#09':参考レビュー | 2月1日『アリー/スター誕生』(2018) グラミー賞が生んだ現代の傑作
はじめに
2026年2月1日——この日、ロサンゼルスのCrypto.com Arenaで第68回グラミー賞授賞式が開催されます。音楽業界最高の栄誉であるグラミー賞は、毎年、音楽の創造性と卓越性を祝福します。
そして、この「音楽最大の夜」を祝うのに完璧な映画があります——『アリー/スター誕生』(A Star Is Born, 2018)。
主人公アリー(レディー・ガガ)は、無名のウェイトレスからスターダムへと駆け上がります。そして物語は、音楽業界の最高峰であるグラミー賞授賞式の夜へと向かいます。この夜、アリーとジャック(ブラッドリー・クーパー)の物語は、感情的なターニングポイントを迎えます。
そして、フィクションが現実になりました。
映画が公開された後、そのサウンドトラックは実際のグラミー賞で大成功を収めました:
2019年(第61回グラミー賞): 主題歌"Shallow"がBest Song Written for Visual MediaとBest Pop Duo/Group Performanceの2部門を受賞
2020年(第62回グラミー賞): "I'll Never Love Again"が再びBest Song Written for Visual Mediaを受賞
レディー・ガガは、同カテゴリーで2年連続受賞という快挙を成し遂げた初の女性アーティストとなりました。サウンドトラック全体では、2つの異なる授賞式で合計7つのグラミー賞にノミネートされ、4つの賞を獲得しました。
これらの受賞により、レディー・ガガは2019年にアカデミー賞、BAFTA賞、ゴールデングローブ賞、グラミー賞を1年で全て獲得した史上初の女性となりました。
この2月1日、グラミー賞授賞式を観る前に——あるいは観た後に——この映画を体験してください。音楽が人生を変える瞬間を、愛が希望と絶望の間で揺れ動く様子を、そして、スターが生まれる瞬間を。
基本情報・あらすじ
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監督: ブラッドリー・クーパー
製作年: 2018年
上映時間: 136分
制作: ワーナー・ブラザース、ライヴ・ネイション・エンターテインメント、メトロ・ゴールドウィン・メイヤー
記念日: グラミー賞授賞式(2月1日)
予備知識
4度目のリメイク:『スター誕生』の系譜
『アリー/スター誕生』は、ハリウッド史上最も何度もリメイクされた物語の一つです。この物語は、1937年から2018年まで、80年以上にわたって4度映画化されています。
1937年版:オリジナル
監督: ウィリアム・A・ウェルマン
主演: ジャネット・ゲイナー、フレドリック・マーチ
オリジナル版は、ハリウッドの裏側を描いたドラマでした。若い女優エスター・ブロジェットが、衰退するスター、ノーマン・メインと出会い、彼の助けでスターになります。しかし、彼女の成功とノーマンの転落は、悲劇的な結末へと導きます。
この映画は、アカデミー賞で7部門にノミネートされ、ハリウッドの「スターシステム」と名声の代償について、当時としては画期的な描写を提供しました。
1954年版:ミュージカル版
監督: ジョージ・キューカー
主演: ジュディ・ガーランド、ジェームズ・メイソン
脚本: モス・ハート
1954年版は、物語をミュージカルとして再解釈しました。ジュディ・ガーランドは、自身のキャリアの浮き沈みを反映させた、圧倒的なパフォーマンスを見せました。
この版は、音楽を物語の中心に据え、"The Man That Got Away"などの名曲を生み出しました。ガーランドの演技は伝説的で、アカデミー主演女優賞にノミネートされました(受賞はグレース・ケリー)。
2018年版の脚本は、この1954年版のモス・ハートの脚本を基にしています。
1976年版:ロックミュージカル版
監督: フランク・ピアソン
主演: バーブラ・ストライザンド、クリス・クリストファーソン
プロデューサー: ジョン・ピーターズ
1976年版は、物語を現代のロック音楽業界に移しました。バーブラ・ストライザンドは、エスター・ホフマンという名の歌手を演じ、ロックスターのジョン・ノーマン・ハワード(クリストファーソン)と恋に落ちます。
この版は、商業的には大成功を収め、主題歌"Evergreen"(ストライザンドとポール・ウィリアムズ作曲)は、アカデミー歌曲賞とグラミー賞Song of the Yearを受賞しました。ストライザンドは、この歌でアカデミー賞を受賞した初の女性作曲家となりました。
