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ジョン・レノンをめぐる味の記憶──フランスパン、ロイヤルミルクティー、そして伝説のモカソフト (元教授、定年退職507日目)

45年目の追想: ビートルズ再結成の夢が消えた夜

いまから 45年前の冬、世界を震撼させるニュースが突然流れてきました。「ジョン・レノンが撃たれた!」。その報せを耳にした瞬間、胸にぽっかりと穴があいたような衝撃を受けたことを、今も鮮明に覚えています。私は大学生で、遅ればせながらビートルズに夢中になっていた時期でした。まるで身近な友人を失ったような喪失感を覚え、仲間と飲みながら「これでビートルズは再結成されることはなくなったんだ」と語り合った夜の沈痛な空気は忘れられません。私たちはビートルズと同世代ではありませんでしたが、彼らの音楽は日常の中に常に流れており、いつか再び4人が揃うことを心待ちにしていた世代でした。私自身、初めてロンドンを訪れた時に真っ先に足を運んだのは、EMI スタジオと「アビーロード」の横断歩道でした。


軽井沢の風景はリバプール郊外に似ていたか?──ジョン・レノン、束の間の安らぎ

そんなジョン・レノンが、1976 年から亡くなる前年まで、夏に長期滞在していたのが避暑地・軽井沢でした。その緑あふれる風景が、彼の故郷を思い起こさせていたのかもしれません。この地の良さは、有名人が町を歩いても分け隔てなく接する空気にもありました。万平ホテルのいつもの部屋に滞在し、Tシャツにハーフパンツ、麦わら帽子というラフな格好で、ママチャリに息子を乗せてサイクリングする姿が目撃されていました。そこには「神話の人物」ではなく、一人の人間としての穏やかな日常がありました。ジョンにとって軽井沢は、華やかな名声から解放され、「心の平和」を取り戻すための大切な場所だったのでしょう。そして彼は、一人でペースを落としながら音楽を作り続けていたのです。(下写真もどうぞ)

軽井沢でのジョンの長期滞在(注1)


モカソフトに宿る “普通の夏” の記憶

軽井沢でのジョンの暮らしは、驚くほど庶民的でした。朝には「ベーカリー浅野屋」でホテルで食べるためのフランスパンを2本買い、静かな喫茶店でくつろぐ。ホテルのカフェテラスではアップルパイとロイヤルミルクティーを好みました。特にこのミルクティーは、ジョンのリクエストで「茶葉をミルクで煮出して」と頼んだことからメニューになったとして、今も伝説として語り継がれています。また、中華料理店では酸辣湯麺を好み、夜はホテルのバーでアップライトピアノを弾いていたといいます。そのピアノを「ぜひ譲って欲しい」とまで懇願したほど気に入っていたそうです。そしてもうひとつ、彼が愛したのがミカドコーヒーの「モカソフト」でした。現在の店主によると、息子の夏季保育を待つ間、モカソフトを味わう姿が印象的だったそうです。そこにあったのは、特別ではなく “普通の夏の時間” だったのです。(下写真もどうぞ)

軽井沢・万平ホテルでの “普通の夏の時間”(注1)
ミカドコーヒー(注1)


「グレーテルのかまど」で蘇る、ジョン・レノンの思い出とモカソフト

いまやモカソフトは軽井沢の名物となり、ジョンのファンでなくとも観光客が食べ歩きで楽しむ定番です。私も軽井沢を訪れた折に口にしましたが、濃厚で香り高く、確かに記憶に残る味わいでした。先日、NHK E テレの『グレーテルのかまど』で、このモカソフトがジョンの思い出と共に紹介されていました。番組は単なるエピソード紹介にとどまらず、実際のレシピを丁寧に解説していました。(タイトル写真、下写真もどうぞ:注1)


番組で紹介されたモカソフトのレシピ

レシピには、ジョンが好んだフレンチローストの深煎り豆が使われていました。まず豆を砕き、温めた牛乳に2時間浸して香りを移します。その牛乳を濾し、失われた分を足して分量を整えます。一方で卵黄と砂糖を混ぜ合わせ、そこにコーヒー風味の牛乳を少しずつ加えます。さらに鍋に戻し、83℃(分離しない温度)まで加熱しながら 30秒混ぜ続けるという繊細な作業を経て、最後に水で戻した板ゼラチンを加え粗熱を取ってアイスクリーマーにかければ完成です(下写真もどうぞ)。番組では、モカソフトに合わせるコーヒーゼリーの作り方も紹介されていました(今回は省略します)。

『グレーテルのかまど』でのモカソフトのレシピの一部(注1)


ジョン・レノンが取り戻した “心の平和”、そして・・・

番組の最後に紹介されたジョンの言葉があります。「ビートルズは欲しいだけの金を稼ぎ、好きなだけの名声を得て、そして何もないことを知った」。大成功を収めた人物が最後に辿り着く「虚無」という境地。ジョンもまた、名声と栄光の果てに、普通の暮らしの尊さを見出していたのでしょう。

実は、亡くなる年の夏、ジョンは軽井沢に戻らず、アルバム『ダブル・ファンタジー』の制作に没頭していたそうです。毎年の軽井沢訪問で “心の平和” を取り戻すことができ、再び曲作りに専念できるようになった矢先の悲劇だったのかもしれません。残念です、合掌。


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注1:NHK Eテレ番組『グレーテルのかまど』の特集「ジョン・レノンのモカソフト」より

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