【エッセイ】遅蜂が飛んだクリスマス
年末になると思い出す。
淡く、切なく、苦い、そんな思い出。
食材を名乗ってnoteを始めるより、ずっと前の話。
*
ピザは保育園の年長から少しの間、ピアノを習っていた。
「ピアノやりたい」と言って習わせてもらったくせに、全く練習をしなかった。
そこには真っ当な理由があった。
『思ってたより、ムズかった』
忠実に言語化すると、これである。
毎年、年末になるとピアノ教室ではクリスマスの発表会があった。
ピアノを習い始めた初年度。
発表会の課題曲は『ぶんぶんぶん』。
蜂が飛ぶことでお馴染みの曲。
しかし、曲が決まっても全く練習しなかった。
そして、そのまま発表会を『ピアノ初見状態』で迎えた。
当日になって……、
めっちゃ焦った……。
しかも発表は年齢順。
最年少だったのでトップバッター。
散歩を嫌がる犬のような足取りで舞台へ上がる。
客席から大きな拍手を浴びた。
拍手くれた皆様ごめんなさい。ピアノ弾けません。アーメン。
心の中で、思いつく限りの神に謝罪を済ませた。
ついでに、ピアノが上手そうに見える上品な服を着せてきた母親を睨んだ。
その後、ピアノ専用のやけに高い椅子に座り、姿勢を正した。
拍手が鳴り止み無音の時間。
色々な思考が一周して、
なんか逆に弾けるんじゃないかと思い始めた。
ゆっくり弾けば大丈夫。
丁寧に弾けば大丈夫。
出てこい蜂。勝負だ蜂。
覚悟を決めてピアノに触る。
ぶーーーーーん…………♪
ぶーーーーーん…………♪
ぶーーーーーん…………♪
静かな会場を低速の蜂が飛んだ。
新種の蜂。
遅蜂。
昆虫博士もびっくり。
「なんか遅いの見つけました」
もし『めざましテレビ』に取材でもされれば、照れながらインタビューに答えていたかもしれない。
「僕はチョキを出しました」
ついでにノリノリで『めざましジャンケン』もやっていたかもしれない。
アドレナリン全開で演奏を続けた。
多分出てこないはずの黒鍵に何度か触りながら、完奏した。
ぶんぶんぶん(ジャズアレンジ・バラードver)
※個人の感想です。
高い椅子から降りると、顔と体が赤く熱くなった。
後にこの感覚を『羞恥心』と呼ぶことを知った。
僕はお辞儀を雑に済ませ、
ブンブンブンッ
と高速で立ち去った。
(888文字)
……文字数のとこ、やかましかったですか。すみません。おっしゃる通りです。
というわけで、この記事は12月14日(日)に行われた「紅白記事合戦」の参考エッセイです。
皆様ご参加いただきありがとうございました。
