銀河フェニックス物語<出会い編> 第九話(3) 風の設計士団って何者よ?
<第九話のあらすじ>
ティリーは同期の女性設計士チャムールに頼まれて二人でフェニックス号を訪れた。チャムールとレイターは宇宙船レースを観ながら技術的な話で盛り上がっていた。(1)(2)
レースが終わると
「五分待っててくれ」
と言ってレイターはキーボードに向かった。
真剣な表情。
猛スピードで文章を書いている。
普段レイターが文字を打っているところなんてみたことがなかったから少し驚いた。

「何書いてるの?」
画面をのぞき込む。
今終わったレースについてだった。
レイターの頭の中には今のレースすべてがインプットされているみたいだ。
第三コーナーでギーラル社がスピンした時の映像がもたついた、とか、終盤で一位と二位が逆転した際の解説者のコメントが的外れだった、とか。
よく読むとこれはレースではなく番組の考察。
しかもかなり細かい。
チャムールとあんなに難しい船の議論をしながらもよくまあ見ているものだ。感心する。
「これがモニターなわけ」
「ティリーさんも感想ある?」
「もう少しレーサーに焦点が当たってるとうれしいんだけど」
素直に感想を伝えた。
そもそもわたしがレースを好きになったのはかっこいいパイロット、すなわち『無敗の貴公子』エース・ギリアムに憧れたから。

わたしの様なミーハーなレースファンにとってこの番組はちょっと硬派すぎる感じがした。
レイターがわたしの意見を素早く書き足す。
「ふむふむ。ま、このぐらい書いときゃスチュワートも満足するだろう。今、送っとけば番組スタッフの反省会に間に合うしな」
確かに分量がある。でも、一言言いたくなる。
「五分で百万リルってわけね」
「ティリーさん。仕事の価値は時間じゃねぇ、要はスチュワートが百万リルの価値があると判断するかどうかさ」
そう言いながらレイターは書き上げた文章を送信した。
*
「お待たせして悪かったな。で、チャムールさんは俺に用があるんだって?」
チャムールが少し緊張したのがわかった。

「あのぉ、噂で聞いたんですけど、レイターさんは『風の設計士団』の一員で、『老師』の直弟子だっていうのは本当ですか?」
『風の設計士団』と言えば、超優秀な宇宙船の設計士集団として知られている。謎が多くてよくわからない集団だ。
メーカーに所属しない独立系で、突然設計図を売り込みに来ると聞いたことがある。
『老師』はその集団の開祖と言われる伝説の設計士なんだけど、実在の人物かどうかも怪しい。
「違うよ」
レイターの答えにチャムールが肩を落とした。
「そうですか」
「まず『風の設計士団』には、一級設計士の免許がないと入れねぇ。でも、俺は設計士の免許はもってねぇ。整備士と調理師は取ったけど」
「設計士の免許を持っていない? さっき、お話していて、てっきり一級免許を持っているとばかりと思っていたわ」
チャムールが驚いている。
「弟子の話は、老師が俺に『設計士になったら弟子を名乗ってもいい』と言ったのさ。けど、俺は設計士にならなかった。だから俺は老師の弟子じゃない」
「えっ?」
チャムールが珍しく大きな声を出した。
「それはあなたが老師に直接設計を教えてもらっていたということですか?」
「俺、ハイスクール中退した後、老師の食事係のバイトしてたんだ」
老師って伝説じゃなくて生きていたんだ。
「老師の連絡先をご存じですか?」
「生きてんのかね、あのじいさん。最後に会ったのはこの船をみてもらった時だから、結構前だし、連絡先は日によって変わるんだよ」
「この船、この船は一体どうなってるんですか?」
いつもは落ち着いているチャムールが興奮している。
「こうなってますとしか言いようがねぇけど」
*
ふたりの話題はフェニックス号にうつった。
話というより議論や検討という感じ。この船に伝説の老師が手を入れていたなんて初めて知った。
二人は妙に盛り上がっている。
ついには、床にタブレットペーパーを敷いて何やら図や数式を書き始めた。 (4)へ続く
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」
レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」
ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」
レイター「なんか、すげぇな……」