テレビについて㉝「K.カズミ」の終わらない謎……「水曜日のダウンタウン」
自分が全く知らない人間の名前を、他の人が自然にあげていて、それがフィクションではないテレビ番組だと、一瞬自分が「別の世界」に足を踏み入れたような気持ちになる。
メディアの階層
人間関係の分からなさと不思議さを映してくれた「おぼん・こぼん」企画の印象も強く、時々、驚くような場面を見せてくれる「水曜日のダウンタウン」が、ある人物を扱うというので、密かに楽しみにしていて、それが「K.カズミ」と知ったけれど、私は全く知らなかった。
それなのに、テレビ画面では、少なくない人が「ああ、あの」とよく知っているように語っている姿を見ていると、不思議な気持ちになったが、その説明から行ってくれたので少しずつ理解はできた。
この時の番組の狙いは、「インターネット上の噂の検討」であり、その謎の決着をつけたい、というのはわかった。
ただ、その企画のあり方自体に、製作者側にも、視聴者にも、今や偏見かもしれないけれど、無意識にでもメディアの階級のようなものがあるのにも気がついた。
たとえば、「K.カズミ」のことを、インターネット上で検証するのではなく、テレビというメディアで検証するから、その噂に決着がつくと思っている可能性はある。さらに仮定に過ぎないけれど、もし、この「K・カズミ」の噂を、新聞で検証した場合、どのメディアが一番、信じられるか、と考えてみる。
これは個人的な感覚なのかもしれないが、今でもそのメディアの信ぴょう性に関しては階層があるような気がする。新聞、テレビ、インターネット。私の中では、この順番で信ぴょう性が高いのだけど、それは、その情報が事実かどうかをチェックする人数の多さと、誤りを確認するシステムの完成度のようなものと、その歴史の長さを根拠として考えている。
一人、もしくは数人が製作して、そのまま広く発信する。
それについては独自性や、アーティスティックな部分で言えば、すごいものも少なくないし、もちろん、信ぴょう性が高い場合もある。ただ、多くの場合は、その情報を別の人間がチェックすることによって、より信頼性が高まると思っている。
おそらく、「水曜日のダウンタウン」の制作側にも、そうした意識があるから、インターネット上の噂の真偽を、テレビというメディアで決着がつけられると考えたのではないだろうか。
「K.カズミ」の噂
2メートル、200キロを超える女性がいて、とんでもない怪力でフライパンを曲げたり、信じられないくらいの大食いのエピソードを持っているが、どうやら「Yahoo!知恵袋」だけに出没する。
それが「K.カズミ」という人物で、その存在の真偽を検証する、というのが2022年6月1日放送の「水曜日のダウンタウン」の狙いだった。半年以上の時間をかけたらしい。
それぞれのエピソードを検証していく中で、唯一の「オフィシャル」の情報が、サガミグループの外食チェーンで、食べ放題のそばを82段食べたという記録が残っている、という。
それに関しても、大食いファイターが、普通の人が、そんなに食べられるわけはない。自分達だって無理。と否定をしていたものの、その場面に立ち会ったサガミの従業員の人が証言をして、その後に、顔出しNGで「K・カズミ」さん本人が登場する。
そして、そばの記録以外は、全部ウソで誰かがなりすましをしている。それをやめてもらいたい。その目的のために、今回、初めてテレビ出演を承諾した、ということが語られて、番組は終わる。
根も葉もない噂を発信していたある人が、ある時、そばの大食いの記録を見つけ、その時から「K・カズミ」を名乗り始めたのではないか、という結論になっていた。
こういうテレビ番組を見られたことが、新鮮だった。
そば82段
この「K.カズミ」という存在が、完全にウソだと思われなかったのが、この「そば82段」の記録で、それは、大食いファイターも否定するような数でもあったのだけど、それだけが本当だった、ということが、意外だった。
もしかしたら、広く知られていないのだけど、いわゆる「素人」と言われるような人たちの中には、とんでもなくすごい人が、もっといるのかもしれない。
視聴者としては、そんな気持ちになって、この思いは、もしかしたら、次の「K.カズミ」のような架空の存在を生み出しやすい「新たなきっかけ」を作ってしまうことにもなりそうで、それも含めて面白いと思った。
終わらない噂
これで、いったんは噂は収束するのかと思ったのだけど、当たり前かもしれないけれど、そうはならなかった。
