父の失敗
昼寝から目覚めると日が傾いていて、家の外からギーッと鳥のなくこえがした。
足元には犬。
短毛のなめらかなお腹がゆっくりと上下している。
犬にブランケットをかけてやり、腕時計に目をやる。
「今日は、ハトちゃんを学童に迎えに行っていい日だっけか?」
孫のハトちゃんは、曜日によっては真っ直ぐ習い事に行ってしまうので、お迎えに行ってもいないことがある。
?
曜日の感覚はとうにない。
朝、娘が
「今日はお迎えに行ってね!」
「今日はお迎えは行かなくていいよ!」
どっちを言ったのか記憶にない。
なんだかメモ用紙に書いていったようだったが、新聞の広告紙に紛れてどこにいったのか分からない。
ハトちゃんを学童にお迎えに行こう。
行かないより行った方がいい。
お迎えの人が次々に来てお友達が減って行く中、一人でいつまでも待っているのはかわいそうだ。
そうだ。お迎えに行こう。
⭐︎⭐︎⭐︎
私は、いつもカッカきている。
理由は父の失敗だ。
80オーバーの父は物忘れの人で、そんなつもりはないのだろうが、私を上手に沸騰させてくれる。
仕事帰りに携帯に着信がある。
学童からだ。
「今日ハトちゃんはスイミングに行っておられて学童には来られてない日ですけど、おじいちゃんがさっきお迎えに来られました。
念のため、ご連絡しておきます。」
「もう〜ッ、なんで?朝言っといたじゃん!」
家を出る前に私が段取りしたことは、だいたい思い通りに行かなくて。そんな日は、プリプリしながら家に帰る。
父の失敗は毎日繰り返される。
・扉を開放したままでエアコンを入れっぱなしにする
・冷蔵庫のコンセントを抜く
・犬に何度もご飯をあげてしまう
・せっかく届いたお昼の給食を食べていない
・
・
・
「もうーッ、なんで?なんでこんなことすんのさ!」
⭐︎⭐︎⭐︎
ある冬の日、クール便が届いていた。
父の学生時代の同級生からだった。
父も私も娘もわくわくして包装をといて、中を見た。
そこには、とてもとても豪勢な海産物詰め合わせが入っていた。
これからしばらく、充実した食生活が続くことは間違いない。
当然、お礼を言わなければならない。
心を込めてお礼状を書いても良いかもしれない。
「おとうさん、送付状は?」
なぜか包装紙から送付状の部分だけが引き剥がされて見当たらないのである。
「分からない」
「宅急便の受け取りはおとうさんがしているから、
もらった時、剥がしたんでしょ?
どこにやったの?」
「知らない」
「もうーッ、なんで?なんで知らないのさ!」
色々と鬱憤が溜まっていたところだったので、爆発してしまった。くどくどがみがみと言った。
そもそもなんでこうなの?的なことも言った。
父の人格を否定してしまったかもしれない。
ちょっと高価そうなお品だったので、早急にご挨拶をせねばという焦りがあったから。しっかりお礼をしないと食べてはいけない気もしていた。
その後、どうにか同級生の名前を思い出してもらって、父宛の年賀状を片っ端からめくって、連絡先を探した。
プリプリ怒りながら。
⭐︎⭐︎⭐︎
結局、探し物は、春過ぎて見つかった。
コタツ布団をクリーニングに出すタイミングで。
それは、コタツの天板を取ったら、かけ布団の上に鎮座していた。
そこには、嫁いだ妹が贈ってくれたお歳暮の送付状もあった。
いつも父が座っている席の真ん前にずっと挟まれていたのだ。
「おとうさんは、
大切なものだから、
なくしたらいけないから、
身近に置いておいたのだな…。」
と思ったら、父に申し訳ない気持ちがぶわぁ〜っと湧き上がってきた。あんなに怒ってしまって、よくなかった。
そして、気付いてしまった。
父の失敗はどれも失敗ではないことに。
父のやらかしたことを列挙したが、それを翻訳するとこうなる。
扉を開放したままでエアコンを入れっぱなしにする
↓
隣の部屋にある仏壇まで暖かい(or冷たい)空気を届けたい
冷蔵庫(父専用)のコンセントを抜く
↓
冷やす物が少ししか入っていないから、ずっと電気を使うのは勿体ない
犬に何度もご飯をあげてしまう
↓
こんなに欲しがっているのは、お腹が空いているからだろう
お昼の給食を食べない
↓
お隣に住むおばあちゃんの分の給食と思い込んでいる。お隣に運ぶと、違うと言われ、家に持ち帰るが食べていない。
冒頭のモノローグで父の頭の中を想像してみた。
父の失敗は見方を変えると、全て優しさや親心の発露なのだった。ちょっとだけ的外れに家族を気づかい、孫や犬に愛を注いでいる。
父が優しくしたい一番の人はこの世にいない。
母は、7年前の暑い暑い日に亡くなった。
父は溢れ出てくる優しい気持ちを、父のやりたいやり方で家族に注いでいるだけだ。
私の想定や最短距離の家事計画からはグーンと逸れているから、私には「失敗」に見えて、イライラしたり、脱力したりしてしまうのだ。
これからも、毎日、父は「失敗」し続ける。
これからも、毎日、父は「優しく」し続ける。
それだけのこと。
⭐︎⭐︎⭐︎
もうすぐ、母が亡くなった暑い暑い8月がやってくる。
いっぱい失敗するんだろうなぁ…。ふふっ。
黒編もあります↓
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ハトちゃん(娘)と一緒にアイス食べます🍨
それがまた書く原動力に繋がると思います。