見出し画像

文学茶釜 #毎週ショートショートnote

 高校の同級生炭釜が、一浪後私と同じ大学に入った事を知り、私の心はざわついた。既に国訛りも捨てた私には目障りでしかない。
 やがて私の居る文芸部に入部した炭釜は、津軽訛りで「作家を目指している」と高言、都会っ子達のいじりの対象となった。彼等は炭釜に会う度、「春樹は読んだ?」「ガルシア・マルケスは知ってる?」などとからかい、いつも茶色のセーター姿の炭釜に「文学茶釜」というあだ名をつけてしまった。
 私はそんな彼をしばしば喫茶店に誘ったが、「都会のコーヒーはこんなに苦いのか」などと呟くばかり。程なく炭釜は、部室に顔を見せなくなった。
 部員達は噂話に興じた。
「アイツは芸人になった」「いや、日雇い労働者をしている」などと。
 炭釜が姿を消し一年。私は、書店の店頭で、ある文芸誌の表紙に目を止めた。新人賞の発表、受賞作は「文学茶釜」。私は喫茶店で「文学茶釜」を読み耽った。読み終えて飲んだコーヒーは、これまでで一番苦い味がした。

(410文字)

たらはかに様の企画に参加させていただきます。

いいなと思ったら応援しよう!