ドキュメント・オカンの一番長い日
風が吹く・・・
ええ、そりゃーもう、
ビュービューと音立てて。
私の心の中に、風が吹き荒れた、
あの朝の事を、一生忘れない。
有り体に言ってしまうが、
私は家事全般が好きではない。
母が早くに亡くなったので、
仕方なく、渋々、嫌々続けて来た。
それだけなので、とりあえず慣れで
アレコレこなしているが、
どれもコレも好きじゃないのだ。
中でも掃除が最も嫌い。
上手く出来ないのもあるが、
嫌なのに一生懸命綺麗にしても、
自分以外の誰や彼やは気にもせず、
すぐに汚す。散らかす。
不毛!!!😭
お掃除が趣味だ。
整理整頓が得意だ。
カリスマ家事マスターだ。
そういう素晴らしい人物が、
画面に現れた瞬間にチャンネルを
切り替える。
私には、関わりのねぇ方でござんす
世よ人よ、蔑むがよい。
嫌いなものは、半世紀経とうが
何年主婦をやってようが
好きにはなれないし、
好きじゃないから考えたくないし、
嫌々やるからまた嫌いになる。
『負のスパイラル』のお手本だ。
そんな私に、試練の時が来たのだ。
その薄暗い、都会の下町の
ボロアパートに着いた時、
閉じたドアの向こうから、
何やら禍々しい、漫画ならカケアミの
モヤモヤが漏れ出ているのを感じた。
《AIによるイメージ画像》

そして、勇気を出して合鍵を差し込み
主不在のワンルームを目にした私の
心に冷たい風が吹き抜けた・・・
“混沌” と呼ぶにも酷く荒れ果てた、
その狭いワンルームを目にして
私は立ち尽くす。
それはもはや、人の住まいではない。
“巣” だ。
何かの生き物が生息している、
あるいは人外の者が巣食う“巣”
小まめに不要物を撤去する
燕の巣の方がおそらく綺麗だろう。
こ、これが・・・
これが我が息子の住処だなんて!!
まあ、一人暮らしの男子学生。
学業にバイトに明け暮れてりゃ、
よほどの綺麗好き、掃除好き以外は
部屋が荒れても仕方ない。
そんなのいいトシした親がどーこー
口を出すことでは無いのだ。
自己責任である。
だが、この朝はそんな呑気なことを
言ってる暇など無い。
何故ならば?
翌朝9時に、
引っ越し業者が来ちゃう!💦
息子は卒業を迎え、
就職が決まって明日引っ越すのだ。
私も繁忙期で仕事を休めず、
段取りだけ決めて後は息子の
自主性に賭けていたのだ。
それが、このアリサマ・・・
カジノなら破産。
株式なら大損。
信用して賭けて、
そして・・・負けた(ガックシ…💧)
もはや、私の胸の中では、
砂混じりの強風が吹き荒れて
タンブルウィード(西部劇などで
地面を転がる草の塊)がコロコロ
転がりまくっていた。
「こ、これを私にどー…しろと?」
段取りはしてやった。
それでも甘すぎるとは思ったが、
任せておくのは危険と不安の
組紐細工みたいなもの😰
ここは自分である程度、
頑張ってもらうつもりであった。
引っ越し業者から、荷造り用の
段ボール箱10枚が届いたのは
確認していた。
あとは適当でも良いので、
それに荷物を収めてしまえ。
最後に残った生活用品と、
検査前の掃除は手伝いに行くから
そういう約束になっていた。
数日前に、電話で話した。
「荷造りはどんな感じ?」
「うん、まぁ出来る範囲はやった」
「そう、じゃあ仕上げは手伝うわ」
「それなんだが、引っ越しの前日に
就職先の研修が入ったんだ」
「え?」
「俺は夜まで帰れない。オカン
一人で準備しといてくれ」
「はぁ?!」
「俺の出来る範囲はやっとくから
悪いけど頼む!じゃ!」
「じゃ!…って?…え?」
そして、引っ越し前日の朝。
私はカオスの中に居た。
『俺の出来る範囲』がどの程度か
見極める能力が皆無であった。
てか、一体どこが“俺の出来る範囲”?
混沌の中、引っ越し業者の
名前が入った箱が二つだけ
組み立てられ、梱包されていた。
マッキーで書いた下手な字を読む。
ひとつは “パソコン関係”
もうひとつは “ゲーム関係”
ノートパソコンは、専用バッグで
手持ちすると言っていたから、
箱の中は周辺機器か?
