なんのはなしですか。【長編小説】17
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「このフロアに放送局まで収まりきれるんですか?」宮下が訊く。
「いや、放送局や実験・研究室などは別館がある。ここは主にデスクワークが中心だ」榎本は歩きながら答えた。
榎本と宮下はNHKに来ていた。そこはミッケ本部より5つ上の階にある榎本達があまり足を踏み入れることのない領域だった。
「へ〜、なるほど」宮下は物珍しそうに辺りを見回した。
No.874を誤報として終息させたのも報道の力が大きい。特にこのNHKはどの家庭のテレビでも視聴できる局番だ。なにより老若男女問わず様々な人に向けた番組を放送している。そのため、この街での影響力はトップクラスと言っても過言ではない。
榎本が窓口で身分証を出すと、窓口の担当者は「ご記入を」と静かに紙とペンを差し出した。どうやら用件と取次相手を書く紙のようだ。
榎本は迷うことなく『製作案件、ワクワクさん』と書いて窓口へ出した。
「え、ワクワクさんって、あの『つくってあそぼ』の人ですか?」宮下はやや驚きながらも小声で訊く。
「あぁ、それ以外に誰がいるんだ」
「スキャナーで遊んじゃったらマズイんじゃないですか?」宮下は何やら焦った様子で榎本を見た。
「大丈夫だ、問題ない」榎本が平然と答える。
宮下は、それを略したら『大問題』だ。と思ったが口には出さず、目を閉じたまま少し上を見上げた。
それから少しして、二人のもとに一人の男がやってきた。赤い帽子に黒縁丸メガネ。ワクワクさんだ。
「榎本さんお久しぶりです。そちらの方は…」
「どうも、久々ですね。こっちは私の後輩で宮下といいます」
「宮下です。はじめまして」
「はじめまして、ワクワクと申します。さっそくですが製作案件について詳しくお伺いしてもよろしいですか」
榎本達は空き部屋へ移動し、これまでの経緯とスキャナーの作成依頼の内容を伝えた。話している間、ワクワクさんの顔は徐々にそのワクワクさを増していった。
「なるほど、大変そうなので時間はかかると思いますが、なかなか面白そうですね」
その笑顔は、まるで困難を楽しむような変態のそれと何も変わらない。宮下はその表情に恐怖さえ覚えた。
「それでは、お願いしてもよろしいですか」榎本は少しも動じていないようだった。
「はい、善処致します。つきましては、追ってご報告させていただきます」
「よろしくお願いします」
榎本と宮下は立ち上がり深々と頭を下げてワクワクさんを見送った。
どこまでも追求し没頭する姿勢。やはり変態、いや天才の域は理解に苦しむ。宮下はワクワクさんとは住む世界が違うと感じた。
「ワクワクさん、さすがですね。よっぽど作るのが好きなんでしょうね」
「だから、ワクワクさんにお願いしたんだ。彼はそういう奴だ」
「榎本さん、ワクワクさんと知り合いだったんですね」
「あぁ、ちょっとした腐れ縁だ」
榎本のやや投げやりな言葉に宮下はそれ以上掘り下げないことにした。
「スキャナーが完成するまではどうするつもりですか」宮下が訊く。
「そうだな。とりあえず脚で稼ぐしかないだろうな」
「やっぱり、そうですよね」宮下はやや肩を落として顔に手をやった。
次へ続く
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