なんのはなしですか。【長編小説】13

「No.874。これについて何か情報があれば教えていただきたいのですが」
 情報管理棟最上階、宮下は情総部へ来ていた。いつものように窓口へ伝える。
「しばらく、お待ちください」

 宮下がソファーに腰掛けていると男性職員が声をかけてきた。
「No.874について、ですよね」
「はい、そうです」
 男性職員の脇には分厚いファイルが抱えられている。宮下はそれを見て少し身構えた。想像以上に大きな手がかりかもしれない。男性職員は宮下を空き部屋へと案内した。他へ聞かれてはマズいことなのだろうか。

「No.874についての資料はこれが全てです」そういうと職員は宮下へファイルを差し出した。
 どうやら持ち出し禁止のようだ。そうとう重要な機密情報なのだろう。宮下が資料に目を通す。
 そこに書かれていたのは、宮下の知らないnoteの街の過去だった。この街ができてまだまもない頃の話か。

「この情報は世に出回っていないと言うことでしょうか」宮下が訊く。
「はい、No.874。街中では噂程度で真相を知る者は数少ないでしょう」

 noteの街を襲った猛威。ウイルスNo.874。エイト・セブンティフォー。…ハ、ナシ?やはりあのタグと何か関係が…宮下は黙考した。

 このウイルスは感染すると様々な妄想を繰り返すようになり、さらにそれを不特定多数の住人へ吹聴して回るという恐ろしいものだった。当時はパンデミックを引き起こしたが、その後ウイルスは終息し、現在はnote運営事務局の手により、その事実すらもなかったことにされているようだ。

「だから噂程度になっているわけですね」
 宮下の問いに男性職員は静かに頷いた。

 ファイルの書類を読み進める。そこには感染者の妄想の記録やウイルスの検査方法、その解決策などが書かれていた。
 No.874、まさかそのウイルスがまた発生したのか。もしそうであれば、終息させた方法が今回の事件でも何か役に立つかもしれない。

「必要な情報をメモしてもよろしいですか」
「はい、構いません。ただ、不要になった後はシュレッダーにて削除をお願いします。それと、くれぐれも外部へ情報漏洩のないよう気をつけてください」
「分かりました。しかし、なぜこんなにも厳重に情報を隠す必要が…」
「恐れていたようです。妄想話ばかりが広がりをみせ、外部の人間にここはそういう街だと思われることを」
「なるほど…ご協力ありがとうございました」

 宮下は本部へ向かった。まさかnoteの街にこんな秘密があったとは。自分が知らないだけで、何か大きな陰謀や湾曲された事実が世の中には他にも溢れている。そんな気がしてならなかった。



 今頃、No.874の件については宮下が何か情報を探ってくれているだろう。榎本は昼間行った路地裏へもう一度向かった。いつもそこでゆらゆらと彷徨っている女性に接触するためだ。

 普段は探さなくても見つけられるに、探したい時ほど見当たらなかったりする。これは何かの真理なのかもしれない。そんなことを考えていると、何やら遠くの方から異様な音が聞こえてきた。
 それは動物の鳴き声や機械音とも思えない独特の音。その肉声音を表現できる文字はこの世に存在しない。強いて書くならこうだ。「ヴェイ゙エ゙〜イ゙エ゙ヴェ〜エ゙エ゙イ゙エ゙〜」これが永遠と繰り返されているような感じに近い。

 いったいこの路地裏で何が起きているのか。榎本は声のする方へ向かった。




次へ続く




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