ふふ・・・
おまえの“出来る範囲”
ちっさ過ぎないか?!💢
そこから、私の人生60年において
最も過酷で、最もキツくて、
最悪の長い長い24時間が
スタートするのであった。
どこから手を付けてよいやら、
何から始めたらよいやら、
整理整頓清掃の、どれもが苦手な
私には難題であった。
洗濯機の排水ホースは、
言いつけた通りに排水管から引き出し
水切りを終えていた。
それを本体に固定し、
ガムテープで蓋も固定。
冷蔵庫は空にしてあるので、
それも蓋を固定した。
家具という程のものは無く、
コタツは畳んでまとめてあった。
大物は運び出せる状態。
搬出はプロに任せよう。
次に衣料関係。
部屋中の至る所に散乱し、
どれが洗濯前なのか後なのか
見分けが難しい。
臭いで判別など絶対したくない😖
もうどうでもいい。
とにかくレジ袋で種類だけ分けて
(下着とか、Tシャツとか)
持ち前の体重で圧縮し、
ヤケクソで箱詰めを終えた。
当時はオサレに縁がない男なので
それほど多くはなかった。
多くないのにあれだけ部屋中に
散らかせるというのは、
もはや才能では?
そんなワケあるか!💢💢💢
心の中で、息子への罵倒を
叫び倒しながら作業に没頭する。
するしかないじゃん😭
だって時間は刻々と過ぎるのだ。
引っ越し業者が来るまでに、
全ての荷造りを終えるのだ!!
シクシクシク😢
なんで私がこんな事を?とか
そんな事を考えても無駄だ。
嘆こうが、呪おうが、
引っ越し業者は来る!
待ったなしの、制限時間あり。
やるしかないのである!
シンク下、クローゼット、ロフト、
片付けに片付けて回る。
その様をもし、誰かが目にしたら
『鬼神のごとし!!』
と、おののいただろう。
関西に古くから伝わる形容詞、
必死のパッチ
という状態の私であった。
そこで、不備に気付いた。
ゴミ袋が足りない。
更に、荷物が片付いた後、
管理会社の査定が来るので
追加の費用を請求されないためには
文句の付けようもないほど
部屋を綺麗にしなければ。
しかし、掃除に必要な物が無い。
掃除機は買ってやったのがある。
他は無い。
家事の達人でもない駄主婦には、
便利な道具は必須であった。
“たびびとのふく” と
“ひのきのぼう” だけを装備して、
ドラゴンのダンジョンに来てしまった
レベル1の勇者。
それが今の私😭
そして決断した。
一駅隣のホームセンターまで、
徒歩で買い物に行く!!
道具屋(←違)までかなりの道程。
それでも行くしかない。
昼を過ぎてはいるが、
昼食を摂る余裕など無かった。
長い道を歩き、
ホームセンターに辿り着く。
手当たり次第に必要な物を
カートに乗せてゆく。
とりあえず、思い付く道具は
全て揃えた。
かさばり、重い!
これを手に、あの道のりを歩くのは
無理なのは分かっていた。
私は当時、現役の
ホームセンター従業員。
ホームセンターには裏技が有る。
貸し出し無料トラック✨️
大物買い、大量買いで、
車を持たない客が利用出来、
1時間半までに返せば無料。
仕様はオートマ。
私はホーム戦隊員。
ホームセンターのサービスには
精通しているのだ!
店が違えど、大体この辺りの
設定はどこも同じだろう。
その読みは当たった。
サービスカウンターで運転免許証を
提示して、トラックを借りる。
買い込んだ掃除道具や、
もうカビ取りでは綺麗に出来そうに
ないシャワーカーテンを購入し、
貸し出しの軽トラに積み込んだ。
徒歩では長かった道程も、
軽トラだとスイスイ✨️
車って、有り難い😭💕
あっと言う間にアパートに着き、
取り敢えず荷物を玄関に投げ入れる。
そして来た道を引き返し、
トラックを無事に返却した。
返したら、帰りは徒歩。
とほほ、トボトボ・・・(駄洒落💧)
でも、ちゃんと考えてる。
帰りにコンビニに寄り、
サンドイッチと野菜ジュースで
簡単な昼食を採った。
朝、家を出る前に食べてから、
飲まず食わずでもう夕方。
侘びしい😢
半世紀生きてきて、
こんなに労働した事はない。
でもまだ全然終わってない!💦
さて、遅すぎるお昼も済ませて
地獄へとリターンする。
買ってきたゴミ袋に、可燃と不燃を
分けてドンドン詰めこんだ。
引っ越しゴミの表示を貼って、
集積所の隅に置かせてもらう。
ゴミを片付けると、少し部屋が
広く綺麗になった気がした。
段ボール箱は、今夜使うもの以外
九つが整った。衣装ケースと家電。
業者さんに積み込んでもらう体制が
出来た所に息子が帰宅。
「ただいま〜」
ただいま〜じゃねーわ!!💢
呑気者かよ!!💢💢💢💢💢
食器を梱包したので、コンビニの
お弁当で夕食を済ませた。
朝はパン。それがこの部屋での
最後の食事となる。
片付けて広くなったロフトで
息子は就寝。
私は積んだ段ボール箱に囲まれ、
隙間で寝袋の就寝である。
クタクタで狭くて、寝られない。
隣室から異国語の会話が聞こえ、
上階からは・・・
18禁の音声が、LIVEで聞こえてきた
朝、息子は今日も研修へ行く。
私は一人、最後の布団と寝袋を
荷造りして業者さんを待った。
よくぞここまで頑張った!
