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ブルーのミステリーゾーン


【シロクマ文芸部:シャボン玉】
※小牧幸助様主催のお題に寄せて



「シャボン玉のような物が、
フワフワと湧き上がるのを見ました」

作業員たちは、口々にそう
同じ証言を繰り返す。

「あっちにある、大きな岩の陰から」

現場の責任者は、苦虫を噛み潰した
ような表情を浮かべながら、
赤土の斜面をそろそろと
西から東へと歩き進んだ。

作業員達から呼び出され、
昼食もそこそこに、現場を訪れた
責任者の男は不機嫌だった。

こんな高い山の斜面で、
誰がシャボン玉など
飛ばすと言うんだ?

誰かがイタズラしているのなら、
こっぴどく叱り飛ばしてやる!


日当たりの良い斜面は、
とても見晴らしが良い。

竹に覆われた低い山々と、
散在する溜池。

昔ながらの古い家並みが、
牧歌的な景観で広がっていた。


兵庫から岡山までを貫く
山陽自動車道の建設工事現場。

この小さな村の端では、
山の斜面を一部削りながら
高速道路を敷き、山にダイナマイトで
穴を穿ってトンネルを通すのだ。

一大事業を担う者として、
不審な出来事は、キチンと調べ、
必要なら対処しなければ。


作業員達が指した岩に着く。
周囲に人の気配は無い。

「子供がいるかも知れない」

作業員はそう言ったが、
いくら田舎の野生児と言えど、
立ち入り禁止の柵を越え、
こんな急な斜面の中腹まで
誰にも見られず遊びに来たとは
到底考えられない。


「誰か居るのか?!」

誰何の声も、青空に吸われて消えた。

「まったく・・・」

左手を岩に当て、彼はグルリと
岩の東側へと回り込んだ。

「ん?」

岩は、東側が少し張り出して
ひさしのようになっていた。

その庇の下、地面と岩の境目に
ポッカリ開いた穴がある。

(ま、まさか・・・)

どこかから迷い込んだ子供が、
あの中に落ちたのかも知れない。

そして、声も出せないほど衰弱し、
シャボン玉を飛ばして、
助けを呼んだとしたら・・・

男は戦慄した。

工事現場の責任者として、
一般人を巻き込む事故など
最もあってはならない事だ!!


「穴掘る道具を持ってこい!」

責任者の男は叫んだ。
作業員たちは、手に手にスコップや
ツルハシを持って駆けてきた。

「そっとだ!少しずつ穴を広げろ!」

責任者の指示に従い、
作業員たちは穴を広げて行く。

やがて、彼らがそこに見たものは?


1985年、兵庫県の山陽自動車道
建設工事に伴い、姫路市の現場にて
古墳時代〜平安初期に
かけての古墳群が発見された。

その後の考古学的調査によって、
須恵器や陶磁器
鉄器に玉類のほか、火葬人骨など
多くの貴重な出土品が発掘された。

一通りの調査の後、予定通りに
高速道路が完成する。
人々は当初、祟りで事故が多発する
危険を囁いたが、特にそのような
悲劇は起きなかった。

なお、当時発見のキッカケとなった
複数の同一証言、

『シャボン玉のようなもの』

が何であるかは、未だ謎のままだ。


※【其の一】古代からの声・了 ※






姉弟が、テレビを観ていたある夜。

突然ガラッ!と引き戸が開き、
現れたのは、祖父だった。


「・・・お母ちゃんは?」

「は?!」

「お母ちゃん、今までワシと
話をしとったが、急に居らんなった」

「何?寝ぼけてる?」

「ワシは寝ぼけとらん!
お母ちゃんは?!」

「お母ちゃんて、誰の話してんの?」

「お前らのお母ちゃんや!」

「やめてよ!」


私は思わず叫んだ。


「お母さんの十三回忌、この前
やったやないの!急に変な事
言い出さないでよ!!」


祖父はポカンとし、
遠い目をしてブツブツ呟いた。

「ワシ、さっきまで、お母ちゃんと
話を、しとった、たしかに、
さっきまで、そこで・・・」


私は少し怖くなり、
痴呆の症状が出始めた以外、
しごく健康体な祖父を見た。

怒りっぽくて、気が強い
恐ろしかった祖父は、
子供のような澄んだ目をして
宙を見つめていた。


そして、数日後の冷えた朝、
祖父は静かにこの世を去った。

前夜も夕飯をモリモリ食べて、
いつもと変わらず就寝し、
そのまま目覚めては来なかった。

あれは何だったのか?と、
私は思った。

俗に言う、『お迎え』という
現象だったのだろうか?

しかし、祖父母と折り合いが悪かった
私の亡母があの祖父を
迎えに来るなんて考え難い。
やはりあれは、耄碌していた
祖父の夢であったのか?


それから数年後の夏の終わり、
祖母が私にこう言った。

「おじいちゃんが、店へオヤツを
買いに行って戻らない。見てきて」

私は、「え?」と聞き返し、
祖母は同じ依頼を繰り返す。

「おじいちゃんの三回忌、
もう今年終わったよ」

私がそう言うと、
祖母はどこか遠くを見つめた。

子供のように、澄んだ目で・・・

その秋の盛りに、
祖母は天寿を全うした。


※【其の二】“お迎え”という事象・了※






それは、娘がやっと立てるように
なったばかりの事だった。

ダイニングのテーブルの
縁に手が掛かる身長に育ち、
夕飯の準備に追われる私の背後で
ヨチヨチと“伝い歩き”をしていた。

手が滑ってコケないかと
ヒヤヒヤ注意しながら準備を終えた。

娘はまだ、テーブルから上に
顔が届いてはおらず、
テーブル上に何があるか見えない。

私も娘が触れないように、
家族の食器をテーブルの中央に
固めて置いていた。

料理は危険なので置かなかった。


さて、準備が整って娘を保護し、
家族を呼ぼうとテーブルを見た。


あれ?


全員分の箸と茶碗。

確かに全て揃えて置いたのに、
テーブルの中央から、赤い私の箸の
片方だけが消えている。

すぐに床を探したが、
転がって落ちはしていない。
娘の手を見たが、勿論持ってない。
両手でテーブルをしっかり掴み、
やっと立っていたのを抱き上げた。

まだ片手を離すことは出来ない。
娘が箸を取ったとも思えない。


箸は見つからなかった。


娘に届かない、テーブルの
真ん中から忽然と消えた赤い箸。
それも片方だけが、部屋のどこにも
見当たらないのだった。


そして今、三十路を過ぎた娘に問う。


「あの時、お母さんの箸の片方が、
どこに消えたか知らない?」

娘は答えた。

「知らんわ!」


赤い箸の片方は、
三十年が過ぎた今なお
発見されていないのだ。


※【其の三】消えた赤い箸の謎・了※




🫧この記事は、私の周辺で
実際に起きた出来事に、
一部創作を交えて構成しています🫧


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🦉迫力のタイトル画像は
兵庫県出身の写真家
宇都宮遼 様の作品です🦉


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