迷信ではなかった「緑色は目に優しい」説──眼科医が明かす波長・ピント調整・錐体細胞の科学 (元教授、定年退職667日目)
なぜ黒板もビリヤード台も緑なのか?
昔から「緑色は目に優しい」とよく言われます。どこから生まれた説なのかははっきり知りませんが、私自身も長年疑いなく信じてきました。疲れ目を癒したくなると緑の多い公園へ行き、遠くの山並みを眺めます。デスクには観葉植物を置きます。思い返せば、かつての PC は黒い背景に緑の文字でしたし、学校の黒板も「黒」と名が付くわりに深い緑色でした。麻雀卓やビリヤード台も緑が定番です。私事ですが、今の住まいも「窓から竹林の緑が見えるから」という理由が決め手の一つでした。これらは単なる迷信やプラシーボ効果だったのでしょうか。
『チコちゃんに叱られる』で知る、緑色が「目に優しい」理由
数週間前、NHK『チコちゃんに叱られる』で「緑」に関する特集を視聴しました。これまでも NHK の『サイエンスZERO』や『探検ファクトリー』などで緑色の興味深い例が取り上げられ、その奥深さに驚かされてきました。私の note でも、江戸時代の口紅が緑色に輝く「笹紅」の話題や、外科医が緑色の手術着を着る理由に触れたことがあります。今回の番組では、眼科専門医の綾木雅彦先生が「緑色が目に優しい」理由を、光の波長、ピント調整、錐体細胞の反応、そして人類進化の観点から解説してくださいました。「なんとなく目に良い」程度にしか理解していなかった話が、今回明らかになるのか、興味深く見守りました。(タイトル写真、下写真もどうぞ:注1)

緑色を見ても目が疲れにくい本当の理由
まず綾木先生は、色知覚の基本(反射・波長・錐体細胞)から説明されました。私たちが見ている色は、物体がどの光を反射し、どの光を吸収するかで決まります。緑に見えるということは、その物体が緑以外の光を主に吸収し、緑の成分を反射して私たちの目に届けている、ということです。目の網膜には錐体細胞があり、そこが光を感知して脳が「色」として認識します。色の違いは光の波長の違いに対応していますが、先生のお話で印象的だったのは「筋肉が疲れにくい波長がある」という点でした。(下写真もどうぞ)

話題は、毛様体筋によるピント調整へ移ります。光は角膜と水晶体を通って網膜に結像しますが、ピントが合っていないと像がぼやけます。そのとき、水晶体(上図中の青のレンズ部)を支える毛様体筋が縮んだり緩んだりして水晶体の厚みを変え、焦点位置を調整します。綾木先生によると、赤や青の光は焦点が網膜の手前や奥に来やすく、常にピント合わせようとして毛様体筋が働き続ける、という説明でした。これらに対し、緑の波長は焦点が網膜付近に来やすく、毛様体筋の負担が相対的に小さい。そのため「緑は目に優しい」と感じるということです。(上写真、下段)
<追記1> 調べてみると、「緑色が目に優しい」と感じる要因には、心理的なリラクゼーション効果も関与していると言われています。たとえば 1984 年に Science 誌で発表された研究として、窓から樹木が見える部屋の入院患者と、レンガ壁しか見えない部屋の入院患者を比較した報告が紹介されました。緑が見える環境では回復に良い影響が見られ、入院期間や鎮痛剤の使用、ナースコールなどに差が出た、という内容です。「緑を見ると脳と身体が “戦闘モード” を解除し、リラックスに向かいやすい」という説明は、確かに体感としても頷けます。ただし同時に、色彩そのものが近視や乱視を直接治す、といった性質は基本的に期待しにくいそうです。
緑が視認性 No.1のワケ
番組では「同じ明るさなら、青・緑・赤のうち、どれが見やすいか」という話もありました。多くの人が緑を選びますが、その背景として錐体細胞の種類が説明されます。錐体細胞には大きくS(短波長)、M(中波長)、L(長波長) に対応するタイプがあり、緑の領域では2つ以上の細胞が寄与しやすい、という趣旨でした。一方で、赤や青では特定の細胞の寄与が大きくなりやすく、負担感や見え方の差として現れる、という説明でした。「緑は見えやすい」という経験則に、生理学的な裏づけもありそうです。(下写真もどうぞ)

<追記2> 私は、学会発表や授業でよくレーザーポインターを使いました。レーザーポインターには、赤(約 650nm)と緑(約 532nm)があります。安全基準により出力が1mW や5mW に制限されている条件では、緑色レーザーが赤色よりも圧倒的に明るく、鮮明に見えます。光源の出力の差ではなく、人間の眼が「緑のあたりの波長」を明るく感じやすいからだ、という説明が一般的です。国際照明委員会の標準的な視感度曲線では、人の眼が最も明るく感じやすい波長は 555nm 付近とされ、ここは緑に相当します。つまり緑は、同じエネルギーでも “明るく見えやすい” という意味で効率が良いそうです。
なぜ人類は「緑を見極める力」を育んだのか
番組の終盤では、「そもそもなぜ緑が重要になったのか」という進化の話に移りました。綾木先生は、私たち人間にとって緑が最も重要な色の一つだったからではないか、と述べられました。大昔、森や草原といった緑の多い環境で生き延びるには、背景の緑の中から、敵・獲物・仲間・食べ物といった “緑ではないもの” を見分ける必要がありました。そのため、まず背景にピントが合い、そこから差分を検出するような視覚の仕組みが重要だった可能性がある、という説明です。緑が「優しい」だけでなく「生存に直結する色」でもあったわけですね。(下写真もどうぞ)

ブルーライトは悪者ではない? 正しい付き合い方
最後に綾木先生は、緑とは逆に “目に悪い” と言われがちなブルーライトについても触れられました。ブルーライトは、スマートフォンやパソコンなどの画面から多く出る青成分の強い光で、可視光の中でも波長が短い領域です。ところが先生のお話では、「量とタイミング」次第で、必ずしも悪者ではないといいます。私たちはそもそも太陽光から、画面の約百倍というブルーライトを浴びています。朝にその光を浴びると覚醒を促し、日中は集中力に寄与する面もあるそうです。ただし、見過ぎれば目の調節に関わる負担が増え、夜に浴びれば睡眠を促すホルモンの分泌が妨げられ、睡眠リズムが崩れやすい。結論は「過度に恐れず、節度を持つ」でした。(下写真もどうぞ)

そして先生が強調されていたのは、目を休めるうえで一番良いのは「目を閉じること」だという点でした。私も時々、就寝前にホットアイマスクで温めながら目を休ませることがあります。目の疲れが取れたような気持ちになるのは確かです。ただ、奥様によると、私は時々それを外し忘れたまま寝てしまい、夜中にうなされていることがあるそうです(笑)。
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注1:NHK『チコちゃんに叱られる』の特集「緑色が目に良い理由」より