褒めてつかわすぞ、私!
やがて、引っ越し業者さんが来て、
二人で手際よく荷物を積み込む。
感じの良い方たちで良かった。
最後に缶コーヒーの差し入れと、
ポチ袋に入れた心付け(チップ的な)
をお渡しして礼を述べた。
段ボール箱と家電が去った部屋は、
急に生活感が失われた。
あとは、夕方やって来る管理会社の
査定を乗り切るため、
追加料金ゼロを目指して
部屋をピカピカに掃除するのだ!!
ヒィ〜!😭😭😭😭😭😭😭
あれから十年近く。
還暦を迎えた私だが、
その人生の中でもあの日ほど
掃除と向き合った事は無い。
負けたくない。
それだけだった。
悪いのは息子なんだろうけど、
当面、私の敵は査察の人。
こちらのアラを探し、
なけなしの金を徴収しようと企む
悪の手先認定である。
文句の付けようがない程掃除して、
シャワーカーテンも取り替えて、
真っ白にして引き渡すのだ!
その意気込みで、隅々まで掃除して
追加料金の請求ゼロを勝ち取った!
頑張ったぞ!私!!🎉🎉🎉
何も無くなり、広々とした
ピカピカの部屋を写真に撮り、
息子のスマホへ送り付けた。
最後まで使った掃除道具を片付け、
帰りの荷物に詰めると、
この部屋との別れが訪れる。
私が住んだ場所ではなく、
住環境は劣悪であるが、
この24時間で少し、愛着が湧いた。
鍵を閉め、合鍵をポストへ入れると、
もうここは他人の部屋だ。
集積所にゴミを置き、
扉を閉めて一礼をした。
ふと、お向かいの戸建てに
目が留まる。
子供用の自転車と三輪車。
まだ新しい、若い家だった。
おもむろに、インターホンを押す。
『はい?』
知らないオバサンに、警戒の声。
当然だね、ごめんなさい。
「お向かいのアパートを
今日で出る者なんですが、
市のゴミ袋が余りましたので、
良ければお使い下さいませんか?」
しばらくして、若いママさんが
顔を出した。
「可燃も不燃もまだ残ってて、
もう引っ越し先では使わないし
今から電車で帰るので重くて…
使ってもらえると有難いです」
私の話で、ママさんは笑顔になり
「そうですか!使います!
助かります!有難うございます😊」
もう二度と会わない方だけど、
子育ての事など少しお喋りして
笑顔でお別れをした。
クタクタで腹ペコだったが、
ちょっとホッコリ幸せになった。
帰りの電車に揺られながら、
子育ての終わりを実感した。
夜景の窓に映る自分が、
いつの間にか老けた事に気付いた。
電車は往復出来るが、
時間は片道通行だ。
どんなに迷惑を掛けられようと、
我が子のためには頑張るのが親だ。
貧しくて、しんどい家庭に生まれ
きっと不満も多いだろうが、
子供の幸せを願う気持ちは本物だ。
大嫌いな掃除をこれだけやり切った
自分に驚きを感じていた。
長い長い戦いが終わった。
こんなに忙しく、しんどい一日は
もう二度と無いだろう。
ってか、あって欲しくない💧
そんな事を考えながら、
終点までうたた寝をする私であった。
🌸新生活を始める諸君へ🌸
あなたの旅立ちを一番喜び、
応援し、支え、
陰で涙した人の存在に
気付いてあげて欲しい。
あなたが巣立ってしまったら、
その人とあなたが共に過ごす時間は
もう残り僅かなのだ。
ずっと居ると感じてるその人は、
もういつ居なくなるか判らない。
だから、会える機会には必ず会い、
たくさん話をして欲しい。
その人は、きっといつも
あなたを想っている。
あなたが忘れている間も、
あなたのことを想い続けている。
それをいつまでも、忘れないで。
その人が居なくなっても、
ずっと忘れないで欲しい。
全ての親御さん、
または親代わりの方々の想いは、
きっと私と同じはずだから。
※※※ 了 ※※※
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#風が吹く
#オカンの一番長い日
#人生イチしんどかった日
#母と子の想い出
#いまあなたに伝えたいこと
#巣立ちゆくあなたへ
#エッセイ部門
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