放送後、「K.カズミ 水曜日のダウンタウン」で検索をすると、さらに新しい謎や疑念が、すでに書かれていた。この番組については、他のメディアでも記事になっていた。
再びK.カズミの謎が深まっている。例えば、こんな声が上がっているのだ。
《蕎麦を実際に食べた証拠は少なくとも番組内ではサガミ従業員の証言のみだったように感じます 証言以外の証拠は例えば何がありましたか?》
《番組内でまだ1つ解けていない謎があって、サガミの向こう側にしか存在しないのがどうしても》
《K.カズミの話はなんだかもやもやしています。少し経ってから別の展開があったりして、とまだ思っています》
大食いプリンスのフードファイター・小林尊も、ツイッターで記録に疑問を投げかけている。
「大食いファイターたちが完全否定するぐらい、ざるそば82段、合計13キロというのはありえない記録ということでしょう。なぜこんな記録が生まれたのか、小林は、制限時間なしでトイレ休憩ありだったのではないかと予想しています。つまりフードファイターと比較するのは意味がないということですね」(前出・テレビ誌記者)
小林はツイッターで「K.カズミと対決してみたい」ともコメントしている。それを待っているのは視聴者だけではない。名だたるフードファイターたちも望んでいることだろう。
「10年以上前にアカウントを開設して、ネット上に投稿を続けてきたK.カズミという人物は偽者だということが明らかになりましたが、その人物は『サガミ』のレシートをアップしていたのです。そのレシートには『追加そば80個』と記載されていました。『水ダウ』放送後、SNSにはこのレシート画像が拡散され、《なんで偽者がレシート持ってたの?怖すぎる》《このレシートも偽物だったのか》《レシート入手できるってことは関係者が騙ってたってこと?》などと疑問が噴出。レシートの疑惑を追及する動きも見られました」(ネットライター)
K.カズミはいるのか、いないのか。そんな論争に終止符を打つと掲げたVTRがたどり着いた結論は、「K.カズミはいるけど、K.カズミはいない」といったところだろうか。そばを82段食べたK.カズミは実社会にいるけれど、ネットで偽情報を発信しているK.カズミはいない。ひとつの“事実”を核として、さまざまな関連情報が寄せ集められる。そうやって”事実”からかけ離れた“真実”らしきものが生まれてしまう。その真偽を問う論争が、”真実”を既成事実化していく。そんなネット上の情報の転がり方を浮き彫りにしているようだった。
ネッシーの噂と、「K.カズミ」の謎
ネス湖にネッシーという恐竜の生き残りがいる。
そんな「噂」に信ぴょう性を持たせたのが一枚の写真というのは有名な話だった。
1934年4月に公開された「外科医の写真」が大きな話題を呼び、後に写真はジョークだったことが明かされてもなお、目撃証言やその存在を信じる人が数多くいます。
この「外科医の写真」は、ある年代以上の人だったら、一度は見たことがあると思う。湖から長い首を出している巨大な生物とも見える写真なのだけど、これは、この写真に関係した人が、かなり歳をとってから、あれは模型だったと告白している、という事実があるにもかかわらず、「ネッシーの存在を信じる」人たちには、その証言は無効だった。
人は信じたいことだけを信じる。
これは、人間の非合理性や、滑稽さや、同時に凄さも思わされるようなことでもあるのだけど、もしも、「ネス湖の水を全部ぬく」という企画があって、その時に、ネッシーはいないことが証明されても、おそらくは、その企画への疑念が出されそうだ。もしくは、水を抜かれる前にネッシーはどこかへ逃げたはず、といった新しい説が流れ、おそらくは、ネッシーの噂はずっと終わらないのだと思う。
同様に「K.カズミ」の謎を終わらせるには、確かにフードファイターとの対決は効果的にも思えるけれど、まず本人が受けてくれるはずもないし、この対決が成立したとしても、その結果がどうあれ、そこからまた「新しい謎」が生まれ、おそらくは終止符は打てない気がする。
本物の「K.カズミ」さん本人にとっては、とても迷惑な話であるのだけど、もし、この謎や噂を完全に終息させることができたら、その過程や方法自体が、とても画期的な研究や調査に値する「新たな知」になるのは間違いなほど、噂を終わらせるのは困難なのも、事実だと思う。
(今回の話は、こうした理論↓の更新のために必要な情報のようにも思います)。
(他にも、いろいろなことを書いています↓。よろしかったら、読んでもらえたら、うれしいです)。
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