ジャック・ケルアック「路上」エディット版
今週はPodcastはお休みです。そのかわり、EP.5の第3回で小森さんが翻訳、編集し、朗読した、ジャック・ケルアックの「路上」Part1・Chapter14の一部を、独自に編集、翻訳したテキストをお送りします。
路上 ジャック・ケルアック Part1、Chapter14
夜明け前、私のバスはアリゾナの砂漠を疾走していた。インディオ、ブライス、サロメ、そして南はメキシコ山脈へ続く広大な乾燥地帯。
北へ向きを変え、アリゾナ山脈、フラッグスタッフ、先住民のいる岩だらけの町へ。真っ暗闇の中、ニューメキシコを横断し、テキサス州ダルハートでグレーな夜明け。
荒んだ日曜の午後にオクラホマ、日暮れにはカンザス、そして正午にセントルイス。そこでミシシッピの川岸を散歩し、北部モンタナ州から流れてくる丸太を眺めた。
夜になるとバスはインディアナ州のトウモロコシ畑を轟音を立てて走り抜けた。ゴーストのように束ねられたトウモロコシの皮を月が照らしていた。
女の子と知り合いになり、インディアナポリスまでずっとキスしていた。彼女とニューヨークのホテルで会う約束をした。彼女はオハイオ州コロンバスで降り、私はピッツバーグまでずっと眠っていた。
ニューヨークまであと365マイルをヒッチハイクで。ポケットには10セント。ピッツバーグを出るため5マイル歩き、リンゴを積んだトラックに乗せてもらい、インディアンサマーの柔らかい雨の夜にハリスバーグまで行った。家に帰りたかった。
サスケハナはゴーストの夜だった。ゴーストは、しわくちゃの小さな老人で、紙でできた鞄を持ち、「カナディ」に向かっていると繰り返しいっていた。
彼はただのホーボーで、東部の荒野を徒歩で移動し、赤十字事務所やメインストリートの角で10セントをねだっていた。私たちはどっちもホーボーだった。ふたりでサスケハナ川沿いを7マイル歩いた。
小さな男は、鞄の中にベルトがあると言って立ち止まった。「メリーランド州のフレドリックで拾ったんだ。くそ、フレドリックスバーグに忘れたかな?」
「フレドリック?」
「いや、バージニア州のフレドリックスバーグだ!」彼はいつもメリーランド州のフレドリックとバージニア州のフレドリックスバーグについて話していた。
彼は道の真ん中をまっすぐ歩き、何度もひかれそうになった。私は溝の中をのろのろ歩いた。いつ彼が夜空にはねられて死ぬか、毎分ごとに考えていた。鉄道の地下道で彼と別れた。
雨が激しく降り始めた。ある男が道を間違えていると教えてくれ、私をハリスバーグまで乗せて戻ってくれた。すると街灯の下に立って親指を突き出している小さなホーボーを見た。哀れで寂しい、失われてしまった、いつかは少年だったもの、今は無一文の荒野にいる壊れたゴースト。私は運転手に伝え、彼は立ち止まって老人に話しかけた。
「おい、あんた、西へ行くんだろ、東じゃないぞ」
「ハァ?」小さなゴーストが言った。
「俺がこの辺の道を知らないなんて言わせないぜ。何年もこの辺を歩き回ってるんだ。カナディに向かってるんだよ」
「でも、これはカナダへの道じゃない。ピッツバーグとシカゴへの道だ」
小さな男はうんざりして歩き去った。最後に彼を見たのは、悲しげなアレゲニー山脈の暗闇に溶けていく、彼の揺れる小さな白い鞄だった。
サスケハナのゴーストが教えてくれるまで、私はアメリカの荒野はすべて西にあると思っていた。東にも荒野はある。ゴーストにとって、広大な荒地はアリゾナではなく、東ペンシルベニア、メリーランド、バージニアの茂み、裏道、サスクィハナ、モノンガヘラ、ポトマック、モノカシーのような川の間を曲がりくねるコールタールの道がそうだった。
ハリスバーグでは駅のベンチで寝るしかなかった。次に乗せてもらったのは、断食している痩せこけた男だった。彼はペンシルベニア州周辺で水道配管の訪問販売をしていて、私をニューヨークまでつれていってくれた。
突然、我に返るとタイムズスクエアにいた。アメリカ大陸を8000マイルも旅して、タイムズスクエアに戻ってきたのだ。しかも、ちょうどラッシュアワーの真っただ中。純粋な旅人の目で見た。ニューヨークの狂気と何百万もの人々が互いに金を稼ぐために永遠に奔走する、あの素晴らしい喧騒を。狂った夢だ。ロングアイランドシティの向こうにある恐ろしい共同墓地に埋葬されるためだけの人々の夢。
地下鉄の入り口で長い吸い殻を拾おうとしたけど道行く人に踏みつぶされた。バスの金はない。家のあるパターソンはタイムズスクエアからけっこうな距離だ。リンカーン・トンネルを通って、あるいはワシントン橋を渡って、ニュージャージー州パターソンまで歩いていく自分を想像できるか?
ハッセルは刑務所にいた。ディーンはどこだ?みんなはどこだ?人生はどこだ?私には帰る家があった。バス代のために25セントを物乞いした。ようやくギリシャ人の牧師が、神経質そうに目をそらしながら25セントをくれた。すぐにバスに駆け込んだ。
家に帰ると、冷蔵庫の中のものを全部たいらげた。叔母が起きてきて、私を見ました。「かわいそうなサルヴァトーレ」とイタリア語で語りかけた。
ディーンはこの家に来て、幾晩か泊まって私を待っていたという。
私が到着する二日前に彼は出発し、サンフランシスコへ向かっていた。おそらくペンシルベニアかオハイオのどこかで私とすれ違っただろう。そこに彼の生活があった。
カミーユはアパートを借りた。ミルシティにいる間、彼女を訪ねようと思いもしなかった。今となってはもう遅すぎて、ディーンにももう会えなかった。
これは第1章の一番最後の章なんですよ。それまで散々色んな所へ行ってきて、最後、金もなくなってどうしようもなくなって、家に帰ろうと思って帰るチャプターなんですけれども、そこの文章の中から、地名の入っている文章と、この印象的なゴースト、幽霊って訳されてるんですけれども、この老人ですね、放浪者の老人のところだけを抜き出して短くしたのがこれです。だから、色んな地名がいっぱい出てきて、あっち行ってこっち行ってっていうのがすごく出てるかなとは思います。
地名って面白いんですよ。地名の出てくる詩が好きなんです。名詞が出てくるのも好きだし、地名が出てくるのが好き。
ではまた、Podcastの次回をお楽しみに!
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