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岡田准一の映画をすべて観たら、どれぐらい岡田准一に近づけるだろうか。⑦『人生クライマー 山野井泰史と垂直の世界』から『BAD LANDS バッド・ランズ』まで


㉛『人生クライマー 山野井泰史と垂直の世界』(2022年)

監督:武石浩明 共演:山野井泰史、山野井妙子、今井健司

「生と死がせめぎ合う時の命の手ざわり。今も山野井は、その感触に取り憑かれている」

師範が、硬質でありながらも温かみのある声で語る。本作は、世界的な登山家である山野井泰史の人生を描くドキュメンタリーだ。師範はナレーションを務めている。観る前に想像したよりも、師範の語りが被さるシーンは少ない。あくまで本作の主人公は、山野井を始めとする登山家たちだ。師範は彼らに最大限の敬意を払い、あえて黒子に徹しているようにも見える。

登山家たちの生きざまの凄まじさは、想像を絶する。山野井泰史は凍傷のため、両手の薬指と小指、右足のすべての指がない。だが当然のように、残った指でさらなる高みを目指し続けている。

妻の山野井妙子も登山家だが、同じく凍傷により、両手の指はすべて根元からない。だが、手のひらの湾曲だけで物を掴み、料理も畑仕事も普通にこなしている。あまりにも自然なので、彼女の指がないことに気づいたのは、本作を見始めてから30分経ってからだった。

仲間と山を登っている映像がある。また別の仲間と酒を酌み交わしている映像がある。彼らの笑顔の下に、テロップがつく。

「2022年4月8日 南伊豆町の岸壁”魔王”で海に墜落し亡くなった」
「2014年3月 鹿島槍ヶ岳で死亡」
「2015年 ネパール・チャムラン(7319m)北壁で行方不明」
「2018年 ネパール・チャムラン(7319m)で死亡」

それが当然のように、仲間はみんな山で亡くなっている。この中には、師範主演作『エヴェレスト 神々の山嶺』(2016年)の撮影時に山岳ガイドを務めた、今井健司も含まれている。いろんなジャンルで本気で取り組んでいる人間は、「命をかけています」と言う。事実、それだけの覚悟を持っているのだろう。だが、それはどこまで行っても”比喩”だ。本当に死ぬわけではない。格闘技など激しいコンタクト・スポーツでの死亡事故もあるにはあるが、それはあくまでイレギュラーな”事故”だ。

登山家の死亡率の高さに、慄然とする。基本、自分にできないことをやっている人のことは尊敬する。だがこれは、軽々しく「尊敬する」と言ってはいけない気がする。「尊敬する」という言葉には、「自分もそうなりたい」という意味合いも含まれる。筆者は、とてもこのようには生きられない。でも心のどこかでは、このような「狂気」を持って生きられる人たちを、うらやましくも思う。自分にこの狂気があれば……とも思う。

㉜『最後まで行く』(2023年)

監督:藤井道人 共演:綾野剛、広末涼子、柄本明、駿河太郎、磯村勇斗

刑事・工藤(師範)は、車である人物を撥ねてしまい、テンパった末にその死体を車のトランクに隠す。するとなぜか、エリート監察官・矢崎(綾野剛)に執拗に付け狙われるようになる。あの死体には、どのような秘密が隠されているのか……?

師範演じる刑事・工藤は、ヤクザとの汚職を疑われており(実際にしている)、妻(広末涼子)とも関係が冷え切って別居している。すぐに逆ギレするし、テンパるし、汚職絡みで警察内部でも人望はない。もちろん、強くもない。久しぶりの、どこからどう見てもカッコ悪い師範である。だらしなさを出すための役作りか、少し太っているようにも見える。その刈り上げた襟足にすら、悪い意味での子供っぽさを感じる。

『陰日向に咲く』(2008年)、『来る』(2018年)以来の、「人間的弱さをさらけ出した師範」の姿だ。近年の師範に多い、強いヒーロー的な役柄はもちろんカッコいい。だが、たま~にこれらのカッコ悪い役を演じている時の師範は、実にイキイキして見える。原点とも言える、『木更津キャッツアイ』シリーズのぶっさんに戻ったような錯覚も覚える。アクションの時のように腸腰筋は活躍しないが、代わりに表情筋がフル稼働だ。

本作は同名の韓国映画のリメイクである。途中までの大筋は同じだが、この日本版の方が10倍は狂っている。綾野剛のせいだ。一見冷静なエリートに見えるが、キレた時の瞬発力がちょっとおかしい。その永遠に続く襟掴みパンチ連打の狂気性には、怖さを通り越して笑ってしまう。

生命力も異常である。やっと殺したと思っていたらババ~ン!と再登場する(×2回)。1回目は、この作品はホラーなのだと思った。だが2回目に至っては、この作品はハード・コメディなんだと認識した。その証拠に、矢崎はものすごい顔をして笑っている。今まで怯えるだけだった工藤も、大笑いし始める。なんか一周回っておもろなってきた、といった風情である。

オリジナル版における矢崎は、ちゃんと途中で死ぬ。ババ~ン!は1回だけである。つまり、「最後まで行っていない」。だが本作における矢崎は、多分死なない。おそらく「最後の最後まで行く」。最後の最後まで行った末に、酒でも酌み交わしてそうな気さえする。2人とも、死の鬼ごっこが楽しくなってしまっているから。

