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読書感想 『漫才過剰考察』 令和ロマン 髙比良くるま 「異常な俯瞰力」

 おそらく大勢の人が知っているイベントになった。

 近年になるほど、注目度が増してきた印象のある、漫才の頂点を決めるという謳い文句で開催されている「M-1」。古い言葉だけど、新しく、年末の風物詩になってきたような気がする。


令和ロマン 「M-1」 2連覇

 そこで優勝すれば、その前の日まで世間的にはほとんど無名であっても、大げさではなく圧倒的な知名度が与えられ、人生がかわる、というような現象も視聴者として見てきた。

  その「M-1」に20代で優勝したのが令和ロマンの髙比良くるまで、これまではチャンピオンになったら、そこまでの過程の大変さもあるし、次は「M-1」には出ない、というのが通常ルートだったのに、最初の優勝の場面で、来年も出ます、と宣言し、そしてその言葉通り、翌年も決勝まで進んで優勝した。

 M-1初の2連覇。

 その後、高比良くるまは、オンラインカジノによって自粛期間に入るという、急激なアップダウンも経験したのだけど、この高比良の分析力というものは、M-1に初優勝した後のバラエティに出てきて、さまざまなものを観察し、考えている力が優れているのがわかった。

 ただ、それで自分の有能さを誇りたいというよりは、何かを観察し、分析することに取りつかれているようにも思えた。

 この著書は、2024年の11月。令和ロマンが「M-1」2連覇をする前に書かれている。だから、2024年の年末のM-1に関しての予想でもあるのだけど、この本の「過剰考察」というタイトルが、これだけ適切なものになっているのは珍しいことだと思った。

 図書館で予約して、3ヶ月経ってから、読むことができた。もちろん、次の予約も入っていた。

(※ここから先は、内容についても触れています。未読の方で、情報に触れたくない方はご注意ください)。





『漫才過剰考察』 令和ロマン 髙比良くるま

 最初に、自己評価の低さのようなものがあらわになっている言葉から始まる。

「自分は報われていいような人間ではない」

 冒頭の章のタイトルがこれで、それも、最初にチャンピオンになった後の言葉で、単純に考えれば、自己卑下、というポーズではないかとも思うのだけど、だけど、読みすすめていると、本気で、こんなふうに考えているのではないか、とも感じてくる。

 だから、過剰に自分を過小評価しているとも言えるのだけど、だけど、ここで生じている自分の存在そのものへの不安のようなものが強くて、それを忘れるために、自分の内側に向き合うのは辛いから、自分の外側にある(と感じている)漫才への考察が止まらないのではないか。

 ただの読者で、それも熱心な令和ロマンのファンでもなく、チャンピオンになってから初めて存在を知った人間だから、こういうことを語る資格も能力も足りないのも自覚しているが、これだけ俯瞰の視点が徹底している凄みには、なかなか出会えないとも思う。

 僕は常々2018の和牛さんの2本目、「オレオレ詐欺」のネタはM-1漫才の最高到達点だと語っていて、それは未だに破られていない。 

(『漫才過剰考察』より)

 例えば、この視点や、語り方は、ファンのものだと思う。

 こうした文章は、漫才好きと言われる人たちのもののはずなのだけど、この時期の令和ロマンは、まだ若手とはいえ、すでに舞台に立っている頃だから、漫才師のはずだ。だけど、大げさかもしれないが、この和牛の漫才の語り方は、もしかしたら、ファンよりも漫才そのものを真っ直ぐ見ている気配があって、それはすごいことだけど、どこか過剰という異常さはあるのかもしれない。

寄席という場所で重要なこと

 寄席という場所には行ったことがない。

 おそらく、そういう空気に最も近いのは、近くの町会会館に地元出身ということもあって、一時期は1年に1度のペースで立川談志が来てくれて、だから、座布団を持って落語を聴きに行ったことがあり、当時は当たり前の行事のような感覚だったけれど、今から振り返ればかなりぜいたくな場所と時間だった。

 その後、芸人のライブを見に、小さな劇場のようなところへ行ったことはあったけれど、寄席という存在は自分にとっては遠かった。だけど、今回、この本で、演じる側から寄席のことについて触れている箇所もあり、それによって、寄席という場所が、行っていないのに、そういうところなのか、とわかったような気にさせてもらった。

 寄席で重要なのは「ネタのクオリティ」より「お客さんとのマッチ度」だということ。

(『漫才過剰考察』より)

