なんのはなしですか。【長編小説】6
その夜も榎本と宮下は路地裏の酒場へと繰り出した。路地裏を歩きながら宮下が辺りを見渡す。
「さすがに昨日の今日なので蒔倉は見当たりませんね」宮下が呟いた。
蒔倉が酒場に来るのは週に1〜2回程度、頻度としてはそう多いわけではない。しかし、ここで無駄足を踏むわけにもいかない。
「まぁ、仕方ない。今回もまた手分けして怪しい奴を当たるしかないな」
「そうですね、じゃあ僕はまたあの酒場の中へ行ってみます」
「そうか、任せた。俺は路地裏の通りを探ってみる」
「分かりました。では、後ほど」
宮下は昨日訪れた店へと向かった。一日も早く中毒者の蔓延を食い止めなくては。その気持ちから足が早まる。
酒場『魑魅魍魎』ここに蒔倉が来ていないとなれば、他にどんな奴に話しかけるべきか。他の奴らはいったいどんな話をしてくるのか。宮下は全く検討がつかないでいた。
*
「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
「あ、一人で」宮下はそう返すと、目についた空いているカウンター席へと座った。
店内を一瞥するが蒔倉らしき人影は感じられない。火曜日の酒場は、まばらではあったが20時ともなれば客もそれなり入っている。とりあえず、ビールを片手に近場の席に座っている男二人の会話に聞き耳を立てた。
「最近どうなんだ。調子悪いみたいだが」片方の男が神妙そうに訊く。
「ほんとに困ったもんだよ。金ばっかり溶けていく」
「まぁ、そういうもんだよな」
男達の話に、ジョッキを握る宮下の手にも思わず力が入る。
「ギャンブルなんて当たんのは一握りって分かってても、つい気になっちまって」
「あー、分かる分かる」男達はケラケラと笑っている。
宮下は背中で話を聞きつつ、溜め息を吐いた。気の張りすぎか。途中まで聞いている限りだと、いったい何の話なんだと気になり、例のタグ関連なのではと疑ってしまう。最後まで聞けば、何の変哲もない世間話だ。そんな事を思いながら、口にしたビールのぬるさに思わず顔を顰める。宮下はそれを一気に飲み干すと店員を呼んだ。
「すみません、ビールください。あとモモと砂肝いいですか」焼き鳥の匂いに釣られて思わず一緒に注文する。
宮下が店員と話していると、隣の席に一人の女性が座った。女性は宮下が注文を終えると店員へ声をかけ、塩ダレキャベツと串をいくつか注文した。
カウンターに座るということは一人で飲みに来ているのか。宮下は女性の方へ意識を向けることにした。
次へ続く
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