『ポニョ』のポンポン船を大人が本気で作るとこうなった──『大科学実験』が挑んだ蒸気エンジンの成功と限界 (元教授、定年退職 700日目)
宮崎駿監督のアニメーション映画 『崖の上のポニョ』
私は宮崎駿監督のアニメーション映画が好きで、ときどき楽しんでいます。とはいえ、こちらから追いかけるというより、忘れた頃にテレビで再放送があり、それを見つけてはつい時間を忘れて観てしまうのです(笑)。初期のヒット作で言えば『風の谷のナウシカ』『天空の城ラピュタ』『となりのトトロ』。その後の『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』なども、観返したくなります。先日も『千と千尋の神隠し』が放映されていましたね。ただ、私の中で宮崎作品は『崖の上のポニョ』でいったん止まっています(もちろん新しい作品があることは知っていますが、まだ未視聴です。すみません)。本作は、単なる児童向けファンタジーに留まらず、深層に人類普遍のテーマがいくつも折り重なっていて、なかなか味わい深い作品でした。
その映画の中で、5歳の宗介くんが遊んでいたブリキ玩具の船が登場します。物語の中でも案外重要な役目を担うのですが、私はそれを見た瞬間に「あ、ポンポン船だ」と分かり、懐かしさで胸がいっぱいになりました。実は子どもの頃、私はあの玩具が欲しかったのに買ってもらえなかった側の人間です。友だちのポンポン船を、うらやましく眺めていた記憶があります(親としては、ろうそくを使うので「危ない」という判断だったのでしょう)。
「やってみなくちゃわからない」の『大科学実験』を久しぶりに
先日、NHK E テレ『大科学実験』を久しぶりに視聴しました。「やってみなくちゃわからない」を合言葉に、日常の現象を大胆な実験で解き明かしていく番組です。面白いのは、海外の放送局との共同制作である点で、思い通りにいかない場面があっても、うまくいかない過程ごと見せてくれます。さらに、元 YMO の細野晴臣さんのナレーションが、妙に肩の力を抜いてくれるのです。私も以前、note で「アリが 180 キロの巨大壁を倒す」や「身近なデジタルはかりを使って体重を計る」などを取り上げたことがあります。今回は、『ポニョ』の「ポンポン船」の原理を使って、「大人が乗るボートを動かせるのか?」に挑む内容でした。(下写真もどうぞ)

発明から 100 年以上、ポンポン船の小さな原理が拓く大実験
ポンポン船は、100 年以上前に発明された、いわば子ども向けの単純な玩具です。その推進原理は、熱エネルギーを運動エネルギーへ直接変換する「外燃機関」の一種です。構造は驚くほどシンプルで、ピストンやクランクといった “動く部品” を持たず、ろうそくで温めるボイラー部と、そこから伸びる管(パイプ)があるだけ。ボイラーの一部には薄い金属板が使われ、作動時に「ポンポン」と音が出るようになっています。動かすときは、管から内部に水を入れ、ろうそくの熱でボイラーを温めます。すると水が沸騰して水蒸気になり、圧力が上がります。水が 100℃ で水蒸気になると体積は約 1600 倍も増えるので、これがポンポン船の推進力です。その勢いでボイラー内の圧力が高まり、管の中の水が押し出されます。管の先端から水が勢いよく噴き出せば、それが反作用となって船が進みます。これがポンポン船の推進力です。(下写真もどうぞ)


〈追記〉 管は水中にあるため冷やされ、出てきた水蒸気の一部は再び水に戻ります。すると体積が急に減り、ボイラー内部が一時的に減圧になって水が逆流し、再びボイラー側へ吸い込まれます。ここで「吸い込みと噴き出しで力が相殺されるのでは?」という疑問が出ますが、吸い込みは周囲から広く分散して起こる一方、噴き出しは一方向に集中して起こります。そのため、結果として前進方向の推進が残る、という説明になります。
まずは予備実験で確認する
番組ではまず、丸底フラスコを使ったモデル実験で原理を見せてくれました。ガスバーナーでフラスコ内の水を温めると、水蒸気がガラス管内の水を押し出します。水中に出ているガラス管の出口に小さなファンを近づけると、水の噴出でファンが回る──原理が一目で分かります。次に本番に近い予備実験として、薄い鉄でできた 18 リットル缶(一斗缶) を用意し、太いパイプを2本取り付けます。缶の中に水を4リットル入れて密閉し、ガスコンロ最大火力で加熱すると、缶が膨らんだり縮んだりして「ペコペコ」とすごい音がします。パイプの出口付近にファンを近づけると、ファンは勢いよく回りました。(下写真もどうぞ)

なぜ缶は潰れたのか?
いよいよ池で本番の大実験が始まります。コースは若干の逆風があるものの、流れのない池。缶をコンロに乗せ、パイプを固定して水を入れ、船尾につなぎます。実験レンジャーの一人がボートに乗り込み、点火。およそ 10 分後、ポンポンという音がし始めました。「そろそろ動くか」と思った、そのときです。音が止まり、一斗缶がグシャッと潰れてしまいました。外から見ている分には突然の崩壊でした。(下写真もどうぞ)

原因を調べるため、同じ缶で予備実験をやり直します。途中でコンロの火が消えた可能性があるという仮説のもと、実際に火を消してみると、しばらくして缶が潰れました。特殊カメラで温度分布を見ると、加熱が止まって缶の中が冷えると、内部が減圧になって潰れることが分かりました。そこで番組は発想を変えます。途中で火が消えても全体が止まらないように、缶を大量に用意して並列につなぎ、再挑戦することにしました。(上写真、下段もどうぞ)
再挑戦で、ようやく「動いた」。しかし・・・
装置は横に 13 個連結されました。コンロに火を点けると、しばらくして缶が温まり、ポンポンと鳴り始めます。ところが、すべての缶の中の水が “十分に沸騰するのを待っている” 間に、ひとつ、またひとつと缶が潰れていきます。待てば潰れる、急げば動くかもしれない。そんな中「もうあとがない、行くしかないのか」と思った瞬間──ポンポンと大きな音を響かせながら、ボートは非常にゆっくりですが進み始めました。大人が乗った船が、玩具の原理で、確かに前へ進んだのです。しかし、前進は長くは続きませんでした。およそ8メートル進んだところで、次々に缶が潰れ、推進力が失われて停止。結局、半分ほどの缶が潰れてしまい、実験は終了となりました。(タイトル写真、下写真もどうぞ:注1)

今回の実験で分かったのは二つです。一つは、水蒸気が水を押し出す力だけで、人を乗せた大型の船でも「動かせる」こと。もう一つは、熱源が不安定になり缶が冷えると、減圧で潰れてしまうことです。
モデル実験で原理は明確になり、本実験でも “少しだけ” とはいえ、ボートが進むことが確認できました。これは画期的な成果です。一方で、玩具のポンポン船と同じ感覚でスケールアップすると、うまくいかないこともよく分かりました。そして番組の最後に、細野さんのいつもの一言が入ります。「だから、やってみなくちゃわからない。大科学実験で」次の “やってみた” も楽しみにしたいと思います。
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注1:NHK Eテレ『大科学実験』の特集「進め!ポンポン船」より
