4万6千年の眠りから蘇った線虫! 線虫研究で知る脳・寿命・筋力維持の秘密 (元教授、定年退職340日目)
長い眠りからの奇跡の目覚め!
一昨年、線虫の生命力について驚くべき発見がありました。シベリアの永久凍土から掘り出された線虫が4万6千年もの眠りから目覚め復活したことを、ドイツとロシアの研究チームが確認したのです(下写真)。この線虫が長期間にわたり生存可能であった理由の一つが、トレハロース(下図)という糖質を使うことで、体内の細胞や DNA、タンパク質を壊すことなく保護していたことがわかりました。そのため、4万年を超える長い眠りから息を吹き返すことができたようです。


トレハロースが生みだす再生の可能性: 元寇の沈没船との共通点
トレハロースといえば、先日の note(10/2)「元寇の沈没船を蘇らせる最新テクノロジー」で取り上げたことがありました。約 800 年前の鎌倉時代に攻めてきたモンゴル帝国の軍船が神風によって沈んだ、いわゆる元寇の話でした。海中で浸食された遺跡の木片は、乾燥すると縮んで破損してしまいますが、その解決策として、二糖類のトレハロースを使用し「砂糖づけ」にしました。木材の空洞の部分にトレハロース溶液を浸透させ、低温で結晶化させることで(木材内部をトレハロースの結晶で支え)、元の形状を保持することが可能となったのです(下図)。

通常、生物の細胞は凍結や脱水に弱く、その過程で細胞膜が損傷を受けます。しかし、線虫はこうした危機的状態になると、体内でトレハロースを生成し、細胞を保護するのです。今回の発見では、卵や幼虫、成虫と複数の個体が発見されただけでなく、さらにこれらの個体が成長と繁殖を続けていることも確認されました。この研究は、極限環境における生物の生存戦略の理解を深めるヒントになります。(下図もどうぞ)

「サイエンスZERO」で知る線虫の新たな可能性
NHK E テレの科学番組「サイエンス ZERO」の線虫特集では(タイトル写真:注1)、さらに (1) 線虫の移動能力や遺伝子の特徴、(2) 人間の脳や寿命、筋力維持に関する研究についても紹介されました。
(1) 線虫の移動能力と遺伝子の秘密
<移動能力と生息域拡大の方法> 線虫は静電気を利用し、一瞬で昆虫に飛び乗ることで広範囲に移動できます。例えば、マルハナバチやカメムシに付着し、新たな生息地へと移動する様子が観察されました。さらに、100 匹以上の線虫が同時に昆虫に飛び乗る様子も記録されており、その巧妙な戦略に驚かされます。(下写真もどうぞ)

<人間の遺伝子との類似性> 線虫の遺伝子の 70% は人間と共通していることがわかりました。この類似性を利用すれば、寿命の延長や人口増加問題への対応策を見出すことができるかもしれません。さらに、線虫の驚異的な生存メカニズムを解明することで、気候変動に適応する生物の戦略を探る手がかりにもなり得ます。
(2) 人間の健康への応用 ─脳・寿命・筋力維持
<線虫の「記憶」と「知性」> 千葉大学の森先生によると、線虫は温度に対する記憶と、「好き・嫌い」を判断する知性を持つそうです。AFD 神経細胞が温度を感知し、その情報を AIY 神経細胞に伝えることで、環境に適応する意思決定を行っているそうです(下写真、上)。

<神経の「再生」能力> 驚くべきことに、線虫の神経細胞 AFD を切断すると、別の場所から新たな神経が再生し、バイパスとなることが確認されました(上写真、下)。この再生能力は、将来的に再生治療や創薬に応用できる可能性を秘めています。
<線虫の「筋力維持」> 宇宙環境では無重力の影響で筋力が低下しますが、線虫の研究によりドーパミンの減少が筋力低下と関連していることが明らかになりました。実験では、ビーズを用いた刺激によってドーパミンの分泌を促し、筋力維持を試みる試みが進められています。

<線虫を用いた「寿命延長」や「運動能力(疾患)」の研究> 線虫の daf-16 遺伝子が活性化すると寿命が延びることがわかり(下写真)、人間の老化防止や健康寿命の延伸に応用できるかもしれません。また、ALS(筋萎縮性側索硬化症)のモデル線虫を作成し、新薬の効果を検証する研究も行われています。

線虫と聞くと、最近ガン検診などの話題は耳にしますが、どうしてもアニキサスなどのネガティブなイメージもありました。今回の番組で、シンプルな故に見えてきた線虫の様々な能力に驚きました。科学の進展とともに、線虫が私たちの未来にどのような恩恵をもたらすのか、その行方に期待したいところです。では、また。
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注1: NHK Eテレ「サイエンスZERO: 線虫 驚異の能力と可能性」より
注2: Wikipedia「トレハロース」より
注3:NHK Eテレ「サイエンスZERO:考古学をリードする最新テクノロジー」より
