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「馬鹿」と「アホ」、どっちがひどい? ──地方で変わる言葉のニュアンス(元教授、定年退職383日目)

今回は、「馬鹿」という言葉をテーマに綴ってみたいと思います。「馬鹿」は現代日本語の中でも極めて使用頻度が高く、意味や用法も多彩な語です。侮辱的に用いられることもあれば、親しみや軽いツッコミとして使われることもあります。たとえば、「馬鹿だな」と茶化すような使い方から(<追記1>)、ある分野に没頭する様子を指す「専門馬鹿」や、愛情表現の「親馬鹿」、映画のタイトルにもなった「釣りバカ」(タイトル写真:注1)など、ポジティブなニュアンスを帯びることすらあります。「馬鹿正直」「馬鹿力」「馬鹿丁寧」などもそうで、「度が過ぎる」ことを示す形容詞的な使い方も実に豊富です。(<追記2> もどうぞ)


<追記1> 奥様によると「『馬鹿だな』がトーンとシチュエーションによっては、一言で心をぐっとつかれる愛情表現だよ」とのこと。確かにそうですね。

<追記2> 2000 年代後半、『クイズ!ヘキサゴン』という人気番組で珍回答を「売り」にする「おバカタレント」と呼ばれる存在が注目を集めました。中でも印象的だったのが、上地雄輔さんのエピソードです。彼がクイズに答えながら旅をする企画の中で、奈良公園(?) の鹿に目的地が描かれた地図の住所部分を食べられてしまい、行き先が分からなくなるというハプニングがありました。その「おバカ」っぷりが、実に愛らしく、今でも記憶に残っています。

映像は残っていませんでしたが、2008 年の上地雄輔さんのブログに少しその記述が残っていました(下写真)。

上地雄輔さんのブログのタイトル(注2)
上地雄輔さんのブログ(2008-02-21)(注2)
鹿に目的地が描かれた地図の住所部分を食べられた(笑)(注2)


地方によって異なる「馬鹿」表現の魅力

大学入学直後、全国から集まった同級生たちとの会話の中で、「馬鹿」という言葉の地域差に驚かされました。関東では一般的に「馬鹿」が使われますが、私の地元の茨城では「ごじゃっぺ」、栃木では「でこすけ」といった方言がありました。関西ではもちろん「アホ(阿呆)」、名古屋では「たわけ」、兵庫では「だぼ」、北陸では「だら」など、地域ごとにまったく異なる表現があるのです。私の所属していたクラブでは、エラーが出るたびに各地の罵声が飛び交っていたのが懐かしい思い出です(笑)。


『探偵!ナイトスクープ』で判明した「馬鹿」と「アホ」の境界線

関西の人気番組『探偵!ナイトスクープ』では、「馬鹿」と「アホ」の使用地域について大規模な実地調査が行われました。その結果、東京や静岡では「馬鹿」が一般的で、名古屋・岐阜では「たわけ」という別の言葉が現れ、滋賀県の米原で初めて「アホ」が登場するという結果に。すなわち、言葉の境界線は岐阜と滋賀の県境、関ヶ原町周辺にあることがわかったのです。さらに、「馬鹿」圏と「アホ」圏の中間に「たわけ」圏が存在するという興味深い事実も明らかになりました。


半年ほど前の「千世(ちせ)」さんの note に、この『探偵!ナイトスクープ』の神回に関する詳しい記述があったので、下記に引用させていただきます(注3)。


関西における「アホ」は親愛の言葉?

「馬鹿」と「アホ」はどちらも侮蔑語に分類される一方で、その受け取られ方は地域によって大きく異なります。特に関西における「アホ」は、むしろ親しみや愛情、ユーモアを含んだ言葉として多用されます。たとえば、大阪では「アホやなぁ」(=しょうがないなぁ、おっちょこちょいだな)や「アホちゃうか」(=冗談でしょ?)といった表現が日常的に交わされ、相手との距離を縮める潤滑油として機能しています。ある意味、信頼関係の証とも言えるのです。一方で、「馬鹿」と言われると、よりストレートで強い否定的ニュアンスを持ち、人格そのものを否定されたように感じてしまう人も少なくありません。


関東における「馬鹿」と「アホ」の印象の違い

関東では「馬鹿」が標準的な言い回しで、声のトーンや文脈によりニュアンスが柔らかくなったり厳しくなったりします。しかし「アホ」という言葉は、関西弁として認識されるがゆえに耳慣れず、「知能を直接的に否定された」と強く受け止められてしまう傾向があります。つまり、「慣れ親しんだ言葉」よりも「異質な言葉」の方が侮蔑として響きやすいのかもしれません。


チコちゃんも斬り込む「馬鹿」のルーツ──サンスクリットから江戸まで

先日放送された NHK の『チコちゃんに叱られる!』では、「馬鹿」の語源が取り上げられていました。諸説ある中で、番組ではサンスクリット語の「モハ」(迷い・愚かさ)に由来するという説が紹介されていました。これが中国を経て日本に伝わり、さらに「馬」と「鹿」の漢字を使うようになった背景には、中国の故事「指鹿為馬(しかをさしてうまとなす)」が関係しているとのこと。これは、ある権力者が「鹿を指して馬だと言い張る」ことで、家臣たちの忠誠心を試したという逸話です。真実を曲げてまで従う姿勢を「愚か」と捉えるこのエピソードが、奈良時代には僧侶や貴族の間で、室町時代以降には庶民に広まり、江戸時代の文学作品を通じて言葉として定着していったそうです。

NHKの『チコちゃんに叱られる!』(注4)


昔は「馬鹿」も「アホ」も日常会話でごく普通に使われていましたが、現代ではコンプライアンスやハラスメントへの配慮から、公の場での使用がはばかられる言葉になりました。中には「同じ相手に3回続けて使ってはいけない」などと記されたハラスメントマニュアルも存在するほどです。なんとも息苦しい世の中になったものだと感じます。使い方次第では、場の空気を和ませたり、相手との関係を深めたりできる素敵な言葉なのに ・・・ 少し寂しい気もしますね。


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注1:Hulu 画像より

注2:上地雄輔さんオフィシャルブログ「神児遊助」(2008年2月21日)よりhttps://ameblo.jp/kamijiyusuke/entry-10074287713.html

注3:「千世(ちせ)」様の note よりhttps://note.com/chise2021/n/ne4681c5bb74a

注4:NHK「チコちゃんに叱られる!:放送100年! 春の 72 分拡大版スペシャル、馬鹿の語源と歴史」より


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