【ステイホーム】#8 姉、突然帰省する
令和2年(2020年)秋になった。私の誕生日と、大阪の長女の誕生日がある月だ。突然に妻のLINEに帰省するという知らせが入ったらしい。長女のLINEはいつも淡白で、要件だけしか書いてないので帰ってくる理由などはよくわからない。夏休みに大学が忙しくて家族旅行に参加できなかったから、寂しかったのかもしれない。今まで生まれてからずっと毎年、誕生日は家族でお祝いをしてきた。ささやかなご馳走とロウソクを立てたケーキを食べるのが恒例行事だった。遠い土地でひとり暮らしを始めて半年、そのためには新幹線乗ってでも帰ってきたかったのかもしれない。そう思えるのは今のこと。当時は「新幹線代もったいない」としか思わなかった。切符は私のクレジットカード(の家族カード)を使って買っていたから。
「21:30に(最寄駅に)着く」と妻にだけメッセージが来た。「荷物が大きいから、車で駅まで迎えにきて欲しい」と言う意味が込められているのはわかる。しかしそう言う甘えた態度が、次女には腹が立つようだった。朝から機嫌がとても悪い。私自身も誕生日が理由の帰省に対して快く思ってなかったので、妻から迎えに行ってあげてよと言われたものの「俺には連絡来てないから、君が行けばいいんじゃない。俺は行かないよ」と断った。
すると、驚いたことに、にわかに次女の機嫌が良くなったのだ。
そして初めて気がついたのだが、次女は姉に対して、対抗心というか羨望のようなものを抱いているのだと気がついた。そうだったのか!
決して、喧嘩をしただとか、姉にいじめられただとか、そんな仲ではない。むしろずっと仲の良い姉妹だと信じていた。意識して平等に愛情を注いできた。自分も3人兄弟の末っ子だったから、わかる。子供の頃、上の兄弟の「おさがり」や、自分が主役のはずの家族イベントでのおざなりな子育てには嫌な思いをしてきた。だから自分の次女には服でもおもちゃでも、必ず新品を買ってあげた。やりたいと言うことは(たとえ大人には無駄に思えても)お金を理由に渋ることはせず、できるだけなんでもさせてあげてきた。だから妹が不平等に思うことはないと思っていた。
しかし、歳の差が5つある以上、同じことをさせてもなんでも姉の方が上手い。おそらく劣等感を意識してしまうのだろう。姉は県内でも有名な進学校に受かり、現役で志望した大学生となり、今はひとり暮らしで青春を満喫している。一方自分は中学で引きこもりとなり、このままでは高校進学もできず、当然大学にもいけないだろう。将来のことなど考えてもわからない。親に迷惑ばかりかけている。半年ぶりに優秀な姉が帰ってきたら、この家の中でさえ、自分の存在場所がなくなってしまう……そう言う思考だと思う。妻は第一子なのでこの気持ちはわからない。もっと早く私が気付いてあげなくてはいけなかったのだ。
今までは「学校に行かなくてもいいよ」とただ腫れ物に触るように放っておいたが、これからどういう人生を選べばいいのか、彼女自身が選べるような情報を積極的に提供しないといけない。そこで『13歳のハローワーク』と『13歳の進路』と言う本を買ってあげることにした。就きたい職業や、興味があって学びたい分野があれば、その道を導いて応援しようと思ったからだ。
(続く)
