銀河フェニックス物語<出会い編> 第二十八話(1) 放蕩息子と孝行息子
会社帰りにチャムールに会った。
「ティリー、一緒に帰ろうよ」

普段ならチャムールは、本社前のステーションから空港行きのライナーに乗るのだけれど、わたしと一緒に歩き出した。
どうやら、わたしに話があるようだ。
「どうしたの?」
「この間、アーサーのご自宅で、お父上の将軍にごあいさつをしたの」
「そうなんだ!」
驚きながらニュースでしか見たことのない将軍の顔を思い浮かべる。

チャムールがお付き合いしているアーサー・トライムスさんは将軍家の御曹司。
結婚前提のお付き合いなのだから、普通に考えれば驚くことでもないのだけれど。連邦軍を統率する将軍に御目通りするなんて、一般人には考えられない話だ。
「ベルの家で、アーサーとレイターが義理の兄弟、という話をしたでしょ」
同期の女子三人でピザパーティーをした。その時の話だ。
正直に言って驚いた。
レイターが愛してやまない『愛しの君』は、将軍家のアーサーさんの妹で婚約者だったと言うのだ。
「将軍は開口一番、なんておっしゃったと思う」
「さあ?」
「『うちには、手のかかるバカ息子と、手はかからないが無愛想な息子の二人がおりまして』ですって」
話の途中で、わたしは思わず吹いてしまった。

手のかかるバカ息子がレイターで、手のかからない不愛想な息子はアーサーさんだ。
「そしてね『手のかからない息子のこともずっと心配しておりました。どうぞ仲良くしてやってください』って」
いつも冷静なアーサーさんが、どんな顔をして聞いていたのか、想像がつかない。
「あそこのお宅はね、レイターが中心なのよ」
「レイターが?」
「お手伝いさんもやってきて、話に加わったんだけれど、バカ息子の世話がいかに大変だったか、って話ばかりなの。面白くて盛り上がったんだけれどね」
「どんな話?」
興味がある。
「ハイスクールを中退した、と思ったら暴走族になっていた、とか、将軍のコネで折角一流会社にいれたのに、処分を受けて一年で辞めて、家を飛び出したきり帰ってこない。あげくの果てに、将軍家に借金の肩代わりをさせているって」
「放蕩息子の極みね」
大体わたしの知っている話だった。
「馬鹿な子ほどかわいい、って言うけれど、実の息子であるアーサーの話はほとんど出ないのよ。面白い思い出話は無いんですって」
「何だかそれもかわいそう」
アーサーさんに少し同情する。
「本人は昔から慣れている、って言ってたわ」
優秀な兄と出来の悪い弟。ほかの家庭でも似たような話を聞いたことがある。何だか本当の家族みたいだ。
「ところでティリー、あなたの話も出たわよ」
「えっ? どうして?」

わたしはびっくりした。
「将軍が『レイターの恋愛はどうなっとるんだ?』ってアーサーに聞いてきたのよ。私たち、思わず目を見合わせてしまったわ」
嫌な予感がする。
「どうやら将軍は、レイターが『俺のティリーさん』って話しているのを聞きつけたらしいの」
レイターはわたしのことを「俺のティリーさん」と呼ぶ。
そのせいで、わたしたちがつきあっている、と誤って思い込んだ人は、これまでにもいた。
天下の将軍にまで勘違いされるとは。
こういうことになるから、やめて欲しいと言ってるのに。
「それで、何て答えたの? 将軍の誤解を解いてくれた?」
「アーサーが『事態が進展するには、まだ時間がかかるとみられます』って。あそこの親子の会話は、業務報告みたいなのよね」
事態の進展、ってどういう意味だろう。
わたしとレイターが付き合うということ? (2)へ続く
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」
レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」
ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」
レイター「なんか、すげぇな……」