興味深いことに、ストライザンドは2018年版について当初「リメイクのリメイクは間違ったアイデアだ」と批判しましたが、後に「素晴らしかった。ガガは素晴らしかった」と前言を撤回しました。
2018年版:現代の傑作
そして、2018年——ブラッドリー・クーパーとレディー・ガガによる4度目のバージョンが誕生しました。
この版は、前作からのいくつかの重要な変更を加えました:
主人公をカントリーロック歌手に設定
依存症とメンタルヘルスをより深く掘り下げる
音楽業界の現代的な側面(ポップへの商業化、イメージの重要性)を描写
実際の音楽フェスティバル(Coachella、Stagecoach、Glastonbury)で撮影
開発の長い道のり:誰が『スター誕生』を作るはずだったのか
2018年版に至るまでの道のりは、長く曲折に満ちていました。
1990年代後半〜2000年代初頭:
ウィル・スミスが主演候補でしたが、『アリ』(2001)への出演を選びました
ジェイミー・フォックスとオリバー・ストーン監督の組み合わせが噂されました
フォックスは、女性主役にアリーヤ、そして後にポール・ウォーカーを共演者として検討しました
ローリン・ヒル、マライア・キャリー、アリシア・キーズ(キーズは辞退)も候補に挙がりました
2011年〜2015年:Beyoncéバージョン
2011年、クリント・イーストウッド監督、Beyoncé主演、ブラッドリー・クーパー共演という企画が発表されました
しかし、Beyoncéの妊娠により、プロジェクトは延期されました
イーストウッドは、他の候補としてエスペランサ・スポルディング、ジェニファー・ロペス、リアーナ、シャキーラ、ジャネール・モネイ、セレーナ・ゴメス、デミ・ロヴァート、Keshaを検討しました
男性主役には、クリスチャン・ベール、レオナルド・ディカプリオ、トム・クルーズ、ジョニー・デップが候補に挙がりました
2015年〜2016年:クーパーとガガの運命的な出会い
2015年3月、クーパーが監督デビュー作として正式に発表されました
Beyoncéが再び候補でしたが、1年間作業した後、プロジェクトを去りました
Adeleが一時検討されました
そして2016年8月、レディー・ガガが正式にキャスティングされ、ワーナー・ブラザースがプロジェクトにゴーサインを出しました
クーパーの当初の計画: 興味深いことに、クーパーは当初、監督に専念するため、自分は出演しないつもりでした。彼の男性主役の第一候補は、ミュージシャンのジャック・ホワイトでしたが、スタジオが拒否しました。その時、クーパーは監督と主演の両方を引き受けることに同意しました。
優れている点
ブラッドリー・クーパーの監督デビュー:綱渡りを完璧にこなす
ブラッドリー・クーパーの監督デビューは、圧倒的な成功でした。バラエティ誌のオーウェン・グレイバーマンは、「[クーパー]が良い仕事をしたと言うのは彼の功績を過小評価することになる。彼は綱渡りを完璧にこなした」と書きました。
クーパーは、主演、共同脚本、共同プロデュース、監督を務め、さらにサウンドトラックにも参加しました——これは、映画製作における驚異的な多才さの証です。また、彼の監督スタイルは、大胆でありながら繊細で、物語の感情的な核心を決して見失いませんでした。
監督賞のノミネート落選:
興味深いことに、クーパーは第91回アカデミー賞で監督賞にノミネートされませんでした。映画は作品賞、主演男優賞、主演女優賞、助演男優賞、脚色賞、撮影賞、音響編集賞、歌曲賞の8部門にノミネートされましたが、監督賞は含まれていませんでした。
クーパーは後に、授賞式で監督賞にノミネートされなかったことを「恥ずかしい」と思ったと述べました。しかし、この落選は、映画業界内外で大きな論争を引き起こし、多くの批評家と映画製作者がクーパーの監督の才能を擁護しました。
ジャック・メインの複雑さ:
クーパーのジャックは、単なる「アルコール依存症のロックスター」ではありません。彼は:
深い才能と音楽への情熱を持つアーティスト
幼少期のトラウマ(12歳での自殺未遂)に苦しむ男
進行性の耳鳴りという身体的苦痛を抱える人
兄への複雑な感情を持つ弟
アリーを心から愛しているが、彼女の成功に嫉妬する夫
クーパーは、これらすべての側面を繊細に演じ、ジャックを深く人間的で、悲劇的で、しかし決して単純な「悪役」ではないキャラクターにしました。
声と歌唱:
クーパーの歌唱は、映画の大きな驚きの一つでした。彼の声は低く、ざらついており、完全にジャックのキャラクターに適合しています。彼は、単に「上手に歌う」だけでなく、ロックスターのように歌い、動き、存在します。
レディー・ガガの映画デビュー:スターの誕生
