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レシートから始まる恋の物語


レシートに、謎の名前・・・


その欄は、多分そのレジを
入力した人の名前が載る所だ。

◯川◯子とか、☓山☓男とか。

しかし、そのレシートにはカタカナで

『ポポラス』

そう記載されていた。


「ポポラス?外国の人?
そんなレジ通ったっけ?」

店はおそらく、通勤で使う道に
沿って建つホームセンターだ。

購入品は、乾電池と箱ティッシュ。
それからレジ横の、のど飴を一袋。

大した買い物ではない。
ティッシュだけで良かったのに、
余分に電池と飴も買った。

レジを通る時、確かスマホが振動して
画面を見ていた。

だからレジ打ちの相手の事を、
ほとんど見なかったのだろう。


ポポラス


何だか軽やかで、可愛らしい響き。
女性だった気がするけど、
ハッキリ記憶してない。

何だか気になる。

また帰りに寄ってみよう。

数日後、シャンプーの詰め替えが
切れたので、またあの店に寄った。

数台のレジを見渡すが、
“ポポラス”の名に該当しそうな
外国の人は見当たらない。

期待した訳でもないが、
少しガッカリする。

シャンプーの詰め替えと、
洗口液の予備を手にレジへ。

担当者は少し年嵩の、
クールな感じの美人だった。


「ありがとうございました。
またお越しくださいませ」

綺麗なお辞儀で送られて、
僕はエコバッグに購入品を
放り込みながらレシートを見た。


ん???


例の担当者名の欄には、カタカナで

『シモーヌ』

はぁ?あの人、フランス国籍?

振り返った僕の顔を見て、
“シモーヌ”さんは僕に問う。

「何かございますか?お客様」

「え?あ、い、いや、あの・・・
“シモーヌ”さん?」

「ああ!」

彼女は微笑んで、小さく首を振る。

「最近は、ニックネームが記載
されるシステムになりまして」

「え?ニックネーム?」

「他の店舗の従業員が、
レシートのフルネームに起因して、
ストーカー被害に遭いまして」

「あ、なるほど!有りそうですね」

「以前から名札も廃止の声が
上がっておりましたので、事件を
未然に防ぐ意味での対策です」

「そうかー、じゃぁ僕が
“ポポラス”さんの正体を訊いても
教えて貰えませんよね」

「申し訳ありませんが、そうですね」

「何だか響きが可愛くて、イメージ
してしまいました。恥ずかしいな」

「あら!」


レジの女性は明るく笑うと、
やって来た客に隠れるように
コッソリ囁いた。


「そのイメージ、大丈夫だと
思いますよ〜🩷」


その後の休日に、
僕はまた、フラリとあの
ホームセンターへ買い物に寄った。

いつもは仕事帰りに立ち寄って、
必要なものを数点買うだけの
バタバタした感じだから、
今日はゆっくり店内を歩き、
色んな商品を見て楽しむつもり。


季節も変わって来たことだし、
部屋の模様替えも考えてみる。

カーテンも良いが高いなぁ。
クッションはどうか?
部屋にキャンプ用の椅子を置くのも
なかなか寛げると聞いたよな。


一人暮らしの侘びしい部屋だが、
少しでも明るい季節を演出して
みるのも楽しそうだ。

なんて、僕の柄でもなく
今まで全く興味を持たなかった、
植物のコーナーへ足を向けた。

まるで小さな植物園みたいで、
緑の中に居るのは心地が良い。

その中を進むと、外の植木などを
売っている場所へと
出られるガラスのドアがある。

そっと押して、外売り場へ。

まばゆい春の日差しに、
目が眩んで思わず細めた。


白い光の中、人影が見えた。

あまりに眩しくて、
輪郭が光に溶けそうだった。

その人は、綿毛のようにフワフワ
した癖っ毛を、後ろでギュッと
束ねていた。

ちょっとダサいこの店の制服も、
彼女には似合って可愛く見えた。


光に目が慣れて、
夢から覚めるように
世界がハッキリして来ると、
彼女は僕に気づき、笑顔を向けて

『いらっしゃいませ』

と、鈴の鳴るような声で
僕に言葉を投げた。

彼女の背後には、何やら
青っぽい緑の丸い葉を付けた
庭木の苗が揺れている。

それがまた、彼女の柔らかで
愛らしい様を引き立てていた。


無意識に、声が出ていた。


「・・・ポポラス?」


彼女は一瞬、目を丸くした。
それからハッ!としたように
小さく頷き、僕に応えた。

「はい!この木が“ポポラス”です
植物にお詳しいですね!」

「え?」

「はい?」

「“ポポラス”って、木の名前?」

「はい。ユーカリの品種です」

「あ、そーなんだ。へー・・・」

「あら?ご存知かと」

「いえ全然。何なら植物オンチで」

「私が好きな木なんです。
このコを買って、ベランダに
置こうかなって、見てました」

そう言って笑った彼女が
“ポポラス”に違いないと、
僕は何故か確信した。

「じゃあ、僕も買って帰ろうかな」

「ホントですか?」

「はい。何か可愛いし」

「ですよね!丸い葉っぱが
並んでるとことか、それに」


彼女は僕に向かって、
小さくピラピラと手招きする。

僕は思わず、それに応じて
彼女の隣に並んだ。

「こうやって、葉っぱを揺らすと
いい香りもしますよ!ほら!」


彼女は小さな手で、
ポポラスの葉を軽く揺らす。

明るい光の中で、
丸い小さな葉が揺れて
ミントに似た爽やかな甘い香りが
周囲を包んだ。


「ホントだ。いい香りですね」

「でしょ?蚊が来ない香りだ
そうですよ。ベランダに良いですね」

「最高じゃないですか」


僕の言葉は、半分意味が違っていた。

だって・・・


「はい!」


そう言って、嬉しそうに笑う
彼女を讃える言葉として、
僕は『最高』だと口にしたのだ。


そして今、僕のベランダと
彼女のベランダにはお揃いの
“ポポラス”の鉢が置かれている。

鉢に水をやりながら、
僕はボンヤリと、明日の日曜日に
彼女と約束した、植物園デートの
服装について思考していた。


春風に枝を揺らしたポポラスが、
彼女のような、爽やかに優しい
甘い香りで僕を包んだ。


ユーカリの一種『ポポラス』


※※※ END ※※※


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