㉝『BAD LANDS バッド・ランズ』(2023年)

監督:原田眞人 共演:安藤サクラ、山田涼介、生瀬勝久、宇崎竜童

いよいよ現時点での最後の作品である。とは言っても、師範はサプライズ出演枠であり、出番も1シーンだけである。だがその1シーンだけで、強烈なインパクトを残す。

主演の安藤サクラと山田涼介は、特殊詐欺グループの一員である。山田涼介がタタキ(強盗)に入った先で待っていたのが、師範だった。山田は3人で乗り込むのだが、待っていたのが3人分の戦闘力をも凌駕しそうな男だった時の絶望感たるや。

1シーンしか出ないのに、”劇中最強”のオーラを発散している。また、「アホけ、ボケコラ」のイントネーションは、さすがに大阪出身である。汚い言葉でありながらも、聞きほれてしまった。

「ホンマや。ホンマ悔しいわ。THE・残念や」などの名言もあり、テンパって走り回る人間が多い本作中で、ひとり余裕しゃくしゃくのキャラである。この人物をメインにしたスピンオフを観てみたい。

筆者は、学生時代に『KAMIKAZE TAXI』(1995年)を観て衝撃を受けて以来、原田眞人監督を追い続けている。『ヘルドッグス』(2022年)を観てもらえばわかるように、原田監督の描く、怖あて面白うてやがて悲しきクライム・アクションが、大好きだ。そんな原田監督が師範を使い続けるのは当然であるし、今後の作品も楽しみだ。

ワールドマスター2023における、師範の1回戦が始まった。早い段階で上を取り、師範はポイントを先取する。このポイントを守り切れば師範の勝ちである。だが、一瞬そこで安心してほんの少しだが緊張感が途切れがちでもある。そのため、後からポイントを取り返された場合、気持ちを立て直す必要がある。師範は、その後スイープ(下からひっくり返すこと)でポイントを取り返された。後から取り返した方が精神的には勢いがあり、取り返された方は気持ちを立て直さないと負ける。だが師範は、再び上を取り返してポイントを取り、勝ちを収めた。これが初試合であることを考えると、驚くべきメンタル・バランスだ。

続く2回戦。1回戦とは、相手の面構えが違う。タップを我慢したら折ってきそうな雰囲気すらある。試合が始まる。やはり相手は恐ろしく強い。師範はニーオンを取られ、マウントを取られ、ポイントを連続して取られ、上からの十字絞めを極められる。絞め殺すような極まり具合に、師範はタップする。

リアルな真剣勝負の感想で忖度はしたくないので、正直な感想を述べる。2回戦の相手は、師範より三枚ぐらい上手だった。”現時点では”。努力次第でそれをひっくり返す可能性があるのも格闘技、特に柔術だ。加齢などで体力や動体視力が落ちてなお、格闘技の中で向上の可能性が高い技術は、寝技だ。恐ろしく多忙であろうに、「週6で練習している」という師範だ。その年齢でそれだけ練習するには、時間の使い方以上に、体の強さが重要になる。若い選手であっても、それだけ練習すると、疲れがたまってケガをしやすい。44歳にしてそれだけ練習できるのは、そもそも生物として強いのであろう。

師範の映画を年代順にすべて観た。00年代の師範は、”美少年”と言ってもいいぐらいに若く美しく、また繊細な役も多かった。この時代の作品はほぼ未視聴だったので、1本1本新鮮な気持ちで観た。

10年代に入り、顔つきも大人になり、ガタイも良くなってきた。『SP』シリーズをきっかけに、真剣に格闘技に取り組み始めたからだろう。アクション作への出演も増え、今の師範に近くなってきた。

20年代になると、顔つきは大人を通り越して「侍」のようになり、体型もガチの格闘家のそれになった。この年代の作品は、『人生クライマー』(2022年)のナレーション以外、すべてアクション映画である。今年度の師範アクションの集大成として、11月からNetflixにて『イクサガミ』が配信される。今村翔吾原作の、”侍バトルロワイヤル大活劇”だ。

来年、2026年には、『SUKIYAKI 上を向いて歩こう』が待っている。演じるのは、『上を向いて歩こう』の作曲家であり、ジャズピアニストの中村八大だ。久しぶりの、非アクション映画である(おそらく)。師範のお母さんは、ピアノの先生だ。

僕は小学校の6年間、母からピアノを習っていて一日30分はピアノの練習を義務づけられていた。先生のときは、厳しくて、シャーペンでぷすぷす手の甲を刺された。

『オカダのはなし』より

ブランクがあるとは言え、スパルタ的に鍛えられていた時期のある、師範のピアノだ。楽しみである。そして、特に強くもない文科系の主人公を演じるのは、『お・と・なり』(2009年)や『天地明察』(2012年)以来か。こちらも非常に楽しみだ。ピアニストにしてはデカ過ぎる背中を、どうするのかはわからないが。

ただ筆者は、映画ライターとして、そして武道家として、そのデカ過ぎる背中を一生追い続ける。










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