レディー・ガガの映画初主演は、圧倒的な成功でした。Entertainment WeeklyのLeah Greenblattは、ガガが「抑制された、人間スケールのパフォーマンスで賞賛に値する。彼女の実在の少女のような脆弱性は、彼女自身のステージペルソナのきらびやかなミートドレスの狂乱から遠く離れている」と述べました。
アリー・カンパナの旅:
ガガのアリーは、夢を追いかける普通の女性から始まり、世界的なスーパースターへと変貌します。ガガは、この変化を説得力を持って演じ、アリーの脆弱性、強さ、野心、愛を全て表現しました。
ガガの実生活との並行:
興味深いことに、ガガの実生活は、アリーの物語といくつかの並行点があります:
両方とも、最初は認められなかったシンガーソングライター
両方とも、独自のビジョンを持つアーティスト
両方とも、商業的成功と芸術的誠実さの間でバランスを取る必要があった
しかし、ガガは、単に「自分自身を演じる」のではなく、アリーを独立したキャラクターとして作り上げました。アリーはガガではありません——彼女は完全に、ガガが演じるキャラクターです。
ノーメイクの美しさ:
映画の多くの場面で、ガガはほとんどメイクをしていません。これは、彼女のステージペルソナとは大きく対照的です。この選択により、アリーの生々しい人間性が強調され、ガガの演技力が前面に出ます。
撮影とビジュアル:真実性と親密さの融合
撮影監督マシュー・リバティークの仕事は、見事です。彼は、大規模なコンサートシーンの壮大さと、親密な個人的瞬間の繊細さの両方を捉えました。
実際の音楽フェスティバルでの撮影:
撮影は2017年4月から7月まで行われましたが、製作陣は真実性を重視しました。
コンサートシーンは、実際の音楽フェスティバルで、本物の観客の前で撮影されました:
Stagecoach Festival(インディオ、カリフォルニア):Jamey JohnsonとWillie Nelsonの間の幕間で撮影。クルーには、各シーンをセットアップして撮影するのにわずか8分間しか与えられませんでした。
CoachellaとGlastonbury Festivalでも追加のコンサートシーンが撮影されました。
この手法により、映画のコンサートシーンには、スタジオでは決して再現できない本物のエネルギーと興奮があります。観客の反応は本物であり、パフォーマンスは生であり、雰囲気は電気的です。
自然主義的なビジュアルスタイル:
監督のブラッドリー・クーパーと撮影監督のマシュー・リバティークは、自然主義的なビジュアルスタイルを採用しました。
彼らは、ハンドヘルドカメラと自然光を使用し、親密な雰囲気を作り出しました。リバティークは、映画のビジュアルスタイルに関する決定は協力的に行われ、真実性とトーンに焦点を当てたと述べています。
この撮影スタイルにより、映画は大規模なハリウッド作品でありながら、インディペンデント映画のような親密さと生々しさを持っています。
親密な瞬間:
対照的に、ジャックとアリーの私的な瞬間——浴槽での会話、ベッドでの抱擁、車の中での喧嘩——は、ハンドヘルドカメラと自然光で撮影され、極めて親密で生々しく感じられます。
注目点
レディー・ガガキャスティング:冒険から大成功へ
『アリー/スター誕生』の最も大胆な決断の一つは、レディー・ガガをヒロインに起用したことでした。そして、この決断は、映画の成功の鍵となりました。
実際にグラミー賞を受賞できる歌手を起用:
この映画の天才的な点は、実際にグラミー賞を複数回受賞している本物の音楽スターをヒロインに起用したことです。レディー・ガガは、撮影開始時点(2017年)ですでに、デビューアルバム『The Fame』でBest Dance/Electronic Albumを受賞するなど、複数のグラミー賞を獲得していた実績のあるアーティストでした。
つまり、アリーがグラミー賞にノミネートされ、ステージに立つシーンは、単なるフィクションではなく——映画を演じているレディー・ガガ自身が、実際にそのステージに立つ資格を持つアーティストだったのです。そして映画公開後、ガガは『アリー/スター誕生』のサウンドトラックでさらに4つのグラミー賞を受賞することになります。
しかし、Warner Bros.は懐疑的だった:
クーパーは、2016年4月の癌チャリティイベントでガガが「ラヴィアンローズ」を歌うのを聴いた瞬間、彼女がアリー役だと確信しました。「彼女は太陽に完全に照らされていた。とてもカリスマ的だった。私は心の中で思った——もし彼女が映画でこのように存在感があるなら、最悪のシナリオでも、この映画は成功する」とクーパーは語りました。
しかし、Warner Bros.は同意しませんでした。
