見出し画像

視線・表情・声を読むAI vs 最強人類──「ババ抜き」で繰り広げられる人工知能との頭脳戦 (元教授、定年退職459日目)

お正月の定番ゲームと “ババ抜き” の再評価

幼少期の正月やお盆といえば、家族や親戚と一緒にゲームで過ごす時間が楽しみでした。ダイヤモンドゲームや人生ゲーム、はさみ将棋(のちにオセロ)などさまざまありましたが、何といっても一番出番が多かったのはトランプ。七並べ、神経衰弱、ポーカー、うすのろ、戦争、51、スピード──どれも手軽で、かつ駆け引きの妙がありました。中高生になると、流行は「大貧民」に移っていきます。場に手札を順に出していき、早く手持ちをなくすことを競うこのゲームには、前回の勝敗が次戦の有利不利に直結する “階級格差” の構造がありました。関西ではこのゲームをなぜか逆に「大富豪」と呼び、さらに「革命」「都落ち」など、地方ごとに異なるローカルルールが加わってスリリングな展開が楽しめました。

そんな中、最も単純で地味と思われがちな「ババ抜き」が、近年ふたたび注目を集めているのです。


「ババ抜き」で人間と AI が真剣勝負

きっかけは、フジテレビ系列で長年続くバラエティ企画「BABA 嵐(魂)」の中の「ババ抜き最弱王決定戦」。嵐の相葉くんが6度も “最弱王” になったこの番組を、我が家では奥様が毎回楽しみにしていて、放送のたびに大盛り上がりです。

そんな「ババ抜き」が、ついに AI との対決コンテンツとして取り上げられたのが、今回放送されたフジテレビ系列の特番「人類vs最強 AI ババ抜き対決」でした。番組では、人間の微妙な表情や視線、声のトーンなど、非言語的な情報を解析する複数の AI が登場し、人類代表のプレイヤーたちとババ抜きで対決したのです。(下写真もどうぞ)

「人類vs最強 AI ババ抜き対決」(注1)


実は “運ゲー” じゃない? ババ抜きに潜む心理戦略

ババ抜きは、単純に見えて実は深い心理戦のゲームです。まず大事なのは、ジョーカーを引いたときにそれを悟られない “ポーカーフェイス”。引いた瞬間のわずかな動揺や、ジョーカーが抜けた時の安堵の表情などをいかに隠せるかが勝敗を左右します。また、視線の動きも重要です。人は無意識に「気になる」カードの位置を目で追ってしまうもので、熟練者は相手の視線の先からジョーカーの在り処を推測します。さらに、“両端のカードを無意識に避けがち” といった認知バイアスも利用されます。つまり、ババ抜きは「自分の情報を隠し、相手の情報を最大限に引き出す」情報戦。まさに AI が得意とする分野といえます。今回の対決では、これらの情報をすべて AI に検知させ、ジョーカーの所在やプレイヤーの心理を推測していきます。


AI はどこまで見抜ける?──表情・視線・音声の三段構え

最初は、人類代表は芸能界から「普通の3人」が参加して AI と対戦しました。AI は表情分析、視線分析、音声感情分析を駆使して情報を集積・分析しました。AI の分析精度は非常に高く、人類側は AI の予測を欺くことに苦戦していました。(下写真もどうぞ)

芸人さんたちは、あっという間に分析されてしまう(注1)


たとえば、一つ目は表情分析 AI。人間の顔に現れる “微表情”──ほんの一瞬の眉の動きやまぶたの開き具合など──を高精度で捉え、感情の揺れを数値化します。人間には見えない表情のわずかな変化を読み取ってしまうのです。二つ目は視線分析 AI。どのカードに視線が集中しているかを捉え、ジョーカーの所在を推定します。視線は意識して動かそうとすればするほど不自然になりやすく、AI にとってはむしろ「正直な情報源」です。三つ目は音声感情分析 AI。声のトーン、抑揚、間の取り方などから、話者の緊張や喜び、嘘をついている可能性を判断します。(下写真もどうぞ)

3つの異なるAIで分析を行う(注1)


これらを組み合わせることで、AI は「このカードはジョーカーの可能性が高い」とかなりの精度で推測できるのです。これらの AI の多様な分析があるため、人類側は勝利を収めることが難しい状況が続きました。


最強の人間たちは、どう AI に立ち向かったのか?

番組の最後には、人類の逆襲が始まります。挑んだのは、各分野の “頭脳派” 3人。ひとり目は、IQ146 を誇る天才クイズプレイヤー・福良Pさん。記憶力と論理思考を駆使し、場に出たカードをすべて記憶してジョーカーの位置を逆算して推測するスタイルです。ふたり目は、世界的マジシャンの KiLa さん。「皆さんの知らない手段もある」と意味深なコメントを残しましたが、さすがの観察眼と演技力で AI に対します。そして最後の切り札は、世界で活躍するプロポーカープレイヤーじぇいそるさん。心理戦のプロ中のプロで、AI の視線分析を逆手に取り、わざと視線を泳がせたり、選ぶ手つきを工夫して、AI にジョーカーを引かせるように立ち回りました。(下写真もどうぞ)

最終決戦に最強のプロが挑戦(覆面がAI代理)(注1)
世界的なマジシャンの KiLa さんとプロポーカープレイヤーじぇいそるさん(注1)


最後に勝ったのは──AI か、人類か?

試合は終盤、AI があと1枚まで減らして勝利目前に。しかし、そこから人類側が反撃を開始。視線 AI を欺くポーカーフェイス、手元の仕草を見切ったり、仲間との連携プレー、カードを手で触って選んだりと、すべてを駆使して、見事に逆転勝利を収めたのです。番組は「人類の知恵と連携が、AI の情報を上回った」というハッピーエンドで締めくくられました。将棋や囲碁ではすでに AI が人間を凌駕して久しいですが、今回のような “非言語の駆け引き” や “演技” が問われる場面では、まだ人類にも活路が残されているようです。(下写真もどうぞ)

視線を欺いたり盲牌などを駆使して何とか逆転勝利(注1)


ババ抜きという一見平凡なゲームでしたが、AI とどう向き合い、どう協力していくか、そんな未来を考えるヒントになるかもしれません。それでは、また。


ーーーー
注1:フジテレビ系列「人類vs最強 AI ババ抜き対決」より

いいなと思ったら応援しよう!