読書感想 『ケアへのまなざし』 「存在そのもので支えるセラピスト」
神谷美恵子、という名前は知っては、いた。
なんとなく、読まなくてはいけない人、として覚えていたのだけど、自分にとっては、重すぎるのではないか、というようなことを思っていたのは、読むと、自分を振り返り、反省することがたくさん出てきそうな予感があったからだ。
今の自分は経済的に、図書館で読むことが主流になっているので、著者名で検索して、予約数が少なくて、すぐ読める本にした。改めて書くと、こうした過程自体が、微妙に後ろめたさを感じるのだけど、とにかく予約をして、そして、いつもじゃなくなっていた薄暗い図書館で、借りてきて、読むことができた。
ハンセン病。この本の中では、昔からの呼称である「らい」が使われているが、その本当の大変さや辛さは、想像もできないようなことだと思う。しかも、棄民としか言えないような政策によって、隔離され、伝染性の病気とはいえないと分かったあとも、島の療養所で暮らさざるを得ない人たちがいる、という病気だと改めて知った。無知であることは、やっぱり後ろめたい思いになることがある。
大きく括るのも失礼かもしれないが、セラピストといわれる人たちの中で、技法や知識や経験だけでなく、その人の存在そのものが、患者やクライエントを、本質的に支えていく人たちが一定数いる、と個人的には感じている。この本を読んで、この神谷美恵子も、その一人ではないか、という印象が残った。そうした人たちは、本人が意識しなくても、どこか畏怖を感じさせる。それは、たとえば、同じような仕事をしているとすれば、思わず、自らを反省せざるを得ない、という人たちだから、だとも思う。
たとえば、こんな部分である。
経済的・身体的自立のみが人間の存在意義のすべてなのかどうか、これは、なるべく視野を広くして、よく考えてみなくてはならない重大問題である。右記のような患者の悩みをともにし、ともに考えうるためには、医療者側に、単なる医療技術以上の、人間としての修練と思索とが、たえず要請されているのではなかろうか。
こうした言葉も、ある。
弱者に対する強者の優越感というものは医療の場では極めて起こりやすいことで、しかも強者自身は案外気づいていないことが多いのではなかろうか。(中略)だから唯一の可能な道は「自分もまた病みうる者だ」「自分もまた死にうる者だ」ということを、絶えず念頭においておくことだろう。
ただ、それでも、それを才能、と言ってしまうことに、微妙な抵抗感があるのは、ずっと患者のことを、考え続け、悩み続け、理解しようとし続ける。という、誰もができるわけではない作業を、ずっと継続して、しかも、いつも生と死から目を逸さなかった重みみたいなものが、この本の言葉からも、伝わってくるような気がするからだろう。(ただ1冊を読んだだけで、こうしたことをいう恥ずかしさは感じるが、それでも、そう言いたくなる気持ちには、なる)。
たとえば、こんな部分である。
自殺をただいけないこととして、簡単に片づけることはできない。むしろ、生きている以上は、人間らしく生きたい、つまり人間としての自分の生活になにかの意味や内容を感じて生きたい、という生への積極的意欲と願望のうらがえされたものとして、自殺というものを見るべきなのではないか、と考えられてくる。したがって臨床の場にある者は、ただ患者の病気だけに目を奪われず、こういう人間性の根本的事実をつねに念頭において、患者という人間存在に接しなければならない。
こうした言葉もある。
死に近づきつつある人はみな孤独の中で死を思うらしいが、それを口にするとまわりの者にはぐらかされたり、安易に慰められたりしてしまう。死の話の相手をすることは容易ではないが、逃げ出さずに話をうけとめるのが死に行く人のそばにある者の役割かと思った。
外口玉子氏という看護師が、対談もして、そして、神谷のあとをつぐ、といった部分があるからこそ、あとがきとして「神谷さんのまなざし」という文章を寄せている。
その中に、神谷のことを、こんな風に表現する部分があって、この本を読んだだけで語るのは、やはり恥ずかしいのだが、どこか納得する気持ちになる。
病む人自身がその人らしさを発揮できる場を持てるようにするために、結果的に周りから批判されようと病院の取りきめやルールをはみださざるを得ない、内なる何かに突き動かされてきた。病む人一人ひとりが主体的に生きてゆける拠り所を、日常的なところにつくりだしてゆくことを、最も大事にしてきた。
そして、こんな記述もある。
神谷さんがらい療養所での経験をもとに『生きがいについて』をはじめとする本を書かれたのは、らいの人びとから受け取ったもの、与えられたものを普遍化したいという思いと覚悟があったからではないだろうか。
これを読んで、先行する本、特に「生きがいについて」を読まないと、やっぱり、いけないのではないか、と思った。
この本を読んだら、また感想を書きます。
(データ)
「ケアへのまなざし」 神谷美恵子 みすず書房
2013年8月23日初版第1刷発行 2019年7月9日 新装版第1刷発行
(2020年3月大田区内図書館で予約して取り寄せてもらった)。
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