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海外暮らしと日経新聞電子版――ノイズの少ない「日本への窓」



海外で日本のニュースをどう読むか

海外で暮らすようになってから、日経新聞電子版がまったく手放せなくなった。十数年前には、インターネットで無料で読める新聞を利用していた時期もあったが、それが利用できなくなり、その代わりとして見るようになったのがYahoo! Japanのニュースだった。もちろん、ニュースそのものは十分に入ってくる。しかし、どうにもノイズが多い。政治や経済、社会のニュースを読んでいたはずなのに、いつの間にか芸能人の家族の進学など、私にはどうでもよい話題まで次々と目に入ってくる。どうしてこれがニュースになるのだろう、と首をかしげることも少なくない。さらに気になるのが、注目を集めることだけを狙ったような、いわゆる「釣りタイトル」である。中身以上に刺激的な見出しでクリックさせようとする記事が並んでいると、見ているだけで気分が悪くなることさえある。数年前からは、引用されている記事に誤字脱字が目立つことも増えたように感じる。無料なのだから仕方がない、と言えばそれまでかもしれない。少し乱暴に言えば、安かろう悪かろうである。情報がないのではない。むしろ多すぎる。そして、その中から必要なものを探すこと自体に疲れてしまう。それが、有料の日経新聞電子版を購読するようになった一つのきっかけだった。

日経電子版の心地よさ

実際に日経電子版を使ってみると、記事の仕上がりにはさすがと思わされる。長すぎず短すぎず、一方に偏りすぎることもなく、それでいて必要なところでは適切に深掘りされている。読んでいて妙に煽られることもなく、安心して文章を追うことができる。日経新聞という名前から、以前の私は、株式欄を眺めたり企業の業績を調べたりする人のための新聞だと勝手に思っていた。しかし、実際はずいぶん違った。経済や企業の記事はもちろん充実しているが、それだけではない。コーヒーのおいしい淹れ方やカメラの売れ行きが出てきたかと思えば、ラーメン屋さん、本屋さん、美術館まで扱う。意外なほど話題の幅が広く、しかも生活に密着しているのである。何でも載せるわけではない。しかし、狭すぎもしない。この加減が、私にはとても心地よい。

ニュースに追い立てられない

電子版ならではの便利さも大きい。関心のあるキーワードを登録しておけば、関連する記事を優先して提示してくれる。同じキーワードから過去の記事まで遡って検索することもできる。忙しくてその場で読めない記事は保存しておけばよい。翌日でも数日後でも、時間があるときにゆっくり読める。日々流れていくニュースが、そのまま巨大な資料庫になっているのである。無料のニュースサイトでは、次から次へと目の前に出される情報を受け身で眺めていた。それに対して日経電子版では、自分が必要な情報を選び、保存し、あとから掘り下げることができる。ニュースにこちらが追い立てられるのではなく、ニュースを自分の生活のペースに合わせられる。この違いは、思いのほか大きい。

「私の履歴書」という玉手箱

そして、もう一つ忘れてはいけないのが「私の履歴書」である。私は紙の新聞の時代から、この連載を読むのが大変好きだった。書籍になったものもいくつか持っている。電子版になってからは、この楽しみがさらに増えた。過去の「私の履歴書」がアーカイブとして定期的に追加され、昔の名連載をあらためて読むことができるからである。今月なら、遠藤周作と、元国鉄総裁の十河信二の「私の履歴書」が読める。こうした人物の人生をたどっていると、単なる個人史ではなく、その人が生きた時代そのものが見えてくる。新しいニュースを読むつもりで電子版を開いたのに、昔の「私の履歴書」を見つけ、そのまま読み込んでしまうこともある。毎月、次は何が読めるようになるのだろうという楽しみもある。私にとって日経電子版は、もはや単なるニュースサイトではない。何が出てくるかわからない、まさしく玉手箱のようなものである。

海外から日本を眺める窓

海外に暮らしていても、日本のニュースを知ること自体は難しくない時代になった。インターネットを開けば、情報はいくらでも出てくる。しかし、情報が手に入ることと、日本の社会を落ち着いて眺められることとは少し違う。大量のニュースを浴び続けるより、多少お金を払ってでも、きちんと編集された記事を、自分のペースで読む方が私には合っている。日経新聞電子版は、経済を知るためだけのものではない。ラーメン屋さんから本屋さん、美術館まで、日本の日常そのものを幅広く伝えてくれる。海外で暮らしている私にとっては、日本社会との距離を保つための、かなり質のよい窓になっているのである。

日本に帰ると、あえて紙で読む

そんなふうに海外では毎日電子版を読んでいる一方で、日本へ一時帰国すると、時々無性に紙の日経新聞を買いたくなる。ホテルや喫茶店で紙面を広げ、ページをめくりながらゆっくり読む。海外では電子版を読み、日本へ帰ると、あえて紙の新聞を読む。少し不思議ではあるが、それもまた、長く海外で暮らしたからこそ生まれた習慣なのかもしれない。

5、6年前、いくつものサブスクリプションを試しに始めた。その多くはいつの間にか解約してしまったが、日経新聞電子版は今も残っている数少ない一つである。念のため付け加えておくと、私は日経新聞とは何の利害関係もなく、現在の一利用者にすぎない。それでも、これだけ長く使い続けている。結局のところ、理由は単純なのだと思う。

いいものは、いいのである。

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