【YBAとロン・ミュエク】話題の展覧会を一日でハシゴした件。
『YBA & BEYOND 世界を変えた90s英国アート』と『ロン・ミュエク』。二つの美術展を鑑賞してきました。会期が重なるタイミングがあり、前者が国立新美術館、後者が森美術館と近いので、歩いてハシゴできるなと。どちらも見応えがあり楽しい一日でした。
YBA & BEYOND 世界を変えた90s英国アート
1980年代後半から2000年代初頭にかけて制作された英国美術に焦点を当てる企画です。サッチャー政権時代(1979-90年)を経験して失業率が悪化するなど緊張感漂う英国社会では、既存の美術の枠組みを問い、作品の制作や発表において実験的な試みをする作家たちが数多く登場しました。
当時「ヤング・ブリティッシュ・アーティスト(YBA)」と呼ばれた作家たち、そして、彼らと同時代のアーティストたちは、大衆文化、個人的な物語や社会構造の変化などをテーマとし、絵画、彫刻、写真、映像、インスタレーションなど多様な手法を用いて独創的な作品を発表してきました。
◼️ダミアン・ハースト

現代アートを鑑賞するのは好きなのですが、特に詳しいわけではありません。そもそも、90年代の英国アート界に「ヤング・ブリティッシュ・アーティスト(YBA)」なる潮流があったということを全く知りませんでした。
そんな私でも知っていたのが、YBAを象徴する作家ダミアン・ハースト。雑誌などで、例のホルマリン漬けの動物の作品を知っていましたが、実際の作品を観るのは初めてでした。この作品は「孤独」や「閉塞感」を感じると同時に「タバコ、煙たいだろうなぁ」と思いました(浅〜い感想でスミマセン)。
◼️ニュー・ジェネレーションの登場、都市のイメージをつなぐ


クリス・オフィリ《ユニオン・ブラック》2003年(上右)
ジュリアン・オビー《都市の風景?》1998-99年(中)
マーク・ウォリンジャー《半兄弟の競走馬》1995年(下左)
サイモン・パターソン《おおぐま座》1992年(下右)
最初のセクションでは、YBAと呼ばれるアーティストの台頭と、その背景となったサッチャー政権当時の英国社会の状況を紹介。続くセクションでは、若いアーティストの創造の源となった、90年代の都市の光景をテーマに紹介しています。
◼️音楽、サブカルチャー、ファッション

ジム・ランビー《スカは死んでいない》2001年(上右)
ジュリアン・オピー《ゲイリー、ポップスター》1998–99年(下左)
ヴォルフガング・ティンマルス《木に座るルッツとアレックス》1992年(下中)
シーマス・ニコルソン《オリ》1999年(下右)

音楽やファッションとの関わりを紹介するこのセクションが、最も馴染み深かったですね。ジュリアン・オピーの作品は、BLURのアルバム・ジャケットでお馴染みですが、90年代の英国と言えば、私自身はブリット・ポップよりもアシッド・ジャズや「Talkin' Loud」をよく聴いていました。
ジェレミー・デラーの「ACID HOUSE」と伝統的な「BRASS BANDS」を繋げた相関図は面白いですよね。808 StateやKLFなどに混じって、KraftwerkやDAFの名前も見えます。YBAのアーティストの感性と新しいクラブ・ミュージックやレイヴ・カルチャーとの親和性が高いこともよくわかりますね。
◼️現代医学

マーク・クイン《逃げ出す方法が見当たらないⅣ》1996年(上右)
キャシー・ド・モンショー《消す》1989年(下左)
アニッシュ・カプーア《傷と不在のオブジェクト》1998年(下中)
マーク・フランシス《起源》1992年(下右)
このセクションでは、当時の医学の発展や薬への依存、エイズ問題などのテーマと向き合った作品を紹介。ヘレン・チャドウィックの脳みその作品はインパクトがありましたね。エイズをテーマにしたデレク・ジャーマンの絵画もありましたが、写真を撮り忘れました。
◼️コールド・ダーク・マター:爆発の分解イメージ

この作品は、とても綺麗でしたね。実際は空間全体がもう少し薄暗いんですが、中心に光があり、吊り下げられた木片や廃材を照らして、本当に四方に広がる爆発の瞬間を一時停止したような印象を受けます。そして、壁や床に映った影も美しい。
◼️家、身近にあるもの

