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九州大学発・ハサミムシの翅が変える月面探査の未来 (元教授、定年退職345日目)

私は九州大学にご縁があり、これまでに何度か講演に招かれたり、集中講義を担当したことがあります。その多くは、緑豊かで広大な伊都キャンパスで行われました(下写真)。この十数年、訪れるたびキャンパスが着々と整備されていく様子を目の当たりにしてきました。学生たちにとっては、博多の市街地までの移動時間がやや長い点が不満かもしれませんが、その分、最先端の施設で研究に没頭できる環境だと言えるでしょう。

九州大学、伊都キャンパス(注1)


美食と研究の九州散歩

福岡は美食の街としても名高く、訪れるたびに新たなグルメの発見があり、楽しみが倍増します。その一つは、先日 note で取り上げた「資さんうどん」です(3/9)。加えて、前回初めて味わった「博多ぐるぐるとりかわ」には驚かされました。鶏皮を串にぎっしりと巻き付け焼いただけのこの料理は、常連客が席に着くやいなや何十本も注文するほどの人気ぶりでした。実際に食べてみると、外はパリッと香ばしく、中はジューシーな旨味が広がり、私も思わず十本ほど平らげてしまいました。


博多・伊都と日田を巡る訪問記

前回の訪問時は、ちょうど私のサバティカル期間と重なり、少しゆっくりした時間を取ることができました。その際、日田市近郊の研究所も訪れ、日田市内で一泊する機会に恵まれました。日田市は筑後川の支流である三隅川が市の中心を流れる水の都として知られ、穏やかで落ち着いた雰囲気が漂っていました。実は私は以前から飲料水に少しこだわりを持っており、日田市の特産品である「日田天領水」を愛飲しています。少々値が張りますが、軟水で癖のない味わいが気に入っています。この水を活用し、日田市ではおいしい地酒や醤油、味噌なども生産されているそうです。宿泊したホテルが本社の隣で、近くにある「道の駅」では、この水が大々的に販売されていました。日田市は江戸時代には幕府直轄の「天領」として栄えた歴史を持ち、市内は小京都のような落ち着いた雰囲気がありました。次回訪問の際は、じっくりと散策し、その魅力を味わいたいと思っています。


九州から世界を変える昆虫研究 @サイエンス ZERO

さて、NHK E テレの「サイエンス ZERO」にて、九州大学の昆虫科学研究が特集されていました(下写真)。番組の前半では、蚕を用いた医療研究として「食べるワクチン」の研究や、コナジラミという農業害虫を農薬を使わずに防除する研究が紹介されました。特に後者は、コナジラミが振動を介して「会話」する性質を利用し、特殊な振動を発生させる装置で駆除するという画期的な方法でした。しかし、私が最も注目したのは、番組の最後に取り上げられたハサミムシの翅(はね)に関する研究です。

「サイエンスZERO」にて、九州大学の昆虫科学研究が特集(注1)


コンパクトに畳めるハサミムシの翅

ハサミムシは、日本全国に生息している身近な昆虫で、以前の note(1/31) でも取り上げました。そこでは、西之島の火山の噴火後、最初に現れた昆虫としても注目されました。私も幼少の頃、庭の石を持ち上げるとよく見かけたものですが、その小さな体に翅が隠されていることには気付きませんでした。外見からは翅が見えないのですが、実は飛ぶ能力を持っています(飛ばないハサミムシもいるそうですが)。(タイトル写真、下写真もどうぞ:注1)

ハサミムシ:外見からは翅が見えないのですが、実は飛ぶ能力を持っています(注1)


このハサミムシの翅が持つ驚異的な折りたたみ構造に着目したのが、芸術工学部の斉藤さん(大橋キャンパス)です。彼によると、ハサミムシの翅は非常にコンパクトに折りたたまれており、最大で 1/15 まで縮小できるとのこと。この技術を応用すれば、月面基地の太陽電池パネルの設計に革新をもたらす可能性があるといいます。ちなみに、斉藤さんは元々折り紙の幾何学の研究をしていて、ハサミムシにたどり着いたそうです。


ハサミムシの翅に隠された驚きのメカニズム

下写真を見ると、白い筋の折り線があり扇子に似ていますが、このままではあまりコンパクトになりません。普通の扇子は一点で交わる構造ですが、ハサミムシの翅(先生の作ったモデル)の場合、折り目が円周上に分布しており、すべてが完全に重ならないため、最後のひと折りが可能になります。これにより、厚みのある素材でも効率的に折りたたむことができるのです。つまり、この折り方の特長は一方向への縮小だけでなく、さらなる折りたたみが可能である点です。この技術を応用すれば、大型の太陽電池パネルもコンパクトに収納できます。(下写真もどうぞ)

扇子に似ているが、少し違う(注1)
一方向への縮小だけでなく、さらなる折りたたみが可能:モデルで説明(注1)
モデルの太陽電池パネルもコンパクトに収納(注1)


折り目が支える未来の太陽電池パネル

現在、ハサミムシの翅の折りたたみ技術を活用した太陽電池パネルを、月面へ送り込むプロジェクトが進行中です。共同研究を行っている東京大学で試作機の組み立てが進められ、その結果、予想以上のコンパクトな収納が実現しました(下写真)。さらに、ハサミムシの翅の構造は非常に単純なため、要所にバネを配置するだけで、自動的に展開できる仕組みが可能になります。このシンプルな設計により、部品点数が減少し、結果として従来の半分ほどの重量で太陽電池パネルを作製できることが明らかになりました。

東京大学との共同研究で試作機の組み立てが進められている(注1)


昆虫の小さな翅に秘められた技術が、未来の宇宙開発を支える日もそう遠くないのかもしれません。夢があって楽しいですね。では、また。


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注1:NHK E テレ「サイエンス ZERO:九州大学の昆虫科学研究」より

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