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ピンク街の喫茶店でモーニングカレー

僕はその懐かしい街の、初めましての喫茶店で朝からカレーを頼んだ。
この時間おそらく99%の客はモーニングを頼むだろう。
変わった客だと思われたに違いない。

僕は喫茶店のカレーにはちょっとした思い出がある。
しかもこの街に来たのだ、カレーを頼まずにいられない。

朝から風俗街をプラつく理由とは

先日、その街で打ち合わせがあった。
とはいえ、午前中から風俗街をぷらついている姿を部下に見られるわけにはいかない。
商談のだいぶ前に現地入りして、まだ人が少ない静かな時間にそっと散策を始めた。

そこは、かつて僕のおかんが喫茶店を営んでいた街。
神戸の歓楽街、福原だ。

いまは実家兼店舗で弁当屋を営むおかんになっているけれど、あの頃はこの街で喫茶店を切り盛りしていた。
ちなみに店の名前は「バナナカフェ」だった。風俗街でバナナカフェというおかんのセンスは尊敬している。

小学生だった頃は、土曜の給食がない日に母の店でよくお昼を食べていた。
飴色のテーブルと油の匂い、おかんが出してくれた冷たい水のグラスの感触を、今でもなんとなく覚えている。

バナナカフェの常連紹介

おかんの店の常連は何人か覚えているので、紹介しよう。

まず、喫茶店のお隣さん不用品処分のおじさん。
人間でも頼めば処分してくれそうな雰囲気があった。

次に、街金の社長。
喫茶店の2階に事務所を構えていた。

ちなみに中学生になって好きな子ができて、彼女の家に遊びに行ったとき社長とは再会することになる。
……それはまた別の話。

そして、すっぴんのお姉さんたち。
聞けば、日の出から働いてランチを食べて帰るという。
当時の僕は、「この人たちは新聞でも配ってるのかな」と思っていた。

最後に、祖母。
客兼スタッフという役割を軽やかにこなす、マルチおばあちゃんだった。

看板メニュー手作りカレー

おかんの店の看板メニューは手作りカレーだった。
玉ねぎを念入りに炒め、じゃがいもとニンジンを入れて、じっくり煮込む。
常連たちにも人気で、毎日のように頼むおじさんもいた。

そんなある土曜日、母が風邪を引いた。
商売人魂で休まず店を開けたが、重労働のカレーの仕込みだけは間に合わなかった。

仕方なく、保険で用意していた業務用のハインツのビーフカレー缶を温めて出すことにした。

Amazonで調べたら売っていた
買おうかな

母は心の中で「みんなごめん」と何度も謝りながらカレーを提供したに違いない。

ところが。

「ママ!今日のカレー、めっちゃ美味しいな!」

常連が口々にそう言った。
街金の社長はおかわりまでした。

僕もその日、ハインツのカレーを食べた。
嫌いなニンジンが入っていなかったので、正直、僕もそっちの方が好きだった。

母は、業務用カレーに敗北してしまった。
風邪のせいか、悔しさからか、やけに青白い顔をしていた。

その日を境に、カレーは名物ではなくなった。
手作りでもなくなった。
それでも、変わらず人気メニューだった。

今、僕はその街の別の喫茶店で、朝からカレーを食べている。

昭和の匂いがまだわずかに残っている歓楽街で、
カレースプーンに映った滑稽な自分の顔とにらめっこしながら、母の青白い顔とハインツの味を思い出していた

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