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銀河フェニックス物語<裏将軍編>第一話(4) 涙と風の交差点

銀河フェニックス物語 総目次
<ハイスクール編>「花は咲き、花は散る」(1) 
・<裏将軍編>第一話「涙と風の交差点」(1) (2) (3)

* *

 老師は、頑固でつきあいにくい偏屈なじいさんだった。

老師前目逆

 俺は学校をやめて、じいさんの組み立て小屋で住み込みのバイトを始めた。
 老師は用心深く、組立小屋の位置を年中変えていた。逃亡者のような生活だ。なんでこんな面倒なことしてるのか聞いても教えてくれなかった。

 じいさんの指示は大まかだ。そのくせ実に細かいところまで見てる。もっと丁寧に分解しろ、とか手際が悪い、とか文句を言ってはバイト代から差っ引いた。
 分解した部品は修理してピカピカに磨き上げ商品として売る。

 老師のもとにはパーツを求めて銀河中から人が集まってきた。
 ソラ系中心地に近いこのスクラップ場には小型船から大型船までありとあらゆる種類の船が捨てられていた。
 いろんな船に直接触る。図面だけじゃわからなかったことが見えてきた。

 夜も昼も構わず俺はひたすら宇宙船の分解に没頭した。時間が空くと組立小屋の小さなキッチンの床に寝袋を敷いて寝た。
 俺の仕事は老師の手伝いと飯を作ること。俺は調理師免許を持っている。老師は俺の作る料理が好きだった。

 ある日、食事中にじいさんが俺に聞いた。
「お前、どこで船のこと勉強した?」
「連邦軍の戦艦で飯炊きのバイトをしてたんだ。そん時にいろいろ教えてもらった」

正面真面目

「どうりで基礎がしっかりしとるわけだ」
 俺が乗ってたアレクサンドリア号では、戦闘機は自分で整備したし、機関長やメカニックと機械設計についてしょっちゅう議論した。天才少年のアーサーが話に加わるとかなり高度な技術論が展開された。

 老師は匙を机に置くと、俺の目を見て言った。
「それで、お前は何を忘れようとしとるんじゃ?」
「……」
 じいさんの言葉が槍のように俺の胸に突き刺さった。

 じいさんは俺の何を見てそう思ったんだろう。心臓が裏返しになるような痛みがして息ができねぇ。力を振り絞って言葉にした。
「忘れようなんて…してねぇ」

 フローラの淋しそうな、消えそうな笑顔が俺の瞼に張り付く「わたしのこと忘れていいから」と言って死んだフローラ

結婚式眠り

 一日たりとも忘れたことはない。

 目を覚ました瞬間、食事中、そして、眠るまでの時間。
 俺は気が付いた。俺が船に触っていない時、フローラが俺の精神を占領することに。

「忘れようなんてしてねぇ……けど、三ヶ月前、彼女が死んだ。俺が銀河一の操縦士になって、宇宙へ連れてってやるって約束したのに果たせなかった」
 フローラのことを口にした瞬間、胸に刺さっていた槍が俺を貫く音がした。苦しいのに涙も出ない。
 
 老師がポツリと言った。
「お前の穴をいつか船が埋めるだろう」と。


 それから数日が経った日のことだった。
「アステロイドベルトまで船でわしを送れ」
「あん? 俺、仮免だけどいいのか」
「ついてこい」
 じいさんはスクラップ船の間を縫うように歩いていった。その先に型落ちした小型船が捨てられていた。運転席と助手席の両方に操縦棹がついている。教習船だ。
「へぇ、じいさん頭いいな」
 これなら俺と老師のどっちが操縦していたか取締装置に撮られてもわからねぇ。

 久しぶりに船の操縦席に座った。キーでロックを解除する。閉じ込めていた心のカギが開くような感触。俺は息を思いっきり吸い込んだ。
「ほんとに操縦していいんだな」
「その代わり、警察に捕まるな。捕まったらクビだ」
「わかった」
「じゃあ、今から五分でアステロイドまで連れてけ」
「は? じいさん、五分って制限速度の倍で飛ばしても着かねぇぜ」
「それがどうした」
「警察に捕まったらクビっつったじゃねぇか」
「そうだ、何とかしろ」

 操縦桿を手にして俺は驚いた。

 この教習船、感度が普通じゃねぇ。俺に合わせたセッティングになってる。じいさんが手を入れたんだ。老師が伝説の宇宙船設計士と呼ばれる理由を俺は身体中で感じた。  

 俺はじいさんに言われたとおり、五分でアステロイドまで飛ばした。     (5)へ続く

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48ノ月(ヨハノツキ) ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」