プロデューサーのビル・ガーバーは明かしました:「それはスタジオの意見でした——Bradleyやプロデューサーではなく、Warner Bros.の元幹部がガガが役に適しているか確信していませんでした。だから私たちは彼らを説得しなければなりませんでした」
スタジオが懸念した理由は明確でした:
初めて映画を撮る男(クーパー)が監督
4度目のリメイクという難しい企画
映画初主演の歌手(ガガ)
「初めて映画を撮る男が、4度目のリメイクを作り、映画を撮ったことのない歌手と組む」——スタジオから見れば、これは極めてリスキーな賭けでした。
複数のスクリーンテスト:
Warner Bros.は、「proof of concept(実現可能性の証明)」を要求しました。彼らは、クーパーとガガに複数のスクリーンテストを実施するよう求めました。
「最初、私はそれをやりたくなかった」とクーパーは認めました。「しかし、その後、本当に受け入れ、監督する機会として捉えました。私は監督したことがなかったので、10ページを書き、彼女の家で撮影しました。Janusz Kaminski(撮影監督)が親切にも撮影してくれ、私たちはそれを劇場でWarner Bros.に見せて、映画のゴーサインをもらいました」
クーパーとガガの相互信頼:
クーパーは、ガガを女優として信じ、ガガは、クーパーをミュージシャンとして信じました。
「私たちは一種の取引をしました:私は彼女を女優として信じ、彼女は私をミュージシャンとして信じました」とクーパーは説明しました。「また、どの女優も、42日間の撮影で私が音楽的に必要としたことをStefani(ガガの本名)のようにはできません。私にはプルトニウムが必要でした。そして『アリー/スター誕生』のプルトニウムは、Stefaniの声です」
ガガは、自分の側から見た経験を語りました:「いつも女優になりたかった。部屋に100人いて、99人があなたを信じなくても、たった1人があなたを信じてくれればいい。それが彼(クーパー)でした。だから私はここにいることができて、とても幸運です」
結果:圧倒的な成功
Warner Bros.の当初の懸念は、完全に間違っていたことが証明されました。
実際にグラミー賞を受賞できる歌手をヒロインに起用するという冒険は、映画史上最も成功したキャスティングの一つとなりました。
グラミー賞との深い繋がり
『アリー/スター誕生』とグラミー賞の関係は、単なる「映画が賞を受賞した」というレベルを超えています。
サウンドトラックは、2つの異なる授賞式で7つのグラミー賞にノミネートされ、4つの賞を受賞しました。
レディー・ガガの歴史的快挙:
レディー・ガガは、Best Song Written for Visual Mediaカテゴリーで2年連続受賞した初の女性となりました。
さらに驚くべきことに、ガガは2019年に、アカデミー賞、BAFTA賞、ゴールデングローブ賞、グラミー賞を全て1年で獲得した史上初の女性となりました。この快挙は、音楽と映画の両方での彼女の才能を証明しています。
"Shallow"のオスカーパフォーマンス:史上最も視聴された瞬間
2019年2月24日の第91回アカデミー賞授賞式で、ガガとクーパーは"Shallow"をデュエットで歌いました。
このパフォーマンスは、アカデミー賞史上最も視聴されたオンラインクリップとなり、2025年時点でYouTubeで8億5000万回以上の再生回数を記録しています。
USA Todayは、2025年のオスカーでの最高の音楽パフォーマンスのランキングで、ガガとクーパーのデュエットを1位に選びました。評価は「二人は『アリー/スター誕生』で否定できない調和を共有し、その繋がりをライブ観客にシームレスに転送し、巧妙に演出されたパフォーマンスで魂を掴んだ」としました。
文化的影響と遺産
『アリー/スター誕生』は、単なる商業的成功を超えて、文化的現象となりました。
"Shallow"の普遍的な魅力:
"Shallow"は、世界中でカバーされ、結婚式で歌われ、オーディション番組で演奏されました。この曲は、映画を観ていない人々にも届き、2010年代後半の最も象徴的な曲の一つとなりました。
結び
2026年2月1日、グラミー賞授賞式が終わった後——あるいはその前に——『アリー/スター誕生』を観てください。
この映画は、音楽の力についての物語です。音楽が、普通の人をスターに変え、人々を繋ぎ、痛みを表現し、そして癒す力を持つことを示しています。
『アリー/スター誕生』は、グラミー賞が生んだ現代の傑作です。サウンドトラックが4つのグラミー賞を受賞し、レディー・ガガが歴史を作り、"Shallow"が世界的な現象となったことは、偶然ではありません。この映画は、音楽を尊重し、音楽の力を理解し、そして音楽を通じて物語を語ります。
