僕は歯磨きをしながら泣いている
結婚する。
休日に提出する婚姻届に
不備がないかこれから役所に見てもらう。
彼女の家に婚姻届をとりに来た。
彼女は仕事で不在。
大役を僕が担う。
部屋に入ると
引っ越しの段ボールが積まれていた。
まだ数箱しか積まれていなかった。
明日の引っ越しに間に合うのだろうか。
生活感が残り過ぎている。
さて
役所に行く前に歯磨きしよう。
敷布団に腰掛けながら
しゃかしょこ手を動かす。
積まれている数箱の段ボールに
目をやった。
氏名の欄を見た。
律儀にフルネームで書いてある。
少しの違和感を覚える。
苗字が僕の姓になっていた。
それを見て僕は泣いている。
歯磨きをしながら。
ああそうか、
僕は結婚するんだ。
嬉しいのか
悲しいのか
寂しいのか
わからない。
どうして僕と結婚するのだろう。
どうして僕は結婚するのだろう。
住みなられた土地を離れ
遠い地にやってきた。
両親も置いてきた。
訳あってここ2年ほど一緒に暮らしていた。
実家暮らしの恩恵をたくさん受けた。
仕事も辞めた。
僕は彼女に嫌わられるであろうことを
たくさんしてきた。
遠距離
低年収
わがまま
なのにどうして
僕と結婚するのだろう。
なんで僕はプロポーズしたのだろう。
彼女に「嫌われたくない」
の最終形態なのだろうか。
彼女は僕と電話する時も
デートするときも
いつもほんとに楽しそうだ。
僕は、今ある幸せを捨てて
彼女の幸せになるのだろう。
両親にはたくさん心配をかけてきた。
きっと今もしている。
想うと尚更泣けてくる。
貯金もないし、
借りた金も返済できてない。
僕みたいなクズみたいな人間
と自分で語りかけている。
そんなことはないのは知っている。
でもどこかで僕は消えてしまいたいのだ。
消えたらきっと悲しむ人がいる。
その姿を想像しただけで
消えないことにする。
もう冬だ。
外は風が強い。
明日の朝は冷え込むだろう。
明日は引っ越しだ。
二人で住むのだ。
楽しみでもない。
嬉しくもない。
彼女は楽しみだと言ってくれている。
もう一度、
段ボールに書かれた名前をみる。
僕と結婚してくれてありがとう。
思い描いていた理想像もなかったけれど
こんな弱気で結婚するとも
思ってもみなかった。
あぁ、そろそろ行かなきゃ。
役所が閉まる。
追記
婚姻届の提出も
引っ越しも無事に終わった。
結婚初夜を迎えた。
乳房を弄ぶ。
舐めながら
僕は故郷を思い出していた。
この2年間でやってきたこと。
おかんと出かけた場所。
何気ない日常のひとコマ。
仕事までの道のり。
休みの日のお昼寝。
父親の作った晩御飯。
もう二度と戻ることはない
過ごした日々を。
舌を動かす。
妻の喘ぎ声が聞こえてくる。
いつもより遠くから
聞こえてきた気がする。
現実と思い出の狭間で
僕は暮らしている。
(1080文字)