モナ・ハトゥム《家》1999年(上右)
エリザベス・ライト《B.S.A.社製のレーサータイプ自転車「ツアー・オブ・ブリテン」を135%のサイズに拡大し たもの》1996–97年(下左)
サラ・ルーカス《煙草のおっぱい(理想化された喫煙者の椅子Ⅱ)》1999年(下右)
この「家」と「日常生活」をテーマにした二つのセクションは、ユーモラスな作品が多かったですね。特にこの自転車がね、ただの自転車にあらず。実際の自転車をもとに135%の大きさに作り直してあるんですよ。しかも傷なども精密に。つまり、サイズだけがちょっと大きいという、なんとも言えない違和感が。これは、次のロン・ミュエクにも通じる感覚です。
ロン・ミュエク
ロン・ミュエク(1958年オーストラリア生まれ、英国在住)は、革新的な素材や技法、表現方法を用いて具象彫刻の可能性を押し広げてきた現代美術作家です。人間を綿密に観察し、哲学的な思索を重ねて制作されたミュエクの作品は、洗練され、生命感に溢れ、孤独、脆さや弱さ、不安、回復力といった人間の内面的な感情や体験を巧みに表現しています。
実際の人物よりもはるかに大きく、あるいは小さく造られるその彫刻は、私たちの知覚に対する先入観への挑戦でもあります。同時に、実際に存在していそうであるというリアリティに肉迫する一方で、鑑賞者一人ひとりの解釈や思索を促す曖昧さも残しています。神秘的でありながら圧倒的な存在感を放ち、私たちと身体との関係、そして存在そのものとの関係を問いかけます。
ロン・ミュエクのことは、十和田市現代美術館の「スタンディング・ウーマン」という作品で知っていて、いつか絶対に観に行きたいと思っていました。今回、まとまった個展が開催されるということで、すごく楽しみにしていました。
公式の解説によると、1997年の『センセーション:サーチ・コレクションのヤング・ブリティッシュ・アーティスト展』への参加で注目を集めたそうなので、前述の『YBA & BEYOND』を補完するような意味合いもあるように感じました。

最初の展示作品です。一つ目からインパクト抜群。さほど大きくはない作品なのですが、表情を含めた表現の緻密さ圧倒されます。

ベッドに横たわる巨大な女性。左の鑑賞者と比べるとサイズ感がわかりますよね。こちらが鑑賞しているはずが、何かこちらも見られているような気分になりますね。



《ダーク・プレイス》 2018年(右上)。日本初公開。
《舟の中の男》2002年(右下)

おじいさんと鶏。これ、一番好きでした。右下の制作中の写真でサイズ感がわかると思いますが、絶妙に実物の人間よりも小さい。それでいて、肌の質感やシミ、シワなどがものすごくリアルなのが違和感の源。「何故こういうシチュエーションになったか」みたいな事は考える余地もないんですね。合理的な思考が働くのを拒否する、そんな感じですね。

この女性、なんとも言えない表情をしていますね。物語的に人物の背景を考えることもできるとは思いますが、やはり精密な造形と人物のサイズ感とのギャップによる違和感の方が先にきて、鑑賞している間はそういう思考には至りませんでした。

作家本人をモデルとした作品です。120cmくらいあります。ヒゲも一本ずつ植えてるんですね。ちょっと地面にめり込んだような佇まいも面白い。裏側も見られて面白い。

このサイズの頭蓋骨が部屋いっぱいに積み上げられている様は圧巻の一言です。部屋全体が明るく、意外と不穏な雰囲気はないんです。前段の人物のリアルな質感とは異なり、一つひとつのドクロがツルッとして綺麗なことも一因でしょうね。RPGゲームの一場面に入り込んだような感覚です。
もともと寡作な作家なのだそうで、展示された作品数も決して多くはないのですが、何しろ一つひとつのインパクトが強い。最後に制作の様子を収めた1時間ほどの映像作品を鑑賞しましたが、静寂の中で緻密に作業を進める姿には、職人のような佇まいも感じました。
二つの英国ゆかりの現代アート展
私がこうした現代アートに求めるものは、非日常的な事象との遭遇による驚きや感動、すなわち、鑑賞というよりは「体験」のようなものです。そういう意味では、両者とも非日常的な体験に満ちた良い展覧会でした。
私は、美術の勉強をしたわけでもありませんので、専門的な評価ができず申し訳ありませんが、このタイミングでこの二つの展覧会を同時に観られたことはとても良かったと思っています。一見の価値あり。おススメです。
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