銀河フェニックス物語<出会い編> 第十一話(2) S1を制す者は星空を制す
<第十一話のあらすじ>
ティリーは予定されていた出張の代わりに宇宙船業界の一大イベントS1プライムの応援に入ることになった。憧れのエースを前に、ティリーは就職活動を思い返していた。(1)
わたしはクロノスのレーサー『無敗の貴公子』エース・ギリアムの大ファンで女の子にしては宇宙船に詳しかった。
彼氏や男の子たちとS1レースを観ては船の話で花を咲かせた。
エースはクロノス社の御曹司で専務だ。同じ会社に入社したら会えるかも知れない。
親にも彼氏にも内緒でエントリーシートを送った。
記念受験のつもりだった。
なのに、なぜか、受かってしまった。
父親は猛反対した。アンタレスから遠く離れたソラ系に一人娘をやれるか、と。
そんな父親とのやりとりの中でわたしは気がついた。
宇宙船に関わる仕事がしたい。クロノスで働きたい。

母は、
「やりたいことなら頑張りなさい」
と背中を押してくれた。
女友だちは笑っていた。クロノス社は何万人も働く大企業。
役員のエースに会える可能性なんてゼロだよ、と。
地元アンタレスの研究所に就職が決まっていた彼氏は寂しそうだった。
「エースの近くで活躍しておいで、僕は待ってるよ」
わたしには出来過ぎた彼氏だった。
*
「ティリー君にはエースと営業部の連絡係をつとめてもらう」
メロン監督の声でわたしは我にかえった。
「エース・ギリアムです。よろしく」

エースがわたしの前に手を差し出した。
「こ、こちらこそ、よろしくお願いします」
自分の声が上ずっていた。
スラリと伸びた指。貴公子にふさわしいきれいな手だ。
その時、
「あたしはジェニファー。よろしく」

エースの隣にいた背の高い女性がわたしとエースの間に身体を割り込ませてきた。
「は、はい。よろしくお願いします」
頭を下げたわたしはエースと握手をしそびれてしまった。
香水の香りがプンと鼻につく。
ストレートの栗毛色の髪をかきあげながらわたしの前に立った。
この人、ことしのレースクイーンだ。
「あたし、エースの身の回りのお手伝いしてるから」
色っぽいというのはこういう人のことを言うのだろう。
身体にぴっちりと張りついた短い丈のワンピース。襟ぐりは大きく開き胸の谷間がくっきり見える。
整ったその顔をファッション誌から抜け出してきたようなメイクで微塵の隙もなく固めている。
少しぶ厚めの唇はまるで深紅のビロードを貼り付けたようだ。
「いやぁよろしく。俺、ティリーさんのボディーガード」

レイターがジェニファーの手を両手で握った。
まったく、この人は美人とみればいつもこうだ。
そんなレイターにエースが話しかけた。
「元気そうだな」
レイターはエースの顔を一瞥すると、
「はめられた」
と吐き捨てるようにつぶやいた。
そのやりとりを見て二人が知り合いだったことを初めて知った。
クロノス社の役員とボディーガード。
レイターはうちの社に勤めていたこともあるから、どこかで顔を合わせていても不思議ではない。
だけど、「はめられた」というのはどういう意味だろう。
「警備本部に顔出してくる」
レイターはくるりと背を向けた。
今朝からずっと彼は不機嫌だった。ジェニファーの手を握った時以外は。
*
警備対策本部はS1レースの管制塔、コントロールタワーの中にある。
正面の大スクリーンには会場見取り図が映し出されていた。
その周りにある多数の小型モニターは監視カメラの映像が数秒ごとに切り替わり、騒がしく点滅している。
レイターは不機嫌そうな顔を隠そうともせず警備本部へ足を踏み入れた。 (3)へ続く
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」
レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」
ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」
レイター「なんか、すげぇな……」