 もしかしたら、これまでの芸人で、こうしたことを語る人たちもいて、例えば地域によっての違いのようなことは聞いた記憶もあるけれど、ここまで明確に断言した人は、ほとんど記憶になかった。

 だから、誰が、どんな層が観に来ているのかが重要で、ということにつながるのだけど、そうしたことは、なんとなく感じていていても、ここまで正確にわかるものだろうか。というより、芸歴10年足らずで、(例えば会社員で、そのキャリアで想像すると)見えるものだろうか、と思うが、そうした著者の能力への驚きよりも、そこで提示されている事実の方に強く興味をひかれてしまう。

 もちろん、ネタをわかってもらうという「理解」が必要なのは、そして、そのためにネタの選択も大事であろうことは、寄席にも行ったことがない、どちらかといえば、テレビ視聴者でしかない自分にもなんとなく理解できる。

 だけど、「発声」の大事さは、いろいろなイベントやライブなどには行ったことがあったけれど、気がついていなくて、でも、現役の芸人である高比良くるまに指摘されると、すごく納得できた。

 面白くて笑おうとしても、最初は、自分が声を出すことに抵抗がある。それは、周囲に自分以外の観客もいるせいだ。だから、まずは声を出しやすくしてもらうことが大事。そのために、どうやら客いじりなどもあるようだが、その際の注意事項も笑いを含めて伝えている。。

 ただ一度火をつけてしまうと「覚醒」して喋り続けてしまう先輩方もいるので、要注意。

(『漫才過剰考察』より)

 その上で、断言する。

 とにかく「理解」・「発声」が揃ったお客さんが初めて笑ってくれるということ。

(『漫才過剰考察』より)

 どうして、ここまでわかっているのだろう。その上で、どうすれば、こうして短い言葉で明確に指摘できるのだろう。さらには、なぜ、惜しみなく伝えてくれるのだろう。とは思った。

高比良くるまと、似ている芸術家

 とにかく漫才のネタなど、具体的なことに関して、細かすぎるような、もしかしたら、その漫才師本人も意識していないのではないか、と思えるような観察、分析、考察が続いていくが、それは、コロナ禍というパンデミックが引き起こした状況にも、「思考の運動」は止まらない。

 コロナ禍で、外出を控えざるを得なくなり、そのため室内で、世界中の人々が映像のコンテンツに大量に触れるようになった。そのため、字幕に抵抗がなくなった。だから、日本のアニメ、映画が世界中で見られるようになった。そうした流れの中で、漫才も理解されるのではないか。

 高比良くるまは、そんなふうに分析しているが、似たようなことを話していたのが現代美術家の村上隆だった。

 漫画でもアニメでもゲームでも、きちんと批評的に語ることができればそれは最先端の芸術になるといった話を村上隆がしているが、高比良くるまもこんな指摘をしている。

漫才もまず、ルールを説明することが大事なんじゃないか?

(『漫才過剰考察』より)

 そのことで、本当の意味で世界に認められるのかもしれない、と高比良は語っているので、村上隆と対談をしてほしいとも思えた。

テレビの現在

 この本の巻末には、霜降り明星・粗品との対談が載っている。

 基本的には、二人ともテレビの作り手について、あまり信用していないような発言が多いように思えるが、確かに、この二人は笑いのプロであり、何が面白いのか?どうすればよりおもしろくなるのか?について、本当に考え抜いているであろうことは、ここの対談でも、垣間見えるから、それも仕方がないのかもしれない。

 この二人に匹敵するほどのプロが、例えばテレビ局の会社員や、制作会社にいるのか?と考えると、高比良くるま粗品の不信感のようなものに納得するような思いにもなる。

 だから、M-1の王者になり、R-1までも優勝した粗品が、それからテレビ出演がすごく増えたのか、というとそんな印象はなく、さらには、令和ロマンが、それほど多くのテレビ番組に出ていないようなことにも、改めて気がつく。

 個人的には、今も毎日テレビを見ている人間だけど、それで楽しんでいるけれど、これがいつまで続くのか、といった気持ちにもなる。


 どんな現場にいるとしても、仕事として取り組む時には、そこを俯瞰する能力が必要になる。令和ロマン・高比良くるまには、過剰なほどの俯瞰力があることが書籍を読むと伝わってくるので、漫才に関心がない場合には、読むには、やや厳しいかもしれないけれど、それでもプロというものを考えたい人には、おすすめできると思います。



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