時もそうだったが、ホントに正義感が強いんだな。

祐輔は返事をしながら感心してしまう。


しばらくすると、前からデカいヘッドフォンを付けた男が歩いてきた。

すれ違う時、ゴブはジロジロと男を見ている。

「どうした?」

男と距離が離れてから、祐輔は聞いてみる。


「いや、ああいうのどうも苦手なんだよなぁ。
ワイヤレスホンとかで歩きながら電話してる奴もこっちはビクッとするし、周りのこと気にしてんのかよって感じだぜ」


…まぁもっともだが、ワイヤレスホンの件は完全に日頃の鬱憤としか思えないし、さっきのヘッドフォンの男も別にガンガン音漏れしてる訳でもないから良いのではないか。

ゴブは正義感も強いが、こだわりも強めだな。

祐輔は苦笑いをしながらゴブを見る他ない。

確かにデカいヘッドフォンにサングラスという男の出で立ちは多少怪しげではあったが。


またゴブを見ると、まだ振り返ってあの男を見ている。

「おいおい…」

祐輔が言いかけると、


「あーーーーーーー!!!!」


ゴブが急にデカい声で叫ぶ。
こっちの方がよっぽど周りに迷惑だろ!

「な、なんだよ?!」


「あいつあの店に入ったぞ?!
あそこは爺さんが一人でやってる骨董品屋なんだ。
ヘッドフォンなんてマジで迷惑だろ!」

自分も迷惑ゴブはもう走り出している。


そこの正義感??!


祐輔は慌てて後を追った。


第2話 完


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