セイロンライティア/憧れのひと【花物語10】
その人のイメージは、
いつも白だった。
窓から差す、白い光。
白いカーテン、白いベッド。
そして、あの人の白衣。
「あれ?!今日はどうした?」
体が弱かった僕に、
いつもそう言って笑う、
先生の笑顔で楽になった。
母のお供無しに、
一人で通院出来るようになっても、
先生は変わらずに、
僕を迎え、話を聞き、
そして励ましてくれた。
「よーし、一緒に治そうか!」
まるで男友達のような口調。
それでも優しさに溢れていた。
先生が居てくれる。
そう思うだけで、元気になれた。
憧れた。
人として、医師として、
そして・・・・
異性としても。
あれから僕は大きくなって、
体も鍛え、健康を手にした。
全て、先生のお陰。
そう、心から感謝している。
梅雨明けの晴れた日、
随分久しぶりに、先生を訪ねた。
診療所の建物は、
こんなに小さかったっけ?
懐かしいドアを開くと、
僕は昔に戻った気がした。
窓から差す、白い陽光。
白いカーテン、白いベッド。
そして・・・
「あれ?!」
その人は、変わらぬ笑顔で
僕を迎えてくれた。
先生も、随分小さい気がしたのは
僕が大きくなったからだろう。
白衣姿も変わりはないのだが、
昔は掛けていなかった老眼鏡と、
キッチリ結んだ髪の白さが
あの頃とは違っていた。
「先生、お久しぶりです」
僕が差し出したのは、
花屋で見かけた白い花。
緑の葉に優しく揺れる、
真っ白い清楚な花が、
先生のイメージと似合っていて。
「セイロンライティアだね?」
「ご存知でしたか?
僕は知らなかった」
「好きな花だよ、ありがとう」
先生は、鉢植えを窓辺に置くと
振り返って笑顔を見せた。
「ああ、それから」
先生が伸ばした手を、
僕はシッカリ握り締める。
「医学部合格、おめでとう」
いつも僕を癒してくれた、
あの優しい手も小さくて、
細かなシワが感じられた。
「ありがとうございます!」
両親と、兄妹と、友人と。
何度も受けた祝いの言葉だが、
今日のが一番嬉しかった。
「患者の心を知る君は、
きっと良い医者になるだろう」
その言葉を、心に刻む。
「頑張れ!」
白いカーテンが揺れる。
窓辺の白い花も。
僕の心に揺れはない。
「先生、あなたは僕の目標です。
今までも、ずっとこれからも」
「バカな事を言うなよ」
先生は、ニヤリと笑う。
「私なんか、越えて行け!」
僕は笑って頷いた。
でもね、先生。
すみませんが、
あなたはやっぱり、
永遠に僕の憧れです。

※※※ 『花物語10』了 ※※※
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