銀河フェニックス物語<出会い編> 第三話(1/8) レースを観るならココ!と言われて
第二話 緑の闇の森の向こうに
会議が始まる前、配られた社内報を興奮しながらティリーはめくった。
S1特集と題された記事には宇宙船レーサー『無敗の貴公子』エース・ギリアムの写真がふんだんに掲載されている。
非売品のお宝だわ。この会社に入社できてよかった。
わたしはエースの大ファンで写真集やブロマイドを買い集めている。呼び捨てにしてしまうけれど、エースはわたしが勤めるクロノス社の御曹司で専務、そして次期社長だ。
入社以来、会ったこともなければ、すれ違ったことすらないけれど。
「ティリーさん、S1好きなの?」
隣の席に座った研究所のジョン先輩がわたしに声をかけた。
「は、はい。大好きです」
「週末のレース見るなら、いい穴場があるよ」
とレース観戦に誘われた。
ジョン先輩は、今年三十歳。くまのぬいぐるみのような風貌から、プーさんというあだ名がある。(わたしは偉大な先輩に対してその名前で呼んだことはない)

先輩はのんびりとしたその丸顔からは想像もつかないほど頭が切れ、今年もすでに三件の特許を取っている。
研究所でも一目置かれているジョン先輩のお墨付きってどんな穴場だろうか、と期待してついていくとなぜかそこは駐機場で、フェニックス号が停まっていた。
そして、ジョン先輩はフェニックス号のタラップを上り始めた。
この船には『厄病神』が乗っている。思わず足が止まる。ジョン先輩が心配そうに振り返った。先輩の手前、ここまで来て帰るわけにはいかない。
船の入り口でジョン先輩がインターフォンのスイッチを押した。
「おーい。レイター、着いたぞ」
「あいよ」
この船の船主『厄病神』のレイターの声が聞こえた。
「もう一人お客さんだ」
「あん? お客? 女性だろな」
お調子者で女好きなレイターが顔を出した。わたしと目が合った瞬間レイターはにやりと笑った。

「ほぉ、俺のティリーさんを連れて来るたあ、ジョン・プーも気が利いてるねぇ」
ジョン先輩が驚いた顔をした。
「え、君たちつきあってたの?」
レイターの面白くもない冗談を真に受けるところがジョン先輩らしい。ジョン先輩は船の研究についてはピカ一なのだけれど、ちょっと抜けたところがある。
わたしはしっかりと否定した。

「違います! レイター、その言い方やめてって言ったでしょう」
「じゃあ俺の警護対象者のティリーさん」
「きょうは仕事じゃないわ」
「じゃあ、やっぱ俺のティリーさんでいいか」
「厄病神にそんな風に呼ばれたくないんです!」
先週、この船で出張に出かけたわたしは、環境テログループに命を狙われホテルが砲撃される、というとんでもない目にあったばかりだ。その前の出張では大規模な武力衝突に巻き込まれた。
一生にそんなに出会うはずのない出来事が立て続けに起きたというのに、会社では『厄病神の船だから仕方がない』の一言で片づけられている。
しかも、わたしをからかっては喜んでいるレイターの態度はいちいち気に障る。
「ティリーさんは宇宙船レースの観戦が好きだって言うから連れてきたんだ」
「へえ、そりゃ知らなかった」
レイターは意外だという顔でわたしをじっと見た。
「悪い?」
「うんにゃ、ガキにしてはいい趣味だ」
「ガキじゃありません」
と、否定はしたけれど、レーサーに憧れて宇宙船メーカーへの就職を希望したわたしを「子どもじみている」と友人たちが馬鹿にしたことを思いだした。 (2)へ続く
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」
レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」
ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」
レイター「なんか、